外務省のやっている核戦争のリスクを高める政策を憂慮する科学者同盟

外務省のやっている核戦争のリスクを高める政策
憂慮する科学者同盟 グレゴリー・カラキーさんに聞く(平和フォーラム NEWSPaper より)

プロフィール
米・中両国の学会、政府、専門家団体の間の交流を推進する仕事をしてきた。憂慮する科学者同盟(UCS)に2002年に入って以来、軍備管理及び宇宙の安全保障に関する米中の専門家の間の対話を推進、実施に焦点を合わせてきた。専門領域は、中国の外交・安全保障政策、中国の宇宙計画、国際軍備管理、異文化間交流

─憂慮する科学者同盟(UCS)とはどんな団体ですか。
マサチューセッツ工科大学(MIT)などの科学者によって1969年に設立されました。米軍による科学の使われ方に反対、特に、ベトナム戦争でのナパーム弾の使用や、核兵器使用の脅しに反対してきました。この40年間ほどの間に、ごく少数の科学者の集まりから、百数十人のスタッフを抱える組織に発展しました。年間予算も3千2百万ドルほどになっています。このお金は、すべて個人からの寄付によって成り立っています。
活動の範囲は環境問題も含めて広がっています。とくに気候変動、エネルギー問題、食品、森林保護、クリーンな自動車技術などです。さらに、政府で仕事をする科学者の独立性を保ち、ハラスメントや脅迫がないようにすること、研究報告書を介入などなく公表できるようにすることなどです。
私自身は世界の安全保障プログラムで核兵器の問題に関連した仕事をしています。これにはミサイル防衛や宇宙の安全保障の問題も関連しています。私がこのグループ内でやっていることは、中国プロジェクトと呼ばれるもので、米中間の軍備管理に関する対話を奨励するものです。

─オバマ政権による「核態勢見直し」(NPR)の策定時に、秋葉剛男公使(当時・現外務省事務次官)らが核兵器の削減に反対し、沖縄への核貯蔵施設の建設にも肯定的な発言を米国議会諮問委員会で行っていたことを報道させるまでの経緯はどのようなものでしたか。
2009年の3月、秋葉公使が証言をした日から1週間も経たないうちに、UCSのメンバーのジョン・スタインバーガー、メリーランド大学教授から話を聞きました。彼は国防省で仕事をしたことがあり、証言の内容について教えてくれました。ワシントンの軍備管理関係者の間でちょっとしたセンセーションを引き起こしました。こういう話は以前にもありましたが、今回は初めて、外務省から公式に、公共の場所で提示されたからです。その後8年間に渡って私達は調査を続け、ごく最近になってこの提出された文書類のコピーを議会委員会のメンバーから入手したのです。

─オバマ前大統領が「核なき世界」をプラハ演説で唱えましたが、日本政府はそれを裏で牽制したのでしょうか。
日本の外務省はオバマの努力に対して反対しました。オバマ大統領は核兵器の先制不使用宣言を検討しました。最終的にはこれをしないことになりましたが、その理由の一つが日本の外務省からの反対でした。オバマ大統領は安全保障政策上、核兵器の役割低減を望みました。核の数を減らすということ、それに種類を減らすことです。しかし日本の外務省はその両方に反対し、アジアにおける安全保障戦略の中で、米国の核兵器の役割を増大させるのを望んでいることを明確に示しました。

─それは日本が、核抑止力を無くてはならないものだとして、そう米国に要求しているからでしょうか。
このメモの冒頭にあるように、2月17日に中曽根弘文外務大臣がクリントン国務長官に、核兵器が日米安全保障態勢の中核になるように約束を求めています。さらに、その1週間後、麻生太郎首相がオバマ大統領に、同じ保障を求めました。さらに、このメモが示すのは、国務長官も大統領もその保障を与えたということです。(肩書きは全て当時)
2月25日、秋葉公使はこのメモを議会委員会に提示し、外務省が何を望んでいるかを詳細に、明確にしたのです。重要なことは、米国の戦術核をアジアに再配備することを日本が望んだということです。アジアには現在、米国の核兵器は配備されていません。この事は、米国の核兵器の役割を非常に大きな形で増やすということになります。

─アジアの安全保障上、こうした日本の要求が必要なことだと思われますか。
いいえ。核抑止という意味でも不必要です。もしも、オバマ大統領が核兵器の先制不使用を宣言していたら、米国に対する攻撃だけでなくその同盟国に対する攻撃も関連する話になりますが、先制不使用政策の下でも、日本は核の傘の下にいることは変わりません。さらに、核抑止は、ずっと少ない数の戦略核兵器(潜水艦で太平洋に配備)で維持することができます。アジアに持ち込む必要はありません。

─トランプ政権のNPRに日本の要求が反映されているのでしょうか? 
秋葉メモとNPRを見比べれば、トランプ政権が、外務省の要求に応じて、そのすべてを与えていることが分かります。オバマは核兵器を非常時のみ航空機に搭載すると約束をしただけでした。トランプ政権の方は、米国の戦術核兵器をアジアに再配備しようとしています。これは、日本の外務省が要請したことです。ですから、河野太郎外相は、高く評価されたわけですね。

─安全保障の観点では、日本の中では、中国、北朝鮮が脅威だと宣伝されています。米中間では脅威とされる状況にありますか。
中国が日本に対する脅威かということに答えるには、米国と中国の関係だけではなく、日中間の関係も見ていかなければなりません。もしも、米中間で戦争が起きれば、日本にある米軍の基地が使われます。中国からは、日本にある基地に攻撃をかけなければなりません。そういう意味では、中国は脅威であると言えます。
中国は核兵器を持っていますから、戦争時に何が起きるかということは誰にもわかりません。ですから、日本の人々が、核抑止が必要であると思うことは理解できます。しかし、先程も言いましたが、米国は先制不使用政策のもとでも核抑止を提供することができます。そして、ずっと少ない戦略核兵器で、アジアに配備する必要もなくそれができるのです。私達の団体では、外務省が要請していることは、核戦争の可能性を高めるものだと考えます。米中間の戦争が核戦争になってしまう可能性を高めるのです。その結果、日本が核兵器の攻撃を受けることになります。外務省がやっていることは、核戦争のリスクを高めることなのです。馬鹿げた政策と言えます。元国防長官のウィリアム・ペリーは、この問題についての論文で、同様のことを言っています。

─朝鮮半島の南北首脳会談、米朝首脳会談も行われました。
外交というのはいつでも、行われること自体が良いものです。対話をするという事は常に良いことです。より多くの人が、より頻繁に話をすることが良いのです。私は基本的にこれらの対話をいいものと捉えています。この結果がどうなるかは、待ってみる事しかできません。

─朝鮮戦争の終結が課題になっています。
一つ、忘れてはならないのは、休戦協定に署名したのは政府ではないということです。3つの軍隊、すなわち、中国の人民解放軍、朝鮮人民解放軍、国連軍司令部の間で署名されました。米軍は国連軍を支援する立場です。国連軍後方司令部の基地は今でも日本にあります。国際法上、非常に複雑な状況で、これを解いていく交渉は長くかかるものになります。

─日本では、地上配備型の新たな迎撃ミサイルシステム「イー ジス・アショア」を秋田と山口に置く計画です。
ミサイル防衛は、冷戦時代の初めからあるものです。米ソともミサイル防衛にお金をつぎ込んできました。1960年代後半に両方で、これはいい考えではないという理解に達しました。結果的にミサイル防衛を制限する弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)に調印しました。その理由はこう言うことです。ミサイル防衛を6フィートの壁と考えてみます。敵は7フィートの梯子を作ります。8フィートの壁を作れば、敵は9フィートの梯子を、10フィートの壁には11フィートの梯子を、とエスカレートするのみです。防衛の側を高くするよりも、攻撃側を高くするほうが、はるかに容易・効果的なのです。
ミサイル防衛の技術は現在まで、証明されたものではありません。特にパトリオットシステムは、効果を持つことを示すことができていません。実際に使われたどのシーンを見ても、効果があったと判定できません。ミッド・コースミサイル防衛は、ブッシュ政権がアラスカに配備しましたが、実験の半分ほどが失敗しています。実験自体、実戦をシミュレートしたものではありません。サードとイージスは、もしかするとより効果的かもしれません。しかし、「梯子問題」は残ります。ミサイル防衛を進めれば、敵側の攻撃力の増強を呼ぶことになり、問題の解決にはなりません。実際には状況を悪くするわけです。

─沖縄の基地自体、安全保障上それほど重要でないのではないでしょうか。それにもかかわらず、日本はアジア地域への米軍の核配備を求めているのでしょうか。
秋葉メモの中で、手書きの書き込みのあるものがあります。議会委員会のスタッフが、秋葉公使とシュレシンジャー元国防長官の会話をメモしたものです。(核情報:http://kakujoho.net/npt/okinawa_nw.html参照)その会話のなかで、秋葉さんは沖縄の米軍基地に核兵器貯蔵庫を作ることに同意しているようです。これは日本の非核三原則に反するものと理解します。

─日本政府を変えていくために日本の団体としてどのような方法があると思われますか。
私達の調査した情報を活用していただいて、みなさんの声に反映させていく。また私達の方でも米国で声を上げる必要があります。政治的な圧力、労働組合や学生、その他の社会的な団体の声の力を使って、もっと情報を広めなければなりません。そうすれば、市民の考え方を変えていくことになるでしょう。

インタビューを終えて
カラキーさんの冷静な物言いは、真に説得力がある。日本政府が、米国オバマ政権の核軍縮に反対していたことは確実だ。「重要なことは、米国の戦術核をアジアに再配備することを日本が望んだということ」「外務省がやっていることは、核戦争のリスクを高めること」との指摘を、唯一の戦争被爆国日本は、しっかりと受け止めたい。そのことが、憂慮する科学者同盟の科学的見地だから。
(藤本泰成)

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