「台湾有事」で日本を戦場にする政府に反対しよう (NewsPaperより)

「台湾有事」で日本を戦場にする政府に反対しよう!

中国への米戦略は1990 年代から2010 年頃までは攻撃して潰すものでした。しかし、中国は経済成長が続き 2010 年に当時世界第2 位の日本を追い越して軍事力も強大になり、中国領土への攻撃は戦争をエスカレートさせ核弾道ミサイルが米本土に打ち込まれる可能性があることから、忌避されるようになりました。台湾を含む第一列島線内の米国覇権を維持するために同盟国に戦わせるオフショアコントロール戦略(2012年)や第1列島線に自 衛隊などがインサイド部隊として展開し、第2列島線上に米軍がアーウトサイド部隊として展開する海洋圧力戦略(2019年)へ変わってきました。いずれの米戦略も米国の覇権を維持するために沖縄・日本を戦場にするものであり、日本国民と自衛隊に犠牲を強いるものです。米軍は中国領土を攻撃しないので、日本を守るはずの日米安保が日本を戦場にする安保に変質しているのです。

尖閣諸島での日中対立を台湾防衛に取り込む米国

2010 年 9 月、尖閣海域での中国漁船の海保巡視船衝突事件以降に中国公船の尖閣周辺海域の航行が急増し、日本国内で不満も高まる中、石原東京都知事 (当時)が尖閣購入を検討すると表明し、当時の民主党政権が2012年9月11日に尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の3島を国有化し、中国との関係が決定的に冷え込むことになりました。この尖閣諸島をめぐる日中対立を利用して、米国において台湾防衛戦略で日本を取り込む動きが起きます。「アメリカ流非対称戦争」の論文でした。内容は、南西諸島の島々、特に宮古島や石垣島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル 部隊を展開して配置し、中国艦船を太平洋に通させ ないようにするものです。中国艦船を東シナ海に閉じ込めることで、台湾への太平洋側からの攻撃を封じることを目的としています。この米論文には「尖閣」の文字はありません。台 湾と中国はともに尖閣諸島の領有権を主張しており、米国も尖閣諸島を日本領土とは認めていないからです。ただし、行政権を行使していることから、日本への説明では日米安保条約の適用化にあるとする立場です。

安倍政権による戦争できる国づくり

尖閣諸島問題が厳しくなる中、2012 年末の総選挙で政権に復活したのが安倍政権でした。安倍首相は翌2013 年の訪米での保守派ハドソン研究所講演会で米国に「集団的自衛権の行使」と「南西諸島の軍事化」を約束します。翌年2014年5月15日 に「集団的自衛権の行使」に向けた「憲法解釈」の見直しを指示し、7月1日に「集団的自衛権の行使」は可能だとする「解釈改憲」の閣議決定を行いました。2015 年通常国会に「安保関連法案 (戦争法案)」を提出し、同年7月16日に衆院本会議で強行可決し、9月19 日に参院本会議で強行可決成立させました。同月30日に公布、2016 年3月29日に施行されました。これで、日本は戦争ができる国になりました。

南西諸島の軍事化

安倍政権は、同時に沖縄県政が反対し困難視されていた辺野古新基地建設を抑止力の維持を理由に、沖縄選出自民党国会議員や自民党沖縄県連をねじ伏せて認めさせ、仲井真県政に辺野古埋立承認申請を2013 年末に承認させて翌2014 年に埋立て工事を着手しました。  2016年には南西諸島の軍事化に着手します。沖縄本島の北部訓練場にオスプレイ離発着場の建設、伊江島にF35ステルス戦闘機の着艦訓練場の建設、与那国島に陸自沿岸監視隊基地、奄美大島、宮古島、石垣島への陸自地対艦ミサイル基地の建設に着手し、石垣島以外は既に建設して部隊配備済みです。さらに安倍政権は島々での戦争のために長崎県の相浦駐屯地に水陸起動団をこれまでに2 部隊を立ち上げ、2022 年には1部隊を近隣駐屯地に追加する予定です。オスプレイ17機と水陸両用装甲車52台も購入し、佐賀空港へのオスプレイ配備計画や種子島近くの馬毛島で飛行場と着岸桟橋等を整備する計画を進めています。併せて、九州の自衛隊航空基地を米軍が使用できるように滑走路の新設・強化、駐機場の整備、宿舎建設が築城基地や新田原基地、鹿屋基地などで進んでいます。国内的には、尖閣諸島防衛を名目にしていますが、2013年以来の安倍政権の取り組みは、危惧される中国による台湾統合=「台湾有事」において、日本が前面に出て中国と対峙しようとするもので極めて危険であり、南西諸島や九州を含む西日本を戦場にして中国ミサイルの攻撃に晒すものになります。

米軍の「遠征前方基地作戦構想」と「機敏な戦闘展開構想」

現在、米国の海洋圧力戦略で米海兵隊は「遠征前方基地作戦(ExpeditionaryAdvanced Base Operations:EABO)構想」、米空軍は「機敏な戦闘展開(Agile Combat Employment:ACE)構想」を 採用しています。

既に、中国のミサイル網は日本列島や南西諸島、台湾を射程圏内にしており、対艦弾道ミサイルもグアムあたりまでの射程圏を持っています。ですから、 在日米軍基地の戦闘機などの米軍航空機部隊と第7 艦隊の戦艦部隊は、「台湾有事」の予兆を察知して、事前にグアム以東に退避します。これまでは同盟国に戦闘を任せて退避するだけでしたが、米空軍の「機敏な戦闘展開」ACE 構想では、10~15の小さいユニットに分かれてグアム以東の幾つもの飛行場で部隊を維持して分散し遠距離から「台湾有事」に加わる訓練が始まっています。具体的な作戦は米海兵隊が米空軍や第七艦隊と連携して取り組む遠征前方基地作戦 (EABO)などです。EABO は太平洋の島々を転進し移動を繰りかえしながら洋上の中国艦船を攻撃する作戦で、硫黄島や伊江島などで訓練を繰り返しています。現在、沖縄県内で問題になっている米軍機による低空飛行訓練、パラシュート降下訓練、吊り下げ訓練、夜間飛行訓練や、ブルービーチ演習場における着上陸訓練、嘉手納・普天間飛行場への外来機の飛来、嘉手納・普天間・伊江島などの基地機能強化などは、多くがEABOとACE の訓練の一環といえます。

土地規制法の成立

EABO や ACE にとって、島々の空港や港湾を軍事拠点として確保することは必要不可欠です。そのために、安倍政権が2013年から準備してきた「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(土地規制法) を、菅政権が2021年3月26日に閣議決定して国会に提出し、国会会期最終日の6 月16 日未明に参院本会議で可決、成立させました。この「土地規制法」は、自衛隊基地・米軍基地の周辺1 キ ロを規制するだけでなく、有人国境離島を規制できる法律です。沖縄県の50の有人離島すべてが対象になっており、規制区域に指定されかねません。二度と戦場にさせないために沖縄では島ぐるみのたたかいが求められています。

海洋圧力戦略で米軍地上発射地対艦ミサイルの配備をねらう米国

米軍の海洋圧力戦略では、「台湾有事」において 第1列島線で戦う自衛隊など同盟国のインサイド部隊と第2 列島線上には米軍が主体のアウトサイド部隊を想定していますが、米軍は、日本国内にインサイド部隊として米軍の地上発射ミサイル部隊を配備しようとしています。自衛隊は歓迎していますが、この米軍ミサイル配備は日本全土を戦場にするものです。一方、日本国土における限定戦争で「台湾有事」を乗り切って、台湾を含む第1列島線の権益を守りたい米国の目的に合致するのです。

日中関係を破綻させてはならない

米軍が「遠征前方基地作戦」EABO で日本国内の離島からハイマース・ロケットを中国艦船に発射した時、あるいは日本国内に配備された米軍の地上発射型ミサイルが中国艦船に発射された時には、1972 年の「日中共同声明」と1978 年の「日中平和友好条約」は破棄されることになります。日本国内からの攻撃は日米安保条約の事前協議の対象とされており、日本が攻撃を同意したとみなされるからです。そうなれば、日中関係は一変します。  今、日本にとって中国は全貿易の24%を占める最大の貿易相手国です。米国は14%です。中国、ASEAN、韓国、台湾、香港を合わせると日本の貿易総額の52%で、米国はその3割もありません。中国、韓国を含む「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」も 2021今年4 月に可決成立したばかりですが、日中が戦争に入れば全てを失うことになります。中国との戦争は沖縄・西日本の住民の生命を 危険にさらすばかりでなく、日本経済に壊滅的な被害を生じさせて日本の国益を大きく損なうもので す。もはや、日米安保条約は日本を守るのではなく、日本を戦場にするものに変わろうとしています。一方、中国の経済成長は続いており、2030年までにはアメリカを追い越して世界一の経済大国になるだろうと予測されています。日本を戦場にしてはなりません。しかし、対米追従するしか日本に道はないというのが、今までの自民党政府の考えです。日本国土を戦場にする米軍戦略に抗えずに従う日本の政府と政治を変えていかなければなりません。

 伊波洋一 ( 参議院議員 )(いは よういち)

平和フォーラム/原水禁・ News Paper 2021.10 5

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