2015年12月14日
日印原子力協定締結合意に対する抗議声明
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野浩一
12月12日、安倍晋三首相とインドのナレンドラ・モディ首相は、ニューデリーで会談し、日本の原発輸出を可能にする日印原子力協定の締結に原則合意しました。原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は、2010年に民主党政権が協定交渉の席に着いた段階から、核不拡散条約(NPT)非加盟の核兵器保有国であるインドとの原子力協定の締結には、反対の立場を表明し、政府に対して交渉中止の要請を重ねてきました。被爆者の思いと、核兵器廃絶に向けた多くの人々のとりくみを一顧だにしない安倍首相の判断に、原水禁は強く抗議します。
被爆国としての日本社会への配慮からか、安倍首相は「インドが核実験を開始するならば、協力を停止することを了解いただいた」さらに「日印間の原子力協力は平和的目的」と発言していますが、発表された共同声明や協定の覚書にはそれに関わる具体的措置は記載されていません。今後国家間の約束としてどのように担保していくのか明確ではありません。特に使用済み核燃料の再処理によって生み出されるプルトニウムの軍事転用についても、課題を残しています。
NPTは、核兵器国を5か国に限定して核軍縮交渉の義務を負わせ、核兵器非保有国には国際原子力機関(IAEA)の監視を義務づけることで、「平和」利用に限定して原子力の利用を認めています。核兵器をこれ以上拡散せず、核軍縮を世界規模で進めようというのがNPTの趣旨であり、5年に一度NPT再検討会議を繰り返し行ってきました。インドは、NPTに加盟せず核実験を行い核兵器を保有した国であり、隣国パキスタンや中国などとも緊張関係にあります。インドへの原子力協定の締結は、NPT未加盟の核保有国パキスタン、イスラエル、NPTから脱退を表明した北朝鮮などへの影響も大きく、NPT体制の空洞化と核兵器の拡散を呼び込むものとしてきわめて問題です。
日本の原子力メーカーは、概ね大筋合意を歓迎するとしていますが、政府と企業結んでの国策とも言える原子力輸出は、経済を優先するあまり、被爆国日本のこれまでの核兵器廃絶へのとりくみを否定する非倫理的政治行為であり、将来に禍根を残すことは明らかです。広島市の松井一実、長崎市の田上富久両市長が、協定の締結合意を非難する発言を行っていることの意味を、安倍首相はしっかりと捉えなくてはなりません。広島と長崎への原爆投下という悲惨な歴史を持ち、福島第一原発において過酷事故を経験し、今なお放射能汚染の深刻な問題を抱える日本は、核不拡散・核兵器廃絶、脱原発とりくみの先頭に立たなくてはなりません。そのことは、日本の国際社会への責務だと考えます。
加えて、安倍首相は米印両海軍の海上共同訓練「マラバール」に、日本の自衛隊が定期的に参加すること、日本からの防衛装備や技術移転を可能にする協定も締結しました。米国による日本海から南シナ海、インド洋に及ぶ「中国包囲網」の全てに「積極的平和主義」を持って荷担しようとする安倍政権の政治的スタンスは、アジアに緊張と混乱、対立をもたらすもの以外の何ものでもありません。
原水禁は、核廃絶への被爆者の、そして世界の人々の切なる願いに耳を傾け、インドとの原子力協定の締結に反対し、安倍政権の積極的平和主義の欺瞞を明らかにしていきます。そして「核と人類は共存できない」とした先達の思いを実現するため、更なるとりくみに邁進します。