つくられる脅威・過剰な反応 危険を呼ぶ安全保障政策

2017年7月 1日

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が、何度もミサイルの発射実験を繰り返し、国威の誇示を図っている。これは間違いなく米国政府に対する「意思表示」だ。これまで、北朝鮮政府は国連など公の場において、1953年7月27日に締結された朝鮮戦争における停戦協定を平和協定に変える議論を呼びかけている。朝鮮戦争は、私が生まれる前の出来事、多くの日本人には記憶の外にある。教科書で学ぶか、松本清張の小説「黒地の絵」や米国のドラマ「マッシュ」などでわずかに記憶しているにすぎない。しかし、北朝鮮にすれば未だ戦争は終了していない。

ブッシュ(子)米大統領は、イラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と非難し、2003年には大量破壊兵器の保有を理由にして対イラク戦争を開始し、フセイン政権を倒した。その米国の圧倒的軍事力は、今、北朝鮮・金正恩政権へと向けられている。追い込まれれば追い込まれるほどに、核兵器とミサイルに固執する北朝鮮政府を非難することはたやすいが、そもそも侵略戦争と植民地支配で南北分断のきっかけをつくった日本や、これまで60年以上も対米戦争状態に放置してきた国際社会には、何ら責任はないのだろうか。

4月29日、北朝鮮のミサイル発射のニュースを受けて、東京メトロは全路線で最寄り駅に緊急停車させた。発射の40分後である。秩父市では、北朝鮮のミサイル発射に際して「地下街への避難」をすすめるチラシを市民に配布した。軽井沢町では、職員30人分の防護服などの購入を検討している。このような過剰な反応は、ひとえに安倍政権の姿勢にある。北朝鮮のミサイル発射を「放置すれば安全保障上の脅威が伝染病のように広がる危険性を帯びている」などとして、その「脅威」のみ誇大に宣伝している。その安倍政権のあり方に迎合し、自治体や企業が過剰な反応を示す。右傾化する日本社会の危険性がそこにある。

 国連は、中国やロシアまで含んで6月3日に新たな追加制裁措置を決定した。国際社会は一致して北朝鮮の核やミサイル開発を許さない姿勢を示したと言うことだろうが、しかし、そのことで北朝鮮の「意思表示」に答えることができるのだろうか。安倍晋三首相は、米韓日の軍事同盟の強化や敵基地攻撃、高高度ミサイル防衛網の設置など、軍事的対抗政策しか示し得ないでいる。北朝鮮だけを非難し、軍事的圧力を強め、孤立させることが日本の安全保障政策であるならば、この政治の貧困は、将来に禍根を残すに違いない。

(藤本泰成 平和フォーラム共同代表)

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