相手の動き、考えを知る! 元自衛隊幹部が語る

陸海空元自衛隊幹部 緊急鼎談 北朝鮮の核で

日本と世界が「火の海」になる日

 北朝鮮の暴走が止まらない。米国の怒りは頂点に達し、この地域の緊張はかつてないほど高まっている。日本にとって、また世界にとっての最悪のシナリオとは何か。陸海空自衛隊の元幹部たちに聞いた。

米国は本気だ。いつかはやらざるを得ない――という空気が広がっている
元陸上自衛隊研究本部長(陸将) 山口昇
元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将) 香田洋二
元航空自衛隊航空支援集団司令官(空将) 永岩俊道

世界中に核保有国が出現する

永岩 これまで世界の核保有国は、〝恐怖の管理〟をしてきた。つまり、使わないことによって、互いに抑止するという理性的なルールがあったわけだが、いまの北朝鮮がこのルールを認知しているのか、また、冷静な判断ができるのかどうかは分からない。あと1年もすれば、本当に核兵器を通常兵器同様に、実戦配備しかねない恐ろしさがある。

山口 核実験に成功し、ICBMを手にした暁には、北朝鮮は自国の利益のために世界中の国々を恫喝どうかつし、自国の要求をのませることができるようになる。最悪のシナリオだ。我々は、子孫の代まで、核兵器を持ち、これを使うと公言する国を隣人とするのか。それを許すのか、許さないのかという瀬戸際にある。

香田 いまの日本ではほとんど議論されていないが、北朝鮮がこのまま本当の核保有国となり、国際社会が北朝鮮を核保有国として認めた場合、世界中の独裁国家が北朝鮮の真似まねを始める危険性が高い。世界に第2、第3の北朝鮮が登場すれば、かつてない不安定な国際情勢が眼前に広がることになるだろう。

「最後に交渉するか?」と米国は問うている

香田 米国は本気だ。ここ最近ワシントンを訪れるたびに痛感するのだが、いつかはやらざるを得ない――という空気が広がっている。

山口 その本気度と能力の向上を裏付けるのは、たとえば今年4月に米軍がシリアを攻撃したことだろう。ほぼ同時期に米軍は、アフガニスタン・ナンガルハル州の「イスラム国」の拠点を、核兵器を除けば米軍保有の最大級の大規模爆風爆弾(MOAB)で攻撃した。この攻撃も、北朝鮮への何らかのメッセージであった可能性が指摘されている。

香田 これらの示威行為は、米国がいつでも北朝鮮を攻撃できることを示している。その前に最後にもう一度、交渉するか――と米国は北朝鮮に問うているのだ。

 もしここで金正恩が核兵器とICBMの開発をやめれば、万人にとって幸せなのだが、おそらくこの希望はかなわない。

 最後の交渉で北朝鮮が「兵器の開発を続ける」と言った場合、または交渉に乗ってこなかった場合、次の交渉はない。日本中の人々が願う、「平和的な手段」はなくなるということで、本当に危機的な状況なのだ。

 戦争がいいのか悪いのか、弾が飛んでくるのかこないのかといったレベルの話はとうに過ぎている。この本質を見極めたうえで、日本はこの先どうするのかということを考えるべき時期に入った。

日本が攻撃された場合

永岩 概して日本人は、戦争は起こらないのではないかという希望的観測から脱することができなくなっている。しかし、米国はそうした物差しで動いていない。

山口 切羽詰まった状況になると、北朝鮮は必ず「ソウルを火の海にする」と脅す。朝鮮戦争の時もそうだったように、いざとなれば、韓国は自国の存続のために立ち上がるはずだ。あの国にはそうした国だという安心感が持てる。それでは、日本はどうか。

永岩 問題はそこだ。遠目に今の状況を傍観しているように思えてならない。そこを懸念しているのだ。

 そもそも、現段階でノドンやテポドンは日本を射程に置いていることを忘れていないか。未熟なものであっても、核が完成した途端に日本も核兵器で攻撃されるという脅威にさらされる。核兵器でなくとも十分な脅威だ。攻撃されたとき、日本は自国をどうやって守るつもりなのか。その議論が決定的に欠けている。

香田 実際に攻撃されると、それまで〝左回旋〟で売っていた反体制的なメディアまで、急に、「北朝鮮を攻撃せよ!」と言い出すのではないか。

山口 同感だ。普段、何も考えていない人ほど、何かあると極端に反対側に振れるものだ。

永岩 また、多くの日本人はもうひとつピンときていないようなのだが、ICBMが完成し、北朝鮮によって米国本土が攻撃されかねないとなれば、なぜ日本を守る必要があるのかというディカップリングの議論が米国内で起こる危険性も高い。日米同盟にヒビが入れば、米国は日本を守ってはくれない、米国はもう核の傘をさしてくれないかもしれないのだ。日本はそうしたあたりもまるで議論していない。

山口 だからこそ、「核武装した北朝鮮との共存」という事態を許してはならない。日米韓をはじめとする国際社会の覚悟が問われている。

(この鼎談の全文は9月8日発売の『中央公論』10月号に掲載されています)

プロフィル

山口 昇(やまぐち・のぼる)
1951年、東京都生まれ。74年、防衛大学校卒業、陸上自衛隊入隊。88年、フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。ハーバード大学オリン戦略研究所客員研究員、在米大使館防衛駐在官、陸上自衛隊研究本部長(陸将)などを経て2008年退官。現在は国際大学教授、笹川平和財団参与。

香田 洋二(こうだ・ようじ)
1949年、徳島県生まれ。72年、防衛大学校卒業、海上自衛隊入隊。海幕防衛部長、護衛艦隊司令官、統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官(海将)などを歴任。2008年退官。09年より、ハーバード大学アジアセンター上席フェローに招聘しょうへいされる。

永岩 俊道(ながいわ・としみち)
1948年、鹿児島県生まれ。71年、防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊。戦闘機パイロット。航空幕僚監部防衛部長、西部航空方面隊司令官、航空支援集団司令官(空将)などを歴任。2006年退官。07年ハーバード大学アジアセンター上席フェロー。現在、永岩アソシエイツ代表。

 ※山口氏、香田氏、永岩氏は、「ヨミウリ・オンライン」と月刊『中央公論』が提供する教養講座「大手町アカデミア」に登場し、講座「国防は古典に学べ」(全3回)で徹底討論を展開します。

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