2017年3月27日
2018年度用教科書検定に関わる平和フォーラム見解
フォーラム平和・人権・環境
(平和フォーラム)
共同代表 川野浩一
福山信劫
藤本泰成
3月24日、文部科学省は2018年度から実施される「特別教科・道徳」の使用教科書および主に高校2・3年用教科書の検定結果を公表した。小・中学校で初めて正式の教科となる「道徳」は、小学校全学年で8社から24点(66冊)が合格し、2018年度から使用されることとなった。
検定では、誤記や事実誤認も含めて244の修正意見が付いたが、指導要領の細かな項目を反映しているかなど細部にわたるものが多く、「字面だけで判断している」との批判も聞こえる。パン屋を和菓子屋へ、公園を和楽器店へなどのように、教育基本法を意識した「わが国の郷土と文化」重視の視点が強調されている。また、文科省が使用してきた教材を全社が引用するなど「横並び感」が強まっている。道徳を教科とし評価することに、国家への忠誠を求め内心に踏み込んだ戦前の「修身」の復活と懸念されてきたが、多様性を否定する検定は、懸念をより深めることになっている。
同時に発表された、高校教科書の検定では、集団的自衛権の行使容認と安全保障関連法の記載に対して、行使の前提となる「存立危機事態」「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使」という「新3要件」の記載を求めている。また、2015年末の「慰安婦」問題の日韓合意や領土問題での政府見解の記載、南京事件の犠牲者数については「通説的見解がない」と記載するよう検定意見がついた。2014年1月の検定基準の改定に伴って「政府見解」に基づく記載が強く意識されている。
この教科書検定に先立つ2月14日、2020年度から順次実施される小・中学校分の「学習指導要領」が発表された。「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の導入を柱として、知識や技能の獲得を中心とした現在のあり方から一歩進んで、自ら学ぶ姿勢を大切にする方針が打ち出された。個性重視の教育を中心に据えているが、しかし、今回の教科書検定のあり方は、多様な価値観を認めそれぞれの個性を重視し、自由で主体的であろうとする教育からはほど遠い。
世界の各地で紛争が絶えず、貧困と格差が蔓延し難民問題が各国を席巻する「不確実」で「不寛容」な世界にあって、多様な意見を認め合い、多面的に世界を捉え、主体的に物事を判断していく力は重要であり、そのことが現実の問題を解決し未来を切り拓くものであると考える。
今回の検定がつくり出した道徳の教科書は、型にはまった常識的な価値観を強要するものであり、高校の歴史教科書などは日本政府の一方的なものの見方をすり込むものとしか見えない。「いじめは悪い」と教えられ、「年寄りには席を譲る」と教えられて、人間は成長するだろうか。「尖閣諸島(釣魚群島)や竹島(独島)は日本の領土」と一方的に教えられて、中国や韓国などと一緒にアジアの未来を切り開けるのだろうか。一定の価値観や歴史観、規範意識を国が押しつけることの危険性を、私たちは歴史の中で学んできたはずではないか。国定教科書が廃され教科書検定制度に変更されたことの意味を考え、そこにもう一度立ち戻って教科書とは何か、教育とは何かを考えなくてはならない。
平和フォーラムは、教科書検定制度の弾力化・透明化を求め、主権者としての個人の自立を求める民主教育の確立に向けて、今後も粘り強くとりくんでいく。