1930年代の台頭期を彷彿 「ファシズムの再来」

トランプ時代「ファシズムの再来」
~2020年「再選」後も続く可能性~

1930年代の台頭期を彷彿(【地球コラム】時事通信より)

パリの第1次大戦終結100年記念式典に出席するトランプ米大統領(左から2人目)。右隣はメルケル独首相とマクロン仏大統領=2018年11月11日、パリ【AFP時事】

パリの第1次大戦終結100年記念式典に出席するトランプ米大統領(左から2人目)。右隣はメルケル独首相とマクロン仏大統領=2018年11月11日、パリ【AFP時事】

1千万人以上の犠牲者を出した第1次世界大戦(1914~18年)の終結から今年で100年。この間、各分野のグローバル化が進み、国際協調が不可欠な時代を迎えているにもかかわらず、パリで11月11日に行われた記念の平和フォーラムでは、主要国の首脳らが世界を分断する「ファシズムの再来」への危機感を相次いで表明した。懸念の源の一つは、トランプ米大統領が掲げる「自国第一」の排他的な外交姿勢だ。2020年の再選を目指し、国家主義、重商主義、保護主義を強化するとみられているトランプ氏は、ファシズムをよみがえらせるのだろうか。

(時事通信社外信部編集委員・水本達也)

◇ ◇ ◇

第1次大戦の戦没者追悼式典が行われた11日のパリ、気温は約12度。60カ国以上の首脳らがマフラーやコートに身を包み、屋外での行事に臨んだ。この中でもひときわ目立っていたトランプ氏の出席は、6日の米中間選挙の直後でもあり、今後の「トランプ外交」を占う上で注視された。

トランプ氏は9日にパリ入りすると、フランスのマクロン大統領が米国抜きの「欧州軍」創設を提唱したことに「非常に侮辱的だ」とツイート。多国間の連帯を訴えたいマクロン氏との会談冒頭では、憮然とした表情で、安全保障に関わる欧州の負担増を求めた。

トランプ氏の振る舞いに驚きはない。中間選挙で野党の民主党に下院を奪還され、厳しい政権運営を余儀なくされる同氏が「困難に直面すると、引き下がらずに『倍返し』する性格」(米外交問題評議会のジェームズ・リンゼー上級副会長)を外交面でも発揮するのは自明だ。

パリ平和フォーラムで演説するマクロン仏大統領=2018年11月11日、パリ【AFP時事】

パリ平和フォーラムで演説するマクロン仏大統領=2018年11月11日、パリ【AFP時事】

一方、式典の後に開かれた平和フォーラムでは、欧米のきしみが改めて浮き彫りになった。マクロン氏は「ナショナリズムと人種差別主義の再来で、われわれは弱体化している」と国際社会で醸成されつつある排外主義を批判。ドイツのメルケル首相も「国際的な協力が疑問視され、相互の関係や約束事を無視してもよいという風潮が再び生まれつつある」と警戒感をあらわにした。

トランプ政権は17年1月の発足以来、「米国第一」を大義名分に、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」や環太平洋連携協定(TPP)などの国際的な合意から一方的に離脱。さらに移民や難民、イスラム教徒に対するトランプ氏の排他的な姿勢は、世界中の極右勢力を勢いづけている。

第1次大戦で連合国の勝敗を決定づけたのは、米国の参戦だった。グテレス国連事務総長は、その米大統領がもたらすファシズム的な思考様式を念頭に「今日の政治と社会の偏向は、基本的人権と自由、民主主義の原則に危機をもたらす。(ファシズムが台頭した)1930年代と同様のことが今起きている」と警鐘を鳴らした。

ヒトラーの「言論統制」との類似性

ナチス・ドイツ総統ヒトラー(左)とエバ・ブラウン=撮影日不明、ベルリン【AFP時事】

ナチス・ドイツ総統ヒトラー(左)とエバ・ブラウン=撮影日不明、ベルリン【AFP時事】

もちろん20世紀初頭のファシズムが、21世紀のポピュリズムと全く同じ現象だとは言えないだろう。

だが、左派的政治姿勢で知られる映画監督マイケル・ムーア氏は、トランプ政権誕生の背景を描くドキュメンタリー映画「華氏119」で、ナチス独裁者アドルフ・ヒトラーの演説映像にトランプ氏の声をかぶせる場面を挿入し、二つの「イズム」の類似性に危機感を示した。例えば、ファシズムの特徴の一つとして「言論統制」があるとすれば、トランプ政権が中間選挙直後、CNNのジム・アコスタ記者のホワイトハウスの入館証(プレスパス)を取り上げたことはその怖さを想起させる。

経緯はこうだ。トランプ氏は中間選挙の翌日の11月7日、記者会見で、ロシア疑惑について質問しようとしたアコスタ氏に「もうたくさんだ。マイクを置け」と要求。その際にアコスタ氏が、マイクを取り上げようとした女性スタッフを手で制したことを問題視し、入館証を没収処分にした。

アコスタ氏はこれに先立ち、トランプ氏が中間選挙の終盤戦で中米からの移民キャラバンを「侵入者」と呼んで「悪者扱いしている」と異議を申し立てている。トランプ氏は質問には直接答えず、「私に国を運営させてくれ。あなたはCNNでうまくやれば、視聴率が上がるだろう」と一蹴した。

サンダース大統領報道官は、ツイッターで「(アコスタ氏は)女性に手を上げた。許さない」と非難。これに対し、一部の米メディアは、ホワイトハウスが公開した映像について、アコスタ氏が暴力的に振る舞ったように改変された可能性があると伝えている。

ホワイトハウスの記者会見で質問する米CNNテレビのジム・アコスタ記者(手前左)とトランプ大統領(右)=2018年11月7日、ワシントン【EPA時事】

ホワイトハウスの記者会見で質問する米CNNテレビのジム・アコスタ記者(手前左)とトランプ大統領(右)=2018年11月7日、ワシントン【EPA時事】

奇妙だったのは、トランプ氏が記者会見でいつもは無視しているアコスタ氏を指したことだ。想像をたくましくすると、同氏を「無礼なやつ」と罵倒し、相手を怒らせて「国民の敵」をつくり出したかのようにも見える。

その後、首都ワシントンの連邦地裁は処分の効力を停止する暫定命令を出し、アコスタ氏は仕事に戻ることができた。

一方的ツイート4万回、記者の質問は排除

記者会見で、オバマ米大統領(左)の左手を持ち上げるキューバのラウル・カストロ国家評議会議長=2016年3月21日、ハバナ【AFP時事】

記者会見で、オバマ米大統領(左)の左手を持ち上げるキューバのラウル・カストロ国家評議会議長=2016年3月21日、ハバナ【AFP時事】

筆者は、アコスタ氏がキューバのラウル・カストロ国家評議会議長(当時)に対して「なぜ、政治犯を釈放しないのか」と質問する場面を、息を呑んで見守っていたことがある。キューバ人の父を持つアコスタ氏は、「国のために民主主義を目指すのか」ともただした。16年3月、オバマ大統領(同)の歴史的なキューバ訪問を同行取材した時のことだ。

オバマ、カストロ両氏は59年ぶりとなる首脳会談を実現し、共同記者会見を行った。この時、「キューバ独裁政権の議長」が米メディアの質問に応じるのかが焦点の一つだった。アコスタ氏に続いて別の米メディアのベテラン女性記者が、人権問題について質問すると、カストロ氏が段々といら立ってくるのが分かった。ここで助け舟を出したのは、傍らのオバマ氏だった。

「(質問した記者は)米国で高く評価されているジャーナリストの1人で、ほんの少しの答えで感謝すると思う」と声を掛け、カストロ氏の言葉を引き出したのだ。

オバマ氏は在任中、必ずしもメディアと友好関係を保っていたとは言えないが、少なくとも自らの行動や言動への説明責任の重要性は十分すぎるほど認識していた。

米ニューヨーク市マンハッタン中心部に登場したトランプ米大統領の「大統領ツイッター図書館」=2017年6月16日、ニューヨーク【時事通信社】

米ニューヨーク市マンハッタン中心部に登場したトランプ米大統領の「大統領ツイッター図書館」=2017年6月16日、ニューヨーク【時事通信社】

一方、トランプ氏はツイッターを駆使して、歴代大統領とは比べものにならいメッセージを発信してきた。トランプ氏のフォロワーは約5570万人。09年3月のスタートから11月16日現在まで、3万9690回のツイートを発信した。単純計算すると、月約340回となる。

しかしこれらのツイートの内容について記者が細かく質問できる機会は事実上なく、トランプ氏の時にあいまいで一方的な主張がチェックもなく拡散している。

アジアへも「保護主義」、同盟国に過大な圧力

共同記者発表を終え、言葉を交わす安倍晋三首相(右)と米国のペンス副大統領=2018年11月13日、首相官邸【時事通信社】

共同記者発表を終え、言葉を交わす安倍晋三首相(右)と米国のペンス副大統領=2018年11月13日、首相官邸【時事通信社】

東アジアと欧州では様相が異なるものの、日本や中国などは高関税を振りかざすトランプ氏の「保護主義」への対応を迫られている。安倍政権は来年早々から、トランプ政権との物品貿易協定(TAG)交渉に直面することになる。

貿易不均衡を是正するためのTAGは、9月の日米首脳会談で合意されたものだが、日本がこれまで拒否してきた自由貿易協定(FTA)交渉の色彩を帯びている。11月12日に来日して安倍晋三首相と会談したペンス副大統領は共同記者発表で、「(米国は対日貿易で)障壁に直面している」と不満を表明。「協定(TAG)は物品だけでなくサービスも含む重要分野の条件を整備する」と明言し、物品だけを交渉対象にするとしている日本との溝を浮き彫りにした。

日本側交渉者の1人は「米側の狙いは農産品ではなく、自動車。何とか19年内に交渉のめどをつけたい」との考えを明かした。20年に入れば11月の大統領選を控えてトランプ氏の要求が高まり、双方が受け入れ可能な着地点を見いだすのは不可能とみるからだ。

APEC首脳会議に出席した各国・地域の首脳ら=2018年11月18日、ポートモレスビー【AFP時事】

APEC首脳会議に出席した各国・地域の首脳ら=2018年11月18日、ポートモレスビー【AFP時事】

欧米各国は世界恐慌が起こった1929~30年、自国産業を守るため高関税などの保護主義政策を取り、国際協調体制を崩壊させていった。今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、米中の貿易をめぐる対立で初めて首脳宣言を発表することができなかった。

トランプ氏は経済と安全保障を結び付けて相手側に圧力を掛けるのも辞さないため、一歩間違えれば日米同盟の土台が揺らぐ可能性もある。

全米40%の「無自覚な同調」が再来醸成

中間選挙に向けて支持者に演説するトランプ米大統領=2018年11月7日、インディアナ州フォートウェイン【AFP時事】

中間選挙に向けて支持者に演説するトランプ米大統領=2018年11月7日、インディアナ州フォートウェイン【AFP時事】

ヒトラーは第1次大戦後のドイツでベルサイユ体制の打破やユダヤ人排斥を掲げて独裁政権を樹立した。国際連盟を脱退し、「生存権」の拡張を理由に近隣への侵略を開始した。京都大学の佐藤卓己教授の『ファシスト的公共性』(岩波書店)によると、第2次大戦前のドイツ人は独裁政権下の息苦しさは感じず、「自由だと思っていた」という。そして「恐慌期の失業者を軽減させたヒトラーの経済的成功や、それに続いた外交的勝利」を正常な日常として受け止め、歓迎した。

トランプ氏もイスラム教徒や移民の排斥を主張し、「米国第一」を旗印に高関税や制裁を用いて同盟国を含む関係国を屈服させようとしている。全米の約40%の岩盤支持層がトランプ氏の仕事ぶりに満足している。ファシズムが一般市民の無自覚な同調の中で醸成されるとしたら、その「再来」は現実味を帯びているかもしれない。

2019年1月3日掲載

 

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