原子力環境安全管理協議会に公開質問書  「さよなら!志賀原発」実行委

2011年10月7日

石川県知事 谷本 正憲 様

「石川県原子力環境安全管理協議会に関する公開質問書」

北陸電力と石川県および志賀町が締結している安全協定第4条には「地域住民の安全確保及び生活環境保全について必要な事項を協議するため、石川県原子力環境安全管理協議会を設置するものとする」と明記されています。しかし、去る8月19日に開催された県原子力環境安全管理協議会(以下、安管協と略)は、残念ながら地域住民の安全確保及び生活環境保全のために必要な事項に関する協議が十分に行われたとは言い難いものでした。
事故発生から半年以上経過しても収束の見込みがつかない福島第一原発の過酷事故に関して、原子力安全・保安院と北陸電力による説明は「津波とそれによる電源喪失が事故原因」と断定し、地震で配管や機器類が損傷した可能性を全く考慮しないものでした。大事故を繰り返さないためには、徹底的な事故調査と原因究明、そして明らかになった新知見を各原発の安全対策に反映させていくことが必要なはずです。ところが8月19日の安管協では、そのような観点からの議論は全くないまま、「津波対策と電源喪失対策、シビアアクシデント対策が講じられているので、志賀原発の運転再開に支障はない」という原子力安全・保安院の見解が示されたのです。これでは「いったい何のための安管協なのか」と疑問を抱かざるを得ません。
そこで、安管協が「地域住民のみならず県民の安全確保及び生活環境保全」に資するものとしてより有効に機能することを願って、8月19日の安管協では協議されなかった問題点に関して、とくに耐震安全性に関連する問題を中心に、以下、質問をいたします。
速やかに文書にて回答していただけますよう、よろしくお願いいたします。

「さよなら!志賀原発」実行委員会
岩淵 正明(憲法九条を広める会・代表)
森  良明(石川県勤労者協議会・事務局)
柚木  光(石川県平和運動センター・代表)
中村 照夫(原水禁県民会議・事務局)
北野  進(珠洲市議会議員)
堂下 健一(志賀町議会議員)
中村 一子(津幡町議会議員)
水口 裕子(内灘町議会議員)
森  一敏(金沢市議会議員)
盛本 芳久(石川県議会議員)
山根 靖則(石川県議会議員)
林  秀樹(ストップ!プルサーマル・北陸ネットワーク)
中垣たか子(原発震災を案じる石川県民・世話人)

連絡および回答送付先:Tel&Fax076-263-9328
〒920-0942金沢市小立野2-26-8
中垣たか子

【質問項目】

(1)原子力施設への地震動の影響について

①「福島第一原発は地震による安全上重要なシステムや設備、機器の被害は確認されておらず、津波到達までは正常に作動し、管理された状態にあった」当日配布資料No.2-2、5ページ)という原子力安全・保安院の見解は妥当であると認識しているのでしょうか。
また、この原子力安全・保安院の見解は、8月19日の安管協で了承されたのでしょうか。

②津波到達以前に発電所内において配管やケーブルの破損等、深刻な事態が発生していたという発電所幹部の証言も報じられています。とくに3月12日に水素爆発が起きた1号機においては、地震動により配管が損傷し冷却材喪失事故が起きた可能性が高いことが田中三彦氏などにより指摘されています。3月11日、地震発生からわずか3時間後の17時50分に原子炉建屋内に放射能が充満し、事故時に炉心を冷却するための非常用復水器担当の作業員は放射線指示値上昇のため撤収しました。
さらに1号機のベントが実施される以前の3月12日未明に、すでに原発敷地境界で高い放射線が検出されていますが、これらの事実は地震動による配管類、あるいは格納容器や原子炉建屋の損傷を示唆するものです。
(詳細は岩波新書『原発を終わらせる』Ⅰ-1「原発で何が起きたのか」や「美浜の会」ホームページ http://www.jca.apc.org/mihama/fukushima/1f1ic_hasonron_20110903.pdf 等を参照してください。)

また2号機の爆発も、地震動により圧力抑制室が損傷したことが原因であると指摘されています。地震発生後の原子炉の状況について東京電力および国の情報公開はきわめて不十分で、「正常に作動し、管理された状態にあった」はずの地震発生から津波到達までの原子炉内の各種のデータも、限定的にしか公表されていません。基本的な情報公開が不十分な上、「事故調査・検証委員会」の中間報告さえ出ていない段階で、「安全上重要なシステムや設備、機器の地震による被害は確認されていない」と断定する根拠は、どこにあるのでしょうか。津波対策、電源喪失対策以前に、地震動による配管や機器類の損傷の可能性について、十分な検証を求めるとともに、各種パラメーターのすみやかな情報公開を求めるべきではありませんか。

③原子力安全委員会委員長も、耐震設計審査指針を含む原発の安全審査に関わる指針類の見直しの必要に言及しています。2006年9月に改訂された耐震設計審査指針にもとづくバックチェックで耐震安全性が確認されたはずの原発で、地震とそれに伴う津波で過酷事故が発生してしまったのですから、いま必要なことは福島原発事故の調査および検証そして原因究明に努め、その過程で明らかになった知見にもとづき新たな安全基準を設定することではないでしょうか。その上で、あらためてバックチェックを全面的にやり直す必要があるのではないでしょうか。

④3月11日14時46分に発生したマグニチュード9.0の本震の揺れは3分以上続いたにもかかわらず、原子力安全・保安院が安管協に提出した資料によれば、福島第一原発に設置されていた地震計は約130~150秒程度のデータしか記録されていないということです。M9.0の本震の後、大きな余震が繰り返し起きていますが、余震による地震動に関しては全く記録がないことになります。
このような事象が福島原発で起きていた事実に鑑み、志賀原発においてはM9.0以上の大地震や大きな余震に繰り返し襲われることを想定して何らかの対策が立てるべきだと考えますが、すでに対策はとられているのでしょうか。あるいは、これから対策を立てる予定なのでしょうか。

⑤福島第一原発だけでなく、福島第二原発、女川原発、東海第二原発、六ヶ所村の再処理工場等における地震による被害状況については全く説明がありませんでしたが、福島第一原発以外の施設の事故やトラブル、被害状況も検証すべきではないでしょうか。「炉心損傷・溶融さえ起きなければよい、大量の放射能漏れが起きなければよい」というわけにはいきません。各施設の状況について、原子力安全・保安院に説明を求めるべきではないでしょうか。

(2)「安全性に関する総合評価」(いわゆるストレステスト)の実施について

①ストレステストでは「解析により安全裕度を確認する」という説明でしたが、安全審査に関わる指針類が見直されようとしているときに、何を基準にして「裕度」の有無を判断するのですか。
福島原発事故では、現行の安全審査指針の破綻が明らかになりました。破綻している指針と比べて裕度を確認したところで、安全性を担保することにはならないのではないでしょうか。

②原子力発電に対する信頼が大きく損なわれている現状では、事業者が実施したテスト結果を原子力安全・保安院が審査し、安全委員会が形式的にダブルチェックするという従来通りの方法では、住民の理解は得られません。ストレステストを実施したからといって、志賀原発再稼動の可否を判断することはできないのではないでしょうか。

③志賀原発は福島原発と同じ沸騰水型であり、とくに1号機は格納容器の耐震脆弱性が問題になっているマークⅠ型です。志賀原発では、ストレステストの実施を急ぐよりも、まず耐震性の検証を優先するべきではないでしょうか。

④ストレステストに関する議題について、議長は「ストレステストの結果については、国におかれましては再度、説明をお願いしたいと思います。実施につきましては、北陸電力は厳正に取り組んでいただきたい。国においては厳格な評価をお願いしたい」と、ストレステストの実施はすでに既成事実として取りまとめて、次の議題へ議事を進めてしまいました。
しかし、志賀町長や隣接の七尾市長から「志賀原発の運転再開は安全上支障がないというのなら、なぜストレステストが必要なのか」、「まだ原因究明をしている時にストレステストやって、どこでどう“安全ですよ”と判断されるのか分からない」といったストレステストについての疑問や不安が繰り返し表明されており、それに対する原子力安全・保安院の回答は、とうてい納得のいくものではありませんでした。
議長は、ストレステスト終了後の説明を求めるのではなくて、まずストレステストを始める前に、実施の理由やテストの内容、テスト結果の審査基準等について、立地町や周辺自治体の住民が納得できるような、きちんとした説明を国に求めるべきではありませんか。

(3)原子力防災について

①安管協における原子力安全・保安院の福島原発事故に関する説明は原発サイト内で起きたことに限られていましたが、現地の保安検査官事務所の事故対応について、検証は行われているのでしょうか。とくに原子力防災専門官の対応は適切なものだったのか、明らかになった課題は何か等々、住民の安全確保の観点から、安管協で検討すべき問題がいろいろあるはずです。これらが、まったく協議の対象になっていませんが、原子力安全・保安院に説明を求めるべきではありませんか。

②緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)が活用されなかった原因の検証、および同様の事態の再発防止対策は、「住民の安全確保」の観点からきわめて重要なことです。この問題は安管協ではまったく言及されませんでしたが、やはり原子力安全・保安院に説明を求めるべきではありませんか。

(4)安管協委員の構成について

原子力工学の専門家である片岡勲委員および宮崎慶次委員は、各々、「手順さえしっかりしていれば、電源喪失しても、水の循環がなくても、海水に熱を逃がせなくても、炉心を損傷させないような事故対策はあったのではないか」、「ハード面でのシビアアクシデント対策はできていたが、ソフト面の手順書がなかったことが問題だった」という趣旨の発言をし、さらに「今の対策が加われば、絶対に炉心は損傷しない」という発言もありました。
しかし福島では、それまで「絶対に起きない」と言われてきた炉心溶融事故が現実に起きてしまったのです。炉心が溶融したのみならず、いまだに放射能漏れを止められず、格納容器や建屋も底が抜けているかもしれないと危惧されている現実を踏まえれば、事故の検証がまだ終わっておらず原子炉がどういう状態になっているのかさえ分からない段階で、上記のような発言をするのは、住民の不安な気持ちを逆なでするものであり、あまりに不見識ではないでしょうか。
しかも、両委員のこれらの発言に対し、安管協の席上では何ら質問はありませんでした。
これは、安管協の委員構成が、あまりに原発推進および容認に偏っていることを示しているのではないでしょうか。現状の委員構成では「地域住民の安全確保及び生活環境保全について必要な事項を協議する」という安管協の本来の役割を果たすことができません。委員の構成を抜本的に見直すべきではありませんか。

(5)安管協を「安全確保や環境保全に必要な事項」が実質的に協議される場に

質問(2)④で指摘したように、安管協の会議は多くの場合、原子力安全・保安院や北陸電力の説明を聞くだけに終始し、その見解や方針を追認する場になっています。
福島事故を踏まえて、安管協が地域住民のみならず県民全体の安全確保及び生活環境保全について必要な事項を実質的に協議する場になるよう、安管協の役割や権限の見直しが必要だと考えますが、どのように認識していますか。

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