繰り返される米兵による女性への暴力・暴行事件に強く抗議する
昨年12月、嘉手納基地所属の空軍兵士が沖縄本島中部の公園で声をかけた16歳未満の女性を誘拐して米軍基地外の自宅に連れ込み、性的暴行におよぶ許しがたい事件が発生した。
事件当日の女性の家族からの110番通報をもとに沖縄県警による捜査が行われ、今年3月27日に起訴に至った。起訴を受けて外務省はエマニュエル駐日米大使に綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れたが、他方で沖縄県には何の連絡もしなかった。このため、沖縄県は6月25日に報道があるまで、起訴から3カ月が経ってもこの事件を把握できないままだった。これについて、林官房長官は「関係者のプライバシーへの配慮」「捜査公判への影響の有無を考慮」したと釈明し、外務省の報道官も「常に関係各所への連絡通報が必要だとは考えていない」と述べている。しかし、県民の生命や安全を守る責務を負う沖縄県に通報がないことは重大な問題であり、日本政府や外務省は「被害者のプライバシー」に配慮したのではなく、6月16日に投開票が行われた県議会議員選挙や6月23日の「慰霊の日」の岸田首相の訪沖といった政治日程を踏まえて沖縄県内で事件への抗議の声が高まることを恐れたのではないか。また、これまでの辺野古新基地建設をめぐる国と県の対立が影響を及ぼしたことも否めない。
起訴により日米地位協定にもとづいていったん日本側に引き渡された被告の米兵の身柄は、現在は保釈によりふたたび米軍基地内へと移されている。6月25日の報道によりこの事件が発覚した後、27日に沖縄県庁を訪れた米第18航空団のエバンス司令官は被告について「裁判期間中は基地の外へ出られないよう関係者に指示し、パスポートも差し押さえている」と報告しているが、米軍基地内での米軍による身柄確保は過去に米兵が引き起こした犯罪事件を振り返ると、証拠隠滅や逃亡の懸念がぬぐい切れない。そもそも在日米軍基地内では日本当局による出入国審査が行われておらず、パスポートを取り上げることが被告の逃亡を防ぐ有効な手段であることを意味しない。しかも、エバンス司令官とドル駐沖縄米国総領事は県庁を訪れた際に「遺憾の意」は表明したものの、被害者や県民への謝罪の意志は示さなかった。
沖縄では、今回の事件にとどまらず、米兵による女性に対する暴行、暴力事件が相次いでいる。1972年の復帰後、2023年までの51年間で沖縄県内における米軍構成員(軍人、軍属、家族)の刑法犯による摘発は6235件、摘発者は6124人にものぼり、うち殺人、強盗、放火、不同意性交など「凶悪犯」の摘発は586件、759人をしめている。日本政府に県民、国民の安全や尊厳を守る姿勢が欠如しているなか、日米地位協定の下で犯罪を起こした米兵が適正に処罰されないこと、被害者への補償がなされないことも深刻な問題である。とくに不同意性交については被害者の多くが泣き寝入りを強いられており、表面化している摘発件数は氷山の一角に過ぎない。
今年に入ってからも米軍構成員の刑法犯による摘発は28件、34人にのぼり、うち「凶悪犯」は5件、4人を占めている。5月に20歳代の海兵隊員が女性に性的暴行を加え、抵抗した女性にけがを負わせて逃亡した後、通報を受けた県警に米軍基地外で不同意性交致傷の疑いで逮捕された。6月3日には海兵隊の大尉が飲酒したうえで交際相手の女性に暴行して全治日数不詳の打撲を負わせ、傷害の疑いで現行犯逮捕された。
さらに、4月には海兵隊員が県内のコンビニエンスストアでナイフを店員につきつけて現金約13万円を奪った強盗事件が発生した。6月9日深夜には北谷町のホテルで泥酔した海兵隊の少尉がホテルの備品を破壊して器物損壊で逮捕され、さらに22日早朝には北中城村で基準値の約3倍の酒気を帯びた状態で乗用車を運転した陸軍兵士が逮捕された。一般の兵士ばかりか将校までが事件・事故を繰り返すなど、米軍の規律の崩壊はますます深刻になっていると言わざるを得ない。
「綱紀粛正」「再発防止の徹底」では、米兵の犯罪はなくならないことは明らかである。新基地建設を阻止し、さらに沖縄から米軍基地をなくすこと以外に安心・安全な生活を実現する途はない。12月に発生した米兵による未成年の女性への性的暴行事件と日本政府・外務省の情報隠しに対し、これまでに浦添市議会、那覇市議会、北中城村議会で抗議決議が可決されている。平和フォーラムは相次ぐ米兵による女性に対する暴力事件、暴行事件に最大限の怒りをもって抗議し、沖縄の仲間たちとの連帯を強めつつ、米軍基地の撤去に向けたたたかいのいっそうの強化を決意し、全国に呼びかける。
2024年6月28日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 染 裕之
共同代表 丹野 久