「行政不服審査法」を盾に地方の申し立てを却下
これが「地方創生」を掲げる政権がやることなのか。米軍普天間基地の辺野古移設をめぐり、沖縄県と敵対する安倍政権の姿を見ていると、つくづく、そう思えてならない。
沖縄県の翁長雄志知事が政府に辺野古沖の工事停止を指示(3/23)したことに、安倍政権はもはや敵意を隠そうともしない。あくまで徹底抗戦を貫き、ついに知事の停止指示を「無効」と判断(3/30)。指示の効力を一時停止する措置を決めた。
政権側は今回の決定を「行政不服審査法」に基づいていると主張するが、この法律は行政処分で不利益を受けた「国民」の救済措置として定めたものだ。「国」が同法を行使するのは、法の規範の想定外である。
沖縄県という自治体の判断に敵意をムキ出しにし、法の趣旨まで歪めて遮二無二、強権を発動する。それを何の躊躇もなく平然とやってのける安倍政権の対決姿勢は、やはり異常だ。
翁長知事が辺野古沖工事の停止指示に打って出たのは、沖縄防衛局の海底ボーリング調査により、県の許可区域外のサンゴ礁が損傷されている可能性が高いためだ。辺野古に住む人々にとって、サンゴ礁は「地域の宝」だ。地方に住む人々が、その地域の「宝」を守り、地域振興に結びつけていく。この姿勢こそ、安倍政権が「地方創生」に求めているものではないのか。
それなのに、安倍政権は地方のやることが国の意向に沿わないからといって、権力を一方的に振りかざし、地方の意思を叩き潰そうとする。これでは、安倍政権の唱える「地方創生」が単なる“お題目”に過ぎないことを自ら証明しているようなものだ。地方の意思を尊重しない政権の「地方創生」とは、中央による押しつけ以外の何ものでもない。
ましてや、沖縄の民意は昨年の県知事選でも衆院選でも、辺野古移設にキッパリと「ノー」を突きつけたのだ。前知事の選挙公約を覆した埋め立て承認をタテに取り、政権側が県民の意思を背負った新知事と交渉のテーブルにつこうとしなかったのは誠に信じがたい。しょせん「地方創生」なんて口先だけで、地方の意思などハナから留意する気はないのだ。
沖縄問題で浮き彫りとなったのは、安倍首相の非民主的で強権的本質である。しかも、その権力行使のベクトルは沖縄県民はもちろん、日本の国民全体の方にも向いていない。念頭にあるのは「日米同盟の強化」だけである。( “牙”は、沖縄県民=国民に向いている!)安倍首相の言い放った「我が軍」とは一体、どこの国の軍隊を指すのか。
(日刊ゲンダイより 括弧書きは筆者が補足)
<辺野古作業停止指示>
法の目的は…農相「無効」に疑問の声 毎日新聞 4月3日(金)8時30分
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設を巡り、沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事が沖縄防衛局に出した作業停止指示を、林芳正農相が暫定的に無効にした。翁長知事の指示に対して防衛局が行政不服審査法に基づき、審査請求とともに申し立てた「執行停止」を全面的に認めた形だ。だが行政不服審査法の目的は、行政庁の処分に不服がある国民の権利を守ること。行政機関同士の争いに用いられたケースは極めて異例で、専門家からも疑問や批判が出ている。
「国民に対して広く行政庁に対する不服申し立てのみちを開く」。行政不服審査法の第1条は法の趣旨をそううたい「国民の権利利益の救済」を目的に位置付ける。
翁長知事もこの点を重視し、農相に提出した意見書で「法は審査する立場にある国が別の国の機関から申し立てを受けることを想定していない」と主張した。防衛局が同じ政府機関に不服を申し立てる資格を疑問視し、防衛局の執行停止の申し立ての却下を求めた。
しかし、農相は「国も県知事の許可が必要で、私人が事業者である場合と変わりがない」と判断した。国の申立人としての資格を認め、日米関係への悪影響などを理由に翁長知事の指示の執行停止を決めた。これにより、農相が防衛局の審査請求を裁決するまでの間、国の移設作業は可能になった。
行政法が専門の三好規正・山梨学院大法科大学院教授は「手続きとして国も民間会社も変わりはなく、法的には同じ立場という解釈は成立する」と話し、国にも不服を申し立てる資格はあるとみる。一方で「国と県の争いの解決手段としては法が想定していないのも確か。法の趣旨からすると違和感を覚える」と話し、紛争解決手段としての正当性には疑問符を付けた。
公平性の観点から問題視するのは、武田真一郎・成蹊大法科大学院教授だ。「原告と裁判官が同一の裁判で沖縄県が裁かれたようなもの。行政機関同士の紛争である今回のケースで審査請求はできないはずだ。そのため農相に判断する権限は無く、決定は無効と考える」と指摘する。その上で、国の取るべき対応として、地方自治法に基づく解決方法を挙げる。
知事の指示に違法性があるのであれば、地方自治法に基づき、農相は知事の指示取り消しなどの「是正指示」を出し、知事がそれに従わなければ知事に代わって指示を取り消す「代執行」が可能だ。知事はその措置に不服があれば、最終的に裁判所に訴えることができる。武田教授は「本来取るべき手段を取らず、身内の農相に申し立てることで迅速に有利な決定が出る可能性が高いと判断したのだろう。地方自治法の趣旨を逸脱した強引なやり方だ」と批判した。【鈴木一生】
◇行政不服審査法
行政庁が不当な処分をしたり、必要な処分をしなかった場合に不服を申し立てることを認めた法律。処分を下した行政庁に直接申し立てる「異議」と、その上級機関などに申し立てる「審査請求」がある。審査請求については、審査結果が出るまで暫定的に処分の効力を止める「執行停止」も申し立てられる。
クローズアップ
2015:辺野古、知事指示を「執行停止」 県「次の手」苦慮 「法的に勝てる手段を」
毎日新聞 2015年03月31日 東京朝刊
想定される当面の流れ
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設作業をストップするため翁長雄志(おながたけし)知事が県漁業調整規則を根拠に出した指示は30日、林芳正農相の判断で一時的に効力を止められた。県が新たな対抗手段をとらなければ、沖縄防衛局による現場海域での移設作業は当面続く見通しだ。農相の執行停止決定は移設作業の遅れによる「日米間の重大な損害」にも言及し、政府は譲歩の姿勢を見せていない。翁長氏は岩礁破砕許可取り消しの検討に入ったが、県は苦しい対応を迫られている。
沖縄防衛局による林農相への執行停止申し立てに対し、県は27日の意見書で、国が不服を申し立てることは制度上できないとして、却下を求めていた。防衛局の請求の適否を同じ政府内の農相が判断するのはおかしいというわけだ。
これについて、林氏は30日、「岩礁破砕には知事の許可が必要で、防衛局はその許可をとって作業している。この点で私人が事業者である場合と変わらず、申立人として適格が認められると解するのが相当だ」と記者団に説明した。
執行停止決定は、行政不服審査法に基づく審査請求手続きの一部であり、この決定だけを取り上げて県が訴訟に踏み切っても敗訴する可能性は高いとされる。このため現状では、防衛局の審査請求を農相が裁決するまで、現場海域での移設作業は続くことになる。
しかも、裁決で農相が防衛局の請求を棄却すれば、同局は知事の指示取り消しを求めて提訴できる。これに対し、国から受託した事務については自治体が原告になれないという判例があり、農相が請求を認めて指示を取り消した場合、県は裁決を不服とする行政訴訟を提起できない。
行政法に詳しい小早川光郎成蹊大法科大学院教授は「農相が裁決で知事の指示を取り消せば、県がとれる法的手続きは行政不服審査法の中にはない。ただ、今回の執行停止は(裁決が出るまでの)現状凍結ではなく、作業を進めるという意味を持つので、政府はその部分の説明は必要だろう」と指摘する。
県が移設作業に待ったをかけるには、コンクリート製ブロックによるサンゴ礁の損傷を理由に、岩礁破砕許可を取り消すことが考えられる。翁長氏を支える共産、社民両党などの県選出国会議員5人は28日、「防衛局が指示に従わないなら、知事は迷うことなく、自信を持って破砕許可を取り消すよう強く要請する」との緊急アピールを発表した。現地で移設反対の抗議活動を続ける人たちも翁長氏の「次の一手」を注視する。
ただ、翁長氏は30日、記者団の質問に対し「専門家と相談しているところで、コメントすることはない」などと慎重な発言に終始した。ある県幹部は「効力を停止された指示を根拠に破砕許可を取り消せるかどうか法的な検討が必要だ」と明かす。
翁長氏は仲井真弘多(なかいまひろかず)前知事による埋め立て承認の取り消しも視野に入れている。県の第三者委員会は7月にも検証結果を知事に報告する見通しで、前知事の判断に誤りがあれば、翁長氏は取り消しに踏み切る構えだ。その場合、防衛省は公有水面埋立法を所管する国土交通省に不服審査請求するとみられる。県幹部は「既に法律上の争いになっているので、勝つ確率が高い手段を考えなければならない」と手探り状態を認める。
一方、政府側にも県との対立が決定的になるのを懸念する声はある。岩礁破砕許可の期限は2017年3月まで。移設工事を進めるには許可延長を避けて通ることはできず、政府としていずれは翁長氏を説得しなければならなくなる。
安倍晋三首相は30日の参院予算委員会で「今後、機会があれば、首相官邸として意思疎通を図りたい。信頼関係を構築したい」と答弁した。政府は今夏に埋め立てを始めたい考えで、菅義偉官房長官も翁長氏との会談に前向きな姿勢を示している。【飼手勇介、木下訓明、佐藤敬一】
◇米、軍再編に影響警戒
【ニューヨーク西田進一郎】米政府は辺野古移設について、「多くの選択肢を検討したうえで、最善の移設場所だと判断した」(シアー国防次官補)として、日本政府の代替施設整備を引き続き支持している。米議会は昨年12月、辺野古移設の「進展」に合わせ、基地負担軽減につながる在沖米海兵隊のグアム移転予算の執行凍結を全面解除した。辺野古移設が停滞すれば、再び米軍再編全体にも影響が出かねない、と米政府は警戒している。
米国防総省当局者は、翁長知事が辺野古移設に向けた作業停止を防衛省沖縄防衛局に指示した時点で「(移設先の)基地を建設しているのは日本政府であって米国防総省ではない。だからコメントはない」と語り、「日本政府の問題」と強調した。日本政府が強力に推進する姿勢を示しているため、公式コメントは「移設は計画通り進んでいくと理解している」(ハーフ国務省副報道官)となる。
日米両政府は2012年に普天間問題と在沖海兵隊のグアム移転を切り離すことで合意。しかし、米議会は辺野古移設の進展をグアム移転の予算支出と絡めてきた経過がある。辺野古移設が停滞してグアム移転の予算支出に再び制約が出るようなことになれば、中国の台頭を念頭に米軍が戦略拠点として整備を進めるグアムの施設整備が思い通りに進まなくなる懸念がある。
一方、米国の一部有識者には、米軍基地が1カ所に集中することによる軍事的脆弱(ぜいじゃく)性や沖縄世論の反対の強さをふまえて、新しい提案も出ている。元国防次官補で対日政策に詳しいジョセフ・ナイ米ハーバード大教授は昨年、ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」に寄稿し、中国の弾道ミサイル技術の向上を受け、「固定化された沖縄の米軍基地は脆弱性を増してきた」と指摘。在日米軍基地を日本政府に移管し、米軍がこれらの基地を一定期間ごとに巡回駐留して自衛隊と共同使用する将来像を提案した。