最高裁、金沢市役所前広場訴訟で「不当判決」、しかし「我々の主張」を全面的に認めた裁判官がいた

 

2023年3月20日

石川県憲法を守る会

代表委員 岩淵 正明(弁護士)

同   宮岸 健一(石川県平和運動センター共同代表)

同   盛本 芳久(社民党石川県連合代表)

同   澤  信俊(金沢星稜大学名誉教授)

( 公 印 省 略 )

「金沢市庁舎前広場護憲集会不許可事件」最高裁判決に対する抗議声明

2月21日、最高裁判所は第3小法廷において、上告を棄却する判決を言い渡しました。私たち石川県憲法を守る会は、4人の判事による多数意見により上告を退けたことに対し憲法擁護の立場から強く抗議します。

多数意見は、憲法が保障する基本的人権において、最も中核的な権利である表現の自由の制限を、行政裁量権を優越させることにより合法・合憲としていることは看過できません。

しかしながら、今判決言い渡しは、通知文書により棄却する通例とは異なる扱いとなりました。それは、上告受理申し立てを棄却する際、判事の一人宇賀克也裁判官(行政法学者)が反対意見を述べており、本件上告申し立てに際しても、差し戻しを主張する強い反対意見を述べていることによるものと考えられます。

宇賀克也判事の反対意見では、

「原判決は破棄を免れない 国家賠償法上の違法性及び損害額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。」と言い切りました。

その論拠として、市庁舎前広場は、その形状、位置、利用実態、市庁舎前広場管理要綱が存在したことから、庁舎とは区別された公共用物であると認めたうえで、市の事務又は業務に支障を及ぼさない範囲で、空間的・時間的分割使用を認めるべきであるから、管理規則の適用を前提とすることには賛同できない。

また、不許可理由は結局のところ、「政治的中立性」への疑念が市の事務・業務に支障を及ぼすおそれに尽きるとし、その抽象性によって不許可の「正当な理由」とはなり得ず違法であり、原判決は破棄を免れないと明示しました。

さらには、訴訟の場では30年ぶりといわれるパブリック・フォーラム論を展開し、管理規則を適用した不許可処分は憲法第21条1項に違反しており、原審の判断には憲法の解釈適用を誤った違法、法令違反があるため、原判決は破棄を免れない。

その文面から、多数意見への憤りをぶつけるかのような激しく厳しい批判を展開しています。

これらの論点は、2017年の提訴以来、法廷での主張、意見陳述、尋問、学者論文等の提出を通じて、私たちがこの問題を立憲的に判断するように求めてきた諸点があますところなく取り入れられたものです。地裁判決、高裁判決、最高裁多数意見に一貫する権力擁護のための憲法規範の軽視とな一線を画しており、まさに胸のすくような反対意見を引き出したということができます。

私たち石川県憲法を守る会は、この6年間、市庁舎前広場こそ、護憲集会に相応しいとの考えを貫き、金沢市に対して使用許可申請を出し続けてきました。集会の開催を実態化させる努力を弁護団との連携の下、粘り強く行っても来ました。節目での市民集会、良識ある判決を求める市中デモ行進にも幾度となく取り組んできました。そうした足元での憲法破壊を許さない闘いが、最高裁をして反対意見を明記した判決書を手交させる局面を切り拓いたものと確信します。

私たちは、金沢市に対し、さらには全国の自治体当局に対し、憲法の保障する表現・集会の自由の重さを再認識し、公共的な施設における表現の自由の促進に力を入れるように求めるものです。

国会の数の力で、改憲の発議を目論む動きが加速しています。また敵基地攻撃能力保有など実態改憲の動きは暴走しています。このような時代状況であるからこそ、私たちは憲法規範の体現を政治・行政に求め、人権保障のための自らの闘いをさらに進める覚悟です。

以上、声明とします。

 

【関連資料】宇賀克也判事の反対意見の論旨

その1、本件広場は公共用物である

旧広場の管理には、庁舎管理の例外として「庁舎前広場管理要綱」を定め、本市の事務事業の執行に支障のない範囲で市民の利用に供させるものと定められた。庁舎建物とは区別された公共用物として、一般の利用に供されたと考えられる。

本件広場は、改修工事により従前以上に市民の憩いの場として利用されることを目的として整備されたものと伺われる。旗、のぼり、プラカード、立て看板を持ち込む行為が原則として禁止されることとは適合しない。来庁者及び職員の往来に供されることも予定された施設であるとはいえ、そのことを主たる目的とする施設であるとは考えられない。

したがって、本件広場は、本件規則第2条の「庁舎等」には含まれず、公の施設として地方自治法第244条の規定の適用を受けるか、又は公の施設に準ずる施設として同条の類推適用を受けると解するべきである。

その2、公用物と公共用物の区別は常に截然としてできるわけではない。公用物と公共用物の性格には、グラデーションがあり、単純な二分法を用いることには、疑問がある。公用物や利用者の限定された公共用物であっても、空間的・時間的分割により広く一般が利用可能な公共用物となることがある。

公用物は公用物としてしか利用し得ないという論理は、行政の実態とも適合せず、本件広場の利用実態等を十分に吟味せず、本件広場への本件規則の適用を前提とすることには賛同し難い。

その3、 不許可につき政治的中立性は「正当な理由」とは認められない。

30分程度で300人の使用、祝日開催で執務に影響を与えることはない。

集会許可により、被上告人に苦情・抗議が寄せられた実例があるとの主張はなく、苦情・抗議のおそれは、過去の実例のもとづく具体的なものではない。

結局、不許可の理由は、市民が被上告人の中立性に疑問を持ち、被上告人の事務又は業務に支障が生ずる抽象的なおそれがあるということに尽きる。しかし、それが「正当な理由」には当たり得ないと考えられるから、本件不許可処分は違法であり、原審の判断に違法があり、原判決は破棄を免れない。

一般職の公務員による法の執行に政治的中立性が要請されることは当然であるが、首長や議員は、特定の政策の実現を公約して選挙運動を行い当選しているものであり、市長や市議会議員が立案して実行する政策が政治的に中立であることはあり得ない。

被上告人の政策を批判すること自体は、民主主義国家として健全な現象といえ、否定的にとらえるべきではない。極端な抗議行動や妨害の場合が抽象的にあり得ることを理由として、本件広場の使用を許可せず、集会の自由を制限することは角を矯めて牛を殺すものといわざるを得ない。

その4、 パブリック・フォーラム論から(予備的な見解)

いわゆるパブリック・フォーラム論に基づき、本件広場における集会に係る行為に対し本件規定を適用することは、憲法第21条1項に違反しており、したがって本件規定を不許可処分理由として援用できないこととなる。原審の判断には憲法の解釈適用を誤った違法、法令違反があり、原判決は破棄を免れない。

本件広場は、形状、位置及び利用の実態に鑑みれば、パブリック・フォーラムとしての実質を有すといえる。パブリック・フォーラムにおける集会でなされるおそれのある発言内容を理由に不許可にすることは、言論の自由の事前抑制になるので、原則として認められるべきではない。本件規定が念頭に置いていると考えられるような抽象的な支障による不許可を認めれば、その時々の市長の政治信条次第で「見解による差別」を認めることになりかねない。

そもそも集会の自由は。情報を受ける市民の自律的な判断への信頼を基礎として、様々な意見が流通することにより、思想の自由市場が形成されることを期待するものである。被上告人の事務又は業務に支障を生じさせるような市民を一般市民として措定し、高度にパターナリスティックな規制を行うことにつき、憲法第21条が保障する集会の自由に対する制約として正当化することは困難であると思われる。

以上

20230222115049「護憲集会の不許可、合憲」ほか新聞記事

 

<参考> 

R5/2/21 15:00~ 第二次金沢市役所前広場事件 最高裁判決 整理メモ

メモ作成者:石井翔大

※最高裁判所 第三小法廷(裁判官5名)。

上告棄却(4名が多数意見、1名の反対意見)

第1 判決内容

1 多数意見

本件規則の適用は憲法21条1項に反しないため、上告棄却である。

  • 本件広場には本件規則が適用される。
  • 集会の自由は重要であるが公共の福祉のもと制限される。
  • 本件広場は庁舎の一部であり、主な目的は庁舎としての利用。住民福祉の利用は主な利用目的ではない。
  • 本件規則5条12号は同14号の趣旨も含めて、市の中立性を損なうおそれに伴う市の運営等に支障が生じるおそれがある場合に使用不許可をするものであり、その目的に必要性がある。
  • 上記支障については事後的に対処することが困難である。他方、住民らは集会自体を禁止されるわけでなく他の施設でこれを実施できるから強い制限でない。そのため、合理性のある規制である。
  • 本件規定は憲法21条1項に反せず、その適用についても同様である。
  • その他の点も違憲でない。

2 反対意見(宇賀裁判官)

破棄差戻しがされるべきである。

  • そもそも本件規則は本件処分で適用される規範でない。
  • 本件広場はいわゆる公の施設であり地方自治法244条の適用又は類推適用がされるべきものである。
  • 広場要綱は廃止されているので泉佐野事件の要件を参考として、使用の不許可につき正当な理由が存するかを検討すべきである。本件処分には具体的危険はなく、正当な理由はない。そのため、本件処分は違法である。
  • (予備的な判断)仮に本件規則が適用されると考えても、本件広場はパブリックフォーラムであり厳格な審査基準の妥当するものであるが、その規制にやむに已まれぬ利益等の立証は市からはなされていない(抽象的なおそれによっており、むしろ観点規制の疑いすらある)。そのため、本件規則の適用は憲法21条1項に反し、違憲違法である。
  • 主位的には本件は244条の解釈適用を誤った違法な処分であるが、仮に本件規定が適用されると考えた場合にあっても本件処分は憲法21条1項に反する違憲違法な処分であり破棄を免れない。

国家賠償法上の違法性や損害額の算定等で差戻しをすべき事案である。

第2 コメント

1 (第一次訴訟との比較において)上告が適法になされた点、正面から憲法判断を行ったという点は評価したい。これを受けて、何故第一次訴訟は門前払いとなり、本件は実質判断がなされたのか、この違いは民事訴訟法や憲法の学者において研究すべき対象だと思いました。

2 本件処分が、憲法上の権利としての集会の自由を認め、かつ、その自由権に対する制限であるとの前提の上で判決が出された点は、重要かもしれない。

※泉佐野事件やその後の判決で隙間になっていた部分(いわゆる公用物の使用の場面)につき、憲法的統制が及ぶということを示した判例とも読める。

公用物の使用の場面にあっても、集会の自由が存することを前提にその正当化につき憲法適合性審査を要するものとした判例とすれば、集会の自由の保障を前進させたといえなくもない。

3 反対意見(宇賀裁判官)は、上告人の主張をかなりくみ取っており、説得的な判示をしており、今後、集会の自由に関する議論が活発化されることが期待される。

4 多数意見については、基本的に原審の事実認定にのっかっており、同様におかしさが残ってしまった。特に、事実認定として、「本件広場が庁舎の一部である」と認定されこれを前提に審査基準をたてられたこと、「政治的中立性のおそれをそれに続く市の運営についてのおそれ(抽象的な二段のおそれ論)」にのっかってしまったことは、当該判決のもっとも問題のある判断だと思われる。

5 手段の合理性の判断についても、行政による事後的対処困難性、住民らの他の場所での集会可能性の2点で、その合理性が肯定されてしまった点も問題のある判断だと思われる。

6 結論として、本判決は集会の自由に関する先進的判断というべきものであり非常に価値の高い判決だと思う。他方、最高裁の憲法判断の中身については合理性の疑われる結論ありきの理屈に基づいて説得力に欠けるあてはめをしてしまっている点は大いに問題提起されるべき案件だと思われる。

反対意見の説得力も含め、今後の議論が楽しみな判決であり、そこに参加できたことが何より光栄に思った。

以 上

 

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