AIに核のボタンを持たせたら、「フラッシュウォー(核戦争)」

AIに核のボタンを持たせたら「フラッシュウォー(核戦争)」になった

【この記事でわかること】
・AIに核保有国として仮想戦争させると?
・核戦争を回避したAIの開発元は?
・制御不能の「フラッシュウォー」とは

人工知能(AI)に「核のボタン」を握らせると何が起きるのか。英キングス・カレッジ・ロンドンのケネス・ペイン教授が2月に公表したシミュレーション(模擬実験)結果は、安全保障に関わる専門家らに衝撃を与えた。

21回の対戦ゲームのうち3回が核戦争に

実験では米アンソロピックと米オープンAI、米グーグルのAIに核保有国の指導者の役割を演じさせた。互いの行動を先読みしながら領土を奪い合う対戦ゲームを繰り返したところ、21回の対戦のうち3回が全面的な核戦争に発展した。

核兵器の発射手順書などを納めた米軍のブリーフケース(2017年、米ワシントン)=ロイター

互いが核の脅威をちらつかせる中、核戦争を回避したのはアンソロピック製だけだった。オープンAI製は決断を迫られると急激に攻撃性を高めた。グーグル製は相手国との駆け引きの過程で民間人への核攻撃を示唆した。

表向きは相手国に友好的な態度を示しつつ、裏では攻撃準備を進めるといった振る舞いもみられた。「計算高いタカ」「ジキルとハイド」「マッドマン」。ペイン教授は実験結果をまとめた論文の中で3社の製品にあだ名を付け、AIに大量破壊兵器を委ねる危うさを強調した。

人間を上回る認知と判断スピードを持つAIは戦争の姿を一変させた。米国防総省は強力なAIを使い、人手がかかっていた軍事標的の選定や作戦計画の立案を自動化した。ベネズエラ奇襲やイランとの軍事衝突でもAIを採用したとみられている。

一部のテクノロジー企業は制約のないAIの軍事利用に懸念を示す。アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は完全自律型の兵器について「適切な安全装置を伴って配備される必要があるが、現時点ではそのような装置は存在しない」と言い切る。

核保有国の多くは規制に反対

より恐ろしいのは、米国の対立国までもが強力なAIを実戦に使い始める事態だ。AI同士が主導する戦争は判断の速さが趨勢を決める。人間が制御できないスピードで攻防がエスカレートする「フラッシュウォー(瞬間的戦争)」に至る可能性がある。

世界の覇権を争う2つの超大国はかつてはそのリスクを十分に認識していた。バイデン前米大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は2024年11月にペルーのリマで開いた首脳会談で、核兵器の使用決定において人間の管理を維持する必要性を確認している。

トランプ氏の米大統領復帰後、状況は様変わりした。

国連総会で軍縮問題を扱う第1委員会が25年に同様の提案を採決した際には、米国など8カ国が反対票を投じた。京都産業大学の岩本誠吾教授は「核保有国などが自らの手足を縛られることを嫌った結果だ」と解説する。

「AIはしばしば、実行するつもりがない行動を装った」。仮想戦争を実験したペイン教授は論文の中でAI同士の腹の探り合いが疑心暗鬼を生み、対立に拍車をかけたと解説している。互いを出し抜こうとしてより危険な賭けに手を出してしまうAIは、人間社会の映し鏡でもある。

2026年4月7日 2:00[日経新聞会員限定記事]

 

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