第6次エネルギー基本計画(素案)に対する原水禁声明

第6次エネルギー基本計画(素案)に対する原水禁声明

7月21日、経済産業省は、第6次エネルギー基本計画の素案を発表した。温暖化ガスの排出量を、2030年度に、2013年度比で46%削減するとの国際公約を踏まえ、再生可能エネルギーの2030年度の発電比率目標を36~38%と引き上げた。計画では「2050年のカーボンニュートラル実現に向け、主力電源として最大限の導入にとりくむ」として、再生可能エネルギーの比率を、2019年度実績の約2倍、現在の目標値を14ポイントほど高くした。しかし、十分とは言えない。欧州委員会は、再エネ比率を2030年までに65%まで引き上げる目標を打ち出している。今後、さらなる比率のかさ上げをめざし、政府はさまざまな施策を打ち出すことが求められる。計画に記された、公共施設の活用、発電コスト低減、環境アセスや自然公園法などの課題克服などはもちろん、エネルギー問題が地域社会・個人生活の重要な課題であることから、地方自治体や地域社会全体で議論できるよう、システムの拡充が求められる。太陽光発電や風力発電の設置をめぐっては、地域住民とのトラブルも起きている。必要なエネルギーをどう確保するかを、地域社会の中で議論することも重要となってきている。

一方で、原子力は依然としてベースロード電源として位置づけられ、20~22%と前回のエネルギー基本計画同様の発電比率が求められている。原発をめぐる情勢や世論を無視し、脱炭素を理由にして原発の活用を再度打ち出してきたことは、福島第一原発事故の被災者を愚弄するもので決して許されない。

 2011年3月11日の福島原発事故以降、エネルギーを巡る環境は、国際的にも国内的にも大きく変わった。今や、新規原発計画などありえない。安全対策によるコストの上昇やフクシマに象徴される原発事故の生活環境への壊滅的打撃などの現状を見据え、冷静に将来を見通す努力が求められている。計画では、原発の新規計画やリプレースを盛り込むことはできなかった。計画に記された原発の発電比率は、稼働中の10基、審査中の11基を含めて27基の原発を、稼働率80%で運転する必要がある。計画では「定期検査の効果的・効率的な実施や運転サイクルの長期化」を検討課題としているが、それはまさに安全対策の削減であり、無理な稼働率の引き上げは原発事故の可能性を高めるもので許されない。

地球温暖化対策が世界規模での喫緊の課題とされる今、多くの国々で、化石燃料を利用した火力や原子力から脱却し、風力や太陽光、太陽熱などの再生エネの利用拡大へと急ピッチで進んでいる。日本の旧態依然たる「原発温存」の政策は、政策の硬直性を示し、再エネ普及の阻害要因となっている。「可能な限り原発の依存度を低減する」との表現は維持したが、一方で「安全性の確保を大前提に必要な規模を持続的に活用していく」としている。このような二律背反の姿勢では、将来のエネルギー政策を誤ることは間違いない。

このような中途半端な政策は、目先の安易な利益に誘導され、原発の再稼働へ巨額の費用を投入させてきた。そのことは、再エネ普及に欠かせない送電網の拡充や蓄電池の普及とコスト削減など、さまざまな部分での阻害要因となってきた。

 また、電源別では最も安いと言われてきた原発の発電コストも引き上げてきた。今回、経済産業省が発表した2030年時点での発電コストの新たな試算では、原発は1キロワット時あたり11円台後半以上となり、太陽光(8円台前半~)、風力(9円台後半~)、LNG(10円台後半~)に抜かれた。政府や電力会社が福島原発事故以降も原発のコスト面での優位性を強調してきたが、その前提が崩れ、原発の「安全神話」の崩壊とともに、原発推進の理由が失われた。今後、原発の安全対策やバックエンド対策など、多くの不透明な費用負担を考えれば、さらにこのコストは膨らみ続ける。

 原水禁は、2021年3月、2030年までに原発・石炭火力ゼロを訴えた政策提言をまとめ、原水禁エネルギー・シナリオとして発表し、政府、経済産業省や国会議員へ提出してきた。 原水禁は、脱原発・脱炭素社会の実現は、気候危機に対する唯一の解決策であり、困難な道のりではあるが、達成可能と考えている。福島原発事故から10年。新たな状況を踏まえ、硬直化したエネルギー政策を見直し、脱原発・脱炭素社会へむけた行動を強く求める。環境に優しく、持続可能な社会は不可能ではない。

2021年7月27日

原水爆禁止日本国民会議

共同議長 川野 浩一

金子 哲夫

藤本 泰成

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