5月31日、札幌地裁(谷口哲也裁判長)は、道内の住民ら約1200人が北海道電力(以下北電)に対し、泊原発の廃炉、運転の禁止、使用済み核燃料の撤去を求めた訴訟で、一部原告の主張を認め運転差し止めを命じる判決を下しました。
判決は、安全かどうかの立証責任は、本来原告が担うべきだが、安全性に関する資料を北電が所持していることから北電側に立証責任があるとして、北電はこの責任を尽くしているとは言えないとしました。その上で、防潮堤の液状化や沈下の可能性、今後建設するとしている新しい防潮堤の構造などを北電は明らかにせず、現状では津波を防ぐことのできる防護施設は存在せず、設置基準を満たしていないと結論づけています。電力会社側へ安全への立証責任を求めることは当然と言えます。
判決は、原発事故が半径30キロ圏内の住民への健康被害を引き起こす可能性があるとして、その範囲に住む住民の人格権の侵害を認定しています。人格権は日本国憲法13条の幸福追求権によって認められている基本的人権の一つであり、原発周辺で生活する住民にとって、基本的人権を蹂躙された状態で、原発が再稼働すること自体あってはなりません。原水禁は、原発事故の可能性を適格に認定し、人格権を侵害する可能性を認めた裁判所の姿勢を強く支持します。
北電は、規制委員会の審査が終了していないことを理由に、審理の引き延ばしを図ってきました。提訴から10年以上たって裁判が長期化した原因が、原子力規制委員会の審査を理由に、安全性を具体的に立証しようとしない北電側にあることについても触れ、「これ以上審理を続けることを正当化するのは難しい」としました。中部電力浜岡原発や北陸電力志賀原発など、提訴から10年を超える裁判が存在します。自ら立証しようとせず規制委員会の審査に託す電力会社の思惑をきびしく糾弾した判決は、今後の原発訴訟に大きく影響を与えるもので、司法の役割を果たしたものとして、原水禁は大きく評価します。
政府は、同日示した「骨太の方針」において「原子力を最大限活用する」と明記しました。岸田政権がうたう「新しい資本主義」のグランドデザインと実行計画案においても、原子力を最大限活用するとし、今後10年間のエネルギー政策についてのロードマップを取りまとめるとしています。
原水禁は昨年、新たなエネルギー社会の展望を描く「脱原発・脱炭素社会の構想」をまとめました。再生可能エネルギー推進と脱原発の国際的潮流に向き合い、社会全体の構造的な転換を図る必要があると考えます。
政府・北電は、上級審での判決確定まで強制力はないものの、今回の運転差し止めという司法の判断を重く受け止め、安全性の課題の残る泊原発は直ちに廃炉とし、再生可能エネルギーの推進に転換することを強く求めます。
2022年6月1日
原子爆禁止日本国民会議
共同議長 川野浩一
〃 金子哲夫
〃 藤本泰成