重要影響事態・存立危機事態・武力攻撃事態

重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態

武力攻撃・存立危機事態法 

※これらは「事態」の解説として掲載してものであり、肯定するものではない

平成15年法律79号。正式名称武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」。2003年有事関連3法の一つ,「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(武力攻撃事態対処法)として成立し,2015年改正,名称変更した。日本の平和と独立,国民の安全を守ることを目的とし,他国からの武力攻撃への対処に関して,基本理念,政府や地方公共団体などの責務,手続きなどを定める。「武力攻撃事態等」とは,実際に武力攻撃が発生した事態および発生が切迫している事態(武力攻撃事態)と,武力攻撃が予測されるにいたった事態(武力攻撃予測事態)の両者をさす。また 2015年の改正で追加された「存立危機事態」とは,日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃により,日本の存立が脅かされ,国民の生命,自由,幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態とされ,これへの対処を認めることにより集団的自衛権行使を可能にしている。武力攻撃事態等や存立危機事態が生じた場合,政府は対処基本方針を決定し,対策本部を設置する。対処基本方針には,武力の行使が必要な理由も記載される。自衛隊防衛出動を命ずる際は,原則として国会の事前承認を要する。ほかに,地方公共団体に対する指示権や代執行権(→代執行)など内閣総理大臣の権限強化,自衛隊の行動の円滑化,アメリカ軍への支援などについて規定し,国民にも必要な協力をするよう求めている。(→有事法制

重要影響事態と存立危機事態

2021年03月28日14時29分

重要影響事態と存立危機事態 安全保障関連法は、放置すれば、日本の平和と安全に重要な影響を与える状況を重要影響事態と定義。米軍など他国の軍隊を後方支援できる。地理的制限はなく、弾薬提供や戦闘作戦のため発進準備中の航空機への給油も可能。

【図解】安保関連法に基づく新たな任務(2016年9月)

存立危機事態は、密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされるなどの事態。弾道ミサイル防衛中の米軍を攻撃する相手への、自衛隊による反撃などを念頭に置く。集団的自衛権行使が可能になる3要件の一つで、武力行使には併せて「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使」の要件を満たす必要がある。

重要影響事態

重要影響事態安全確保法7は、わが国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(「重要影響事態8」)に際し、後方支援活動等を行うことにより、日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、わが国の平和及び安全の確保に資することを目的としている。同法では、重要影響事態における支援対象や対応措置について以下のとおり定めている。

放っておいたら日本への武力攻撃の恐れがあるなど、日本の平和と安全に重要な影響を与える状況。日本周辺に限っていた「周辺事態」に代わる概念。日本が武力攻撃を受けた「武力攻撃事態」や、他国への攻撃でも日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」に比べて定義があいまいで、拡大適用の恐れも指摘されている。

存立危機事態

武力攻撃事態

台湾危機と日米の対応(後編)
― 日本はどう準備・対応すべきか? ―

笹川平和財団 客員研究員
中村 進

前編においては、現在の台湾情勢に対するアメリカの対応についての懸念と事態のエスカレーション・コントロールという観点から考察した。これに続いて、本稿では台湾危機を念頭においた日本の対応とそのための準備について考察する。

2 日本の事態対処法制

諸外国における軍隊の行動は、平時から戦時に至る事態に対して横断的に対応することが一般的である。これに対して日本の自衛隊の行動は、類型と権限を行動別に列挙して対応する法律主義を採用している。いわゆるポジティブ・リスト形式[1]である。そして、日本の平和と安全にかかわる事態に関しては、生起した事態によって対応を区分する「事態対処法制」として整備されている。

日本の「事態対処」としての法整備は、冷戦後の脅威の蓋然性が自国への直接の武力攻撃から日本周辺で生起した事態が自国に波及する恐れのある事態に変化したことにより、1999年に「周辺事態法」[2]が整備されたことを嚆矢とする。その後2003年には、戦後約50年の間放置されていた武力攻撃に対処するための枠組みを定めた「武力攻撃事態等対処法」が整備された[3]。

これらがさらに2015年の平和安全法制の整備において、対応範囲を日本周辺に限定した「周辺事態法」の限定を削除した「重要影響事態法」[4]に改正されるとともに、「武力攻撃事態等対処法」に「存立危機事態」[5]が追加される等により、日本の平和と安全にかかわる事態として「重要影響事態」[6]、「緊急対処事態」[7]、「武力攻撃予測事態」[8]、「武力攻撃事態」[9]及び「存立危機事態」の5類型と、国際社会の平和及び安全を脅かす事態に日本が主体的かつ積極的に対処する「国際平和共同対処事態」[10]という枠組みで再整理された[11]。

各事態における自衛隊の措置は、それぞれの個別法に規定されるとともに、自衛隊法においても第76条(防衛出動)と第84条の五(後方地域支援等)に規定され[12]、武力行使に当たらない対応である「重要影響事態」、「緊急対処事態」、「武力攻撃予測事態」及び「国際平和共同対処事態」と武力行使として対応する「存立危機事態」及び「武力攻撃事態」に大別され、いずれの事態も国会承認が必要とされている。

事態別シナリオと日本の対応

台湾危機では経済制裁を前提とする「船舶検査活動」[13]及び「国際平和共同対処事態」の認定は想定されず、事態に応じて「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」の認定が想定される。さらに、事態が日本に波及すれば「武力攻撃事態等」が認定されることとなる。しかしながら、未だに根強い「平和主義」や「中国への配慮」などの日本の政治環境から見て、現実の事態に対して制度上の事態を直ちに当てはめることは必ずしも容易ではない。そこで、以下に事態ごとのシナリオに沿った日本の対応について検討する(各事態の類型と自衛隊の対応については下表を参照)。

表:台湾危機に関連する事態の類型と自衛隊の対応

* 筆者作成

(1) 武力紛争前の段階

現在、東シナ海においては日米が継続して警戒・監視を行っており情報の共有もなされている。したがって、アメリカが兵力を台湾周辺に展開する事態になれば、東シナ海における警戒・監視は日米ともに強化するか、あるいは、米軍の台湾周辺への兵力集中の状況によっては、自衛隊がそれを補完する形で現状の警戒・監視を強化することになろう。

アメリカが台湾周辺海域への兵力を集中させることになれば、現場部隊に対する補給支援は不可欠となる。緊迫した事態となると、中国との関係を慮るASEAN諸国に補給のための寄港を期待することはできず、台湾への寄港の選択もあるが、展開が長期化すれば洋上での補給支援が必要になる。そうなれば、地理的に現場に近い沖縄などから補給部隊を往復させることができる日本の支援が不可欠となる。自衛隊が米軍部隊を補給支援するためには「重要影響事態」を認定する必要がある。なお、「重要影響事態」を認定することにより自衛隊以外の関係行政機関による「対応措置」に加え、国以外のものへの協力要請も可能となる[17]。

(2) 武力紛争に発展した段階

事態が武力紛争に発展した場合に、事前に「重要影響事態」を認定していれば当該事態を継続し、認定されていなければこの段階で認定して紛争当事国となった米軍(他に参加国がある場合には、その軍隊も含む)を支援することとなる。しかし、この段階の「重要影響事態」では、自衛隊は現に戦闘行為が行われている現場での「対応措置」ができないだけでなく[18]、「米軍等の防護」もできなくなる。「米軍等の防護」の根拠となる自衛隊法95条の二は「現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く」ことを規定しており、この段階での米軍等に対する攻撃自体が「戦闘行為」となるためである[19]。一方で、中国の対艦ミサイルの脅威が伝えられるなか、自衛隊によるミサイル防護は重要な支援となる。したがって、防護が必要な場合には直ちに「存立危機事態」の認定が必要となる。

(3) 中国の攻撃が日本に波及する段階

台湾周辺に派遣される米軍の兵力は、第一に沖縄、横須賀、佐世保などの在日米軍基地所在の部隊が中心となる。これらの策源地である米軍基地だけでなく、重要な後方拠点となる日本の港湾なども中国の攻撃目標となる可能性がある。この場合、日本は武力攻撃が予測される段階で「武力攻撃予測事態」を認定し、「防衛招集命令」、「防衛出動待機命令」の発令が可能であり、さらに、武力攻撃が発生する明白な危険が切迫している場合から「武力攻撃事態」を認定して「防衛出動」を発令することができ、武力攻撃が発生した時点で個別的自衛権を発動することになる[20]。

日本はどのように準備すべきか

最後のまとめとして台湾危機に際しての日本の対応において留意すべき事項を検討し、その解決のための問題提起をしたい。

(1) 事態認定を妨げる要素

「重要影響事態」、「存立危機事態」の認定に際しては、米国以外に台湾の支援に立ち上がる国の存否が鍵となる。既述のとおり、太平洋正面における米中の兵力差は中国に優位であり、米軍単独で事態に対処することは困難な状況にある。一方、香港の民主派弾圧をきっかけに、中国の覇権主義への警戒が一気に高まったことから、英・仏・加がアメリカの「航行の自由作戦」に同調する形で南シナ海へ海軍部隊を派遣しており、ドイツも派遣の意向を表明している。しかし、中国との直接の武力紛争となった時に、2003年のイラク戦争時に独・仏が参加しなかったようにアメリカに同調するとは限らない。そうした中でも、とりわけ日・豪へのアメリカの期待は大きいが、仮に、アメリカ以外に台湾支援に動く国がないような場合、日本だけが中国に敵対してアメリカを支援するとなれば、賛否を巡って国内での混乱も避けられない。そもそも「重要影響事態」にしても「存立危機事態」にしても、これまでに認定されたことはないことに加え、国内議論の混乱は、政府の迅速な判断を一層困難なものにすることが予想される。

また、法律上「存立危機事態」は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の発生」を要件とされている。そうすると、国内では正規の国交のない台湾が「密接な」、また「国」そのものに該当しないのではないかという議論も出てきかねない。しかし、この件について政府はすでに「「他国」は国交を結んでいる国に限るのか。それとも国交はないが実態として国とみなされている地域(例えば台湾やパレスチナ自治政府)を含むのか」との質問趣意書に対して、「我が国が外交関係を有していない国も含まれ得るが、お尋ねの「国とみなされている地域」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。」と回答している[21]。こうした公式の政府見解についても合わせて、事態に応じた手順等を標準化したマニュアルなどを準備しておくことも必要である。

さらに、「武力攻撃事態」の認定に際しては、中国の攻撃が発生してから自衛隊に防衛出動を発令していたのでは現場の自衛隊は警察権での武器使用でしか反撃できないことから、甚大な被害を受ける恐れがある。このため、より早い段階で防衛出動を発令しておき、攻撃があった場合に自衛隊が直ちに自衛権を発動(武力の行使)して反撃できる体制を整えておかなければならない[22]。

(2) 迅速・的確な意思決定のために喫緊にしておくべき課題

国の非常事態に際して、意思決定の適時性と的確性は結果を左右するものである。現在のCOVID-19対応において、「緊急事態」宣言のタイミングに関しては様々な問題が指摘され、議論も錯綜した。こうした問題は、2010年9月の巡視船に対する中国漁船の衝突事件や東日本大震災においても同様の問題が指摘されていたが「事態認定」においても共通の問題である。とりわけ本稿テーマの「事態認定」については、その性質上、意思決定の迅速性が極めて重要な要素となる。現在のCOVID-19への対応については、意思決定上の問題だけでなく、軽症感染者の待機場所の問題などは事態対処における国民の避難場所の設定等、共通の問題となる。こうした前例で明らかになった問題については、事後の詳細な検証により本質的な問題の解決を図らねばならない。

通常、意思決定の成否は情報にある。往々にして意思決定に際しては、より多くの情報を求める傾向もみられるが、決定に不可欠な情報、参考となる情報の類型を平素から整理しておかねばならない。これを欠けば、情報の氾濫による混乱から意思決定に時間を要することになる。そして当該情報に従った意思決定のための処理手順の整備も必要である。こうした準備を官邸から現場まで共有することで、現場も報告の優先順位を把握することで迅速な意思決定に繋がる。

しかし最も重要なことは、意思決定の手順やマニュアルが準備されており情報を入手したところで、その処理に手慣れていなければ、いきなりその場で処理できるというものではない。そのためには、通常よく行われる現場レベルの図上演習にとどまらず、事態対処に当たる現場から最終的な決定を行う首相官邸のレベルに至るすべての段階を巻き込んだ演習を行うなど、意思決定のメカニズムを平素から確立しておくことが必要である[23]。

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(2021/5/28)

 

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