2021.12.24県知事に提出 原子力防災計画・避難計画に関する質問書

1.「要配慮者対策、避難先や移動手段の確保、国の実動組織の支援、原子力事業者に協力を要請する内容等についての検討及び具体化」することとされている。各課題の協議の進行状況を聞く。
2.緊急時対応の取りまとめ、原子力防災会議での承認はいつ頃を見込んでいるのか。
3.関係市町のオブザーバー参加は求めないのか。

1は内閣府のHPにアップされている以上の情報はなし。作業部会の内容は情報公開請求しても出てこないようで、協議内容についてさらに踏み込んで確認していくことは今後の課題。
2は福島事故後再稼働しているサイトではすべて「緊急時対応の取りまとめ、承認」を終えているので、志賀の再稼働見通しについて防災の面から探りを入れた問い。仮に承認時期の目標を定めていたとしても答えないとは思うが、回答全般を通じて、目途を立てられる段階でないことはわかる。
3は、協議会メンバーは国の関係機関と石川・富山両県や両県警などで、これまで関係市町は参加していないが、他のサイトの協議会では市町村の参加の例も多く、今後の見通しを聞いたもの。今後、会議内容の項目によっては関係市町のオブザーバー参加もありうるとのこと。緊急時対応の取りまとめにあたっては、会議の席上だけでなく、資料や現場の状況の確認などが必要で、市町の協力なしではできないとのことだった。

Ⅱ 長期避難への準備・覚悟はできているか
1. 原子力防災知識の住民への普及、啓発について(防災計画第2章原子力災害予防計画より)
(1) 福島第一原発事故の前と後で、原発の危険性(重大事故が起こった場合の甚大かつ深刻な被害、広域かつ長期にわたる被害)の伝え方はどのように変わったか。
(2) 「災害教訓の伝承」が防災計画に盛り込まれているが、福島第一原発事故の教訓をどのように理解し、資料収集をおこなっているのか。

福島事故、新たに規制委から原子力災害対策指針が示され、原子力防災の仕組み自体は大きく変わったが、訓練の監視行動などを通じての印象では、福島事故前の安全神話に囚われた「事故は起きない」「念のための避難訓練」が継続している印象が拭えない。
1は今回の質問状の総論にあたる問い。規制委の更田委員長は「新規制基準は原発の安全を保証するものではない」と繰り返し明言し、防災担当の内閣府も事故は起こるものとの前提で防災対策の具体化を求めているが、(1)に対する回答は「福島事故前は『重大事故は発生しない』というメッセージだったが、事故後は『重大事故に至らないよう幾重にも対策を講じている』と変わってきている」というもの。これは規制委や内閣府の認識とも異なり、新たな安全神話を生み出すだけの驚くべき問題発言。県庁組織でいうならば、原子力安全対策室は、幾重もの安全対策を徹底させ事故を防ぐたためチェック機能を働かせてもらわなければならないが、危機対策課は「重大事故は起こるもの」との前提で防災対策を立てなければならない。後の質疑の中で「まずは重大事故にならないような対策はしっかり講じるべきということが間に入り、その上で事故は起こる可能性があるということで防災対策を講じていく必要があると考えている」と若干軌道修正されたが、この重大な認識のズレは、他の回答にも随所でつながっていくことになる。
(2)も総論的な問い。今回の質問状は全体を通じて長期避難や大量の放射性物質の放出を現実の問題として捉え、どこまでリアルに向き合う覚悟があるかを問うものだが、その大前提として福島事故をしっかり教訓化しなければならない。規制委が示す見解程度は示すものと予想していたが、「広範囲な住民避難とか情報の伝達、避難先の確保などで様々な問題が生じたということは承知している」という超薄味回答。資料収集も計画には盛り込んでいるが、実際はどこまでやっていることやら。
福島の教訓を避けて通る原子力防災はありえないが、その後の質疑、意見交換の中でその懸念はあたってしまった。

2. 避難時の持ち物について
(1) 避難計画では避難住民に対して持ち物は「最小限」とするよう求めており、今年度の防災訓練では手荷物なしで参加する住民が多かった。一方、県発行の「原子力防災のしおり」P5では持ち出し品一式が記載されている。これらが、県が想定する最小限の持ち物と理解してよいか。
(2) 避難生活が数ヵ月、あるいは数年に及ぶことも想定し、一時帰宅がいつできるかもわからないこ とを念頭に、避難時の持ち物を日頃から準備するよう対象地区住民に周知すべきではないか。

長期避難、しかもいつ帰宅できるかもわからないのが原子力災害。緊急時の持ち物は事故をリアルに考えるきっかけとなる。仮に1年間戻ってこられないとしたら何を持っていくか、考えたくもないが、原発周辺地域住民は考えておかなければならない。
回答は、「非常時の避難で一番大事なのは迅速性。そのため携行品も絞られ、最小限ということで周知している」とのこと。「最小限」が独り歩きし、今年の原子力訓練でも多くの人は手ぶら。地震に備えた総合防災訓練などでは参加者が防災リュックを担いで避難所へ向かう様子は当たり前になっているが、防災リュックすら見かけない。おそらく財布やスマホはポケットに入っているのだろうがまさに「最小限」だ。県が発行する「原子力防災のしおり」では非常食や飲料水、2~3日分の衣類、預金通帳や印鑑、健康保険証やお薬手帳、常用薬なども記載されている。
何を持ちだすかはバス避難か自家用車避難かでも違ってくると思うが、訓練を見る限り、長期避難の覚悟ができている住民は果たしているのだろうかと思わざるを得ない。「そんな覚悟をするくらいなら原発廃炉だ」という声が出ないよう、「最小限」を強調し、長期避難の心構えなどさせないようにしていると思えてならない。質疑では「福島の事例もあるので、どこまで最小限の携行品を広げるか検討していきたい」との回答あり。

3. ペットの同行について
(1) 防災計画ではペットとの「同行避難を呼びかける」とあるが、避難計画に具体的な記載はない。各市町避難計画も同様である。ペット同行は実際に可能か。
(2) 防災計画に沿った対応を具体化するならば、避難退域時検査場所での検査や除染、避難所での受け入れ態勢等の整備が必要になるのではないか。また飼い主にも相応の責任が求められ、注意事項など事前の周知も必要ではないか。

ペットを飼っている人にとってペットは家族同然。長期避難となると家に残していくという選択肢はありえない。東日本大震災の教訓も踏まえ、いまや他の自然災害時でもペット同行避難はスタンダードな課題となっている。回答では「県もペット同行避難は大事であり、防災関係の講演や研修会などでも関心が高いのでカリキュラムを作って対応し、避難所での飼育スペースの確保にも努めている」とのことだった。
問題は、他の自然災害と原子力災害の違いだ。放射能汚染のリスクがあるので、人間同様、検査と除染の手続きも必要。これについては「避難退域時検査場所で携行品に準じて対応することとしており、国にはマニュアル等への記載も求めている」とのこと。言うは易しだが、大型犬などの対応や汚染が確認された場合のシャワー除染などいざとなると課題は多い。さらに検査・除染以外にも、例えば屋内退避指示が出た段階で人間同様ペットも屋内に入れること、長距離(50~70キロ程度)・長時間(渋滞ありで10時間以上のことも)の避難行動となるが30キロ圏内では屋外での排せつは避けなければならない。ストレス解消のドッグランもできない。餌やトイレシートなども余裕を持った対応が必要となる。ネコアレルギーや犬が吠えるのを怖がる人もいる。基本は自家用車避難となるだろう。自家用車のない高齢者は同乗させてくれる人を事前に確保しておかなければならない。事前の周知も含め、課題は多い。

4. 防災計画における「長期避難」の位置付けについて
(1) 防災計画では「第3章 原子力災害応急対策計画」の中の「第7節 13長期避難への対応」で「県は・・・避難の長期化等に鑑み、必要に応じて、旅館、ホテル等の借り上げを行い、避難者に移動を促す。」とあるのみ。関係市町の防災計画では記載すらない。(※間違い)「長期」はどれだけスパンを想定しているのか。原子力災害の特殊性、そしていまだ原子力緊急事態宣言が解除されていない福島第一原発事故を教訓とするならば、短くとも数年単位の長期避難を想定すべきではないか。
(2) 長期に及ぶ避難生活では避難者の生活保障や精神面も含めた健康のサポート、子どもたちの学習の機会の保障など、復旧計画に至るまでの課題は山積している。防災計画では緊急事態宣言解除後の原子力災害復旧計画の中で記載されている損害賠償請求も長期避難の中で対応しなければならない。長期避難を支える様々な対策をあらかじめ策定しておくことが必要ではないか。

(1)について、「『長期避難』は数ヵ月から数年に及ぶことが十分想定されると」とのこと。ならば、それに備えた準備はできているか。「応急仮設住宅の供与とか被災者の健康管理、雇用・就労支援については、福島県内の対応が今も続いているが、福島県の対応が参考になると考えている」との回答があったが、他の自然災害と異なる原子力災害特有の課題も多い。まさに福島の教訓から学うべきこと山積だ。
これについては議論が尽きないが、今回は時間の関係もあり深めることはできなかった。

Ⅲ 大規模な放射性物質の放出を想定しているか
1. UPZ外への庁舎移転を想定した市町の業務継続計画は策定されているか。

「UPZ内に庁舎があるのは6市町。UPZ外への移転を想定した業務継続計画は、現状は策定されていない」との回答。質疑では「必須要件になっていない」との回答もあったが、内閣府が示す「市町村のための業務継続計画作成ガイド」では 代替庁舎は業務継続計画の「重要な6要素」の一つとされている。このガイドは様々な大規模災害を想定したもので原子力災害を除くような記載はない。福島事故では埼玉県内へ行政機能を移した例もある。住民へ一時移転の指示を出している中で、放射線防護対策すら講じていない行政庁舎に自治体職員を長期にわたってとどめることは許されないはず。各自治体が本気で重大事故に向き合っているかどうかのメルクマークともなるのではないか。

2. 避難退域時検査場所について
(1) 指針では「内部被ばくの抑制及び皮膚被ばくの低減、汚染の拡大防止のためには不可欠」とする一方で、「避難及び一時移転の迅速性を損なわないよう十分留意して行う」という方針が加わった。①車両上部の検査不要の根拠、②車両検査で汚染なしならば乗車している住民の汚染もなしという判断の根拠を聞く。
(2) 今年度の訓練では、車両や住民は、汚染があっても簡易除染ですべて除染が完了するとの想定で、持ち物の検査もなし。検査員や簡易除染を担当する除染員らは、防護服やシューズカバーなども着用なし。内閣府が示すマニュアルよりさらに簡易な検査・除染体制、楽観的な想定となっていたが、このような簡易な手順で対応する県独自のマニュアルが作成されているのか。
(3) 防災計画によれば、避難退域時検査の実施は、UPZ内の住民のみが対象となっている。しかし、県が行った避難時間シミュレーションによれば、PAZ内の住民が30キロ圏外へ避難するまでに要する時間は、悪天候や道路通行止め、観光のピーク時といった条件が加われば6時間以上を要するとの結果が出ている。避難行動中に放射性物質の放出があればPAZ内の住民も汚染の可能性があり、避難退域時検査場所での検査・除染の対象とすべきではないか。

以前はスクリーニング検査場所と言われていた避難退域時検査場所の検査や除染は、国のマニュアル(「原子力災害時における避難退域時検査及び簡易除染マニュアル」)の変更や通知等によってかなり簡略化されている。今年度の原子力防災訓練(監視行動の報告参照)ではそれをさらに上回る簡略な検査体制となっている。30キロ圏を超えたあたりでこの検査場所を設ける理由は、質問に記載してあるように「内部被ばくの抑制及び皮膚被ばくの低減、汚染の拡大防止のため」である。そんな重要な役割を担っているはずの検査場所の手続きがなぜ簡略化(手抜き)されているかといえば、車一台ごと、住民を一人ひとりをきちんと検査をしてるととんでもない渋滞発生で大混乱必死だからである。わずかバス数台、参加住民数百人程度の避難訓練でもバスは列をなす。志賀原発30キロ圏には氷見市も含め約16万5千人が暮らす。事故の状況や風向きによって必ずしも全員が避難対象となるかはわからないが、一人当たりの検査時間(平均2分半程度)に通過する人数を掛け、検査するチームの数で割れば、対象地区住民が検査場所を通過する時間を簡単に予想できる。全員参加の訓練を行うまでもなく防災計画の破たんは明らか。これは志賀に限った課題ではなく、全国共通の課題なので、国は「避難の迅速性」確保という名目で手抜き検査体制の実現に向け、方針を大きく変更した。
もちろん迅速な避難は重要な課題なので、合理的な理由、根拠があるのならば検査の簡略化もありだが、その根拠は到底理解しがたいものばかり。個々の検査、除染体制については、県は国のマニュアル、通知に従ったとの回答に終始し、時間の関係上、今回は踏み込んだ議論はできなかった。
基本的な、そして重要な認識の違いを3点だけ指摘をする。
まず、検査要員、除染要員の軽易な装備に関連しての質疑の中で示された「検査場所自体は30キロ圏外にあり、基本的には防護の必要はない」との認識について。福島事故前は10キロの壁とも言うべき「放射能は10キロ圏外には拡がらない」という安全神話があったが、これでは新たに「30キロの壁」という安全神話ができてしまう。福島の現実を見ても、そして原子力災害対策指針を見てもそのような記載はない。プルームが30キロ圏外まで流れる可能性は否定しておらず、「原子力災害時における避難退域時検査及び簡易除染マニュアル」ではバックグラウンド値が高くなると要員の安全はもちろん、検査にも支障が出るので、避難経路上にさらに複数の検査場所を想定しておく必要性が指摘されている。
次に(3)の回答として「PAZ(原発から約5キロ圏)は事故の進展に応じて、放射能の放出前に避難指示が出て避難を行なうから被ばくはしない。したがって避難退域時検査場所での検査や除染の必要もなし」とのこと。5キロ圏住民は被ばくの可能性なしという2つ目の「安全神話」が生まれそうだ。質問にも記載した通り、条件によってかなりの避難時間を要することが明らかになっている。放射能が後ろから追いかけてくる可能性もあるし、何より大前提は原発敷地の中の状況が北陸電力から迅速・正確に伝えられること。北陸電力は臨界事故が起こっても8年間も隠し通し、大量の雨水が原子炉建屋に流入して電源喪失の可能性があっても警報を無視してきた。そういう意味では他の原発以上に5キロ圏住民のリスクは高い。はるかに高い。本当にリスクがないというのならば安定ヨウ素剤の事前配布すら必要がなくなる。
さらにこの質疑に対する回答の中で「UPZ内ではモニタリング調査をした上で、放射性物質が地面に沈着した後で逃げるということになる」との見解も示された。避難退域時検査場所の簡易化と対になる考え方で、国からの通知を根拠にしていると思われるが、これも実はとんでもない大きな方針の転換である。現行の原子力災害対策指針も県の原子力防災計画も避難計画もUPZ(おおよそ5~30キロ圏)については空間線量が500μSv/hを超えた場合OIL1として対象区域住民は数時間以内の避難、20μSv/hを超えた場合はOIL2として1週間以内に一時移転とされている。ところが、放射性物質が地面に付着するまで(それを検査で確認するまで)、放射性物質が浮遊する中、屋内退避を継続するという話である。屋内退避は、屋外にいるより屋内にいた方が被ばくを低減できるという意味にすぎない。5キロ圏内と30キロ圏外の安全神話に対して、5~30キロ圏住民にはさらなる被ばくの受入れが求められている。
屋内退避のリスクについては、後のⅣ3の項目を参照していただきたい。

3. 2次避難場所について
(1) 県内のバックアップ市町は、内灘町、野々市市、川北町、能美市、小松市、加賀市と自治体名だけ記載されている。事前に2次避難場所の施設名を記入した計画は作成しないのか。
(2) 奥能登方面についてはバックアップ市町の記載がないが、どのような対応を考えているのか。
(3) 富山県への避難も、災害状況によっては必要になると思われるが、協議の状況を聞く。

県の避難計画では避難元の地区と避難先の施設がマッチングされ記載されている。しかし、事故の態様や複合災害の状況によっては予定された施設へ避難できない事態もありうる。そのための第二の避難先がバックアップ市町である。県では内灘町や野々市市など6市町をバックアップ市町としている。いずれも金沢、加賀方面である。輪島市や能登町、珠洲市も含む大規模災害で原発事故が起こった場合、予定された奥能登の施設は地元の住民の避難施設となり、志賀町富来地区や輪島市門前地区や七尾市中島地区、穴水町からの避難住民の受入れはできなくなる。さあ、どうする?というのが(2)だが、金沢、加賀方面のバックアップ市町に避難するそうだ。「避難経路は再考する必要もある」とのことだが、志賀原発は半島の首根っこに位置するため、原発から遠く離れたう回路など、空路、海路を除けば、存在しない。おそらくここでも「被ばくの低減」の名の下、被ばくしながら金沢、加賀方面へと突き抜ける移動となるだろう。

4. ヨウ素剤の配布について
(1) PAZ内はいつ事前配布を行うのか。
(2) PAZ外の住民等への配布・服用体制の整備状況を聞く。
(3) 避難指示後のPAZ外の住民等への配布によって、渋滞の発生、避難行動がさらに遅れることも必至と思われるが、見通しを聞く。

石川県は、PAZ内の安定ヨウ素剤の事前配布を国から求められているが、行っていない。事前配布の課題として誤飲などが懸念されるが、「使用期限後の回収も難しく、国のマニュアルでも示されていない」のが主たる理由とのこと。志賀原発は停止中で事故リスクも低いとの認識も、未配布状態の継続をよしとする理由の一つとなっているのではないか。
事前配布の対象とされていないPAZ圏外の住民への配布体制も大きな課題。必要数は備蓄されているが、何万人もの人に遅滞なくどう配布するか。「避難行動時の経路途中でドライブスルー方式を想定している」とのこと。おそらく自治体職員が担当すると思われるが、屋外の業務なので被ばくのリスクは高まる。また、住民に何日間もの屋内退避を強いるなら、避難行動前の配布・服用が必要となるはず。現状は矛盾だらけ。他県では、UPZ圏内も事前配布せざるを得ないのではないかとの声が該当地区住民から上がっている。

Ⅳ 実現可能な避難計画・実行体制となっているか
1.実践的な防災訓練となっているか
(1) ブラインド訓練は訓練参加者のどの範囲で導入されているのか。
(2) 避難方法・ルートの選択は、まずは道路による避難を優先、さらにPAZ圏内住民の避難でも、風下方向は可能な限り避けるのが原則ではないか
(3) PAZ内住民への避難指示が出ている中、PAZ内の道路損壊の補修、あるいは除雪作業などを建設業協会に求めることは可能か。作業員の被ばくリスクは考慮されているか。

ブラインド訓練の導入は、福島事故前から私たちも求めており、2014年の国主催の訓練から導入され、以後も毎回、オフサイトセンターの運営訓練で導入されている。しかし、当初こそ緊張感が感じられたが、毎回ほぼ同じ想定で明らかにマンネリ気味。
今年度の訓練でも、訓練なので大枠は決めてあるとはいえ、風下への避難行動、緊急事態下の5キロ圏内での道路復旧作業など、いざというときにこんな判断ありかと思う展開が随所に。
(2)については、「風向き関係なく迅速に30キロ圏外へ避難する」とのこと。30キロ以遠まではプルームが追いかけてはこないということか。ここでも「30キロの壁」の安全神話がちらつく。ちなみに七尾市は中島地区に関して、「風向き等状況対応ルート」として野々市市への避難も想定している。
(3)については、住民の避難指示は出ているが放射能放出前で作業員の被ばくリスクはないので作業してもらうとのこと。こちらは5キロ圏の安全神話。これについては次の質問項目で議論。

2.民間事業者との応援協定の締結状況について
(1) 応急活動や復旧活動に関して、民間事業者の協力なしには防災計画は成り立たない。平常時から応援協定の締結を進めることとされているが、締結状況を聞く。
(2) 応急活動及び復旧活動に従事するにあたって、バス事業者以外の民間事業者の被ばく限度量を聞く。放射線防護に係わる資機材の提供や事前の講習等は行われているか。

(1)については、「県は医療救護や生活必需品、燃料の補給、人員や救援物資の輸送応急復旧工事など様々な分野で154団体と災害時の応援協定を締結している」とのこと。しかし(2)や前問の応急復旧工事の関係などで質疑を重ねると、原子力災害に特化した被ばくのリスクのあるところでの作業がともなう民間団体との応援協定は一件も締結されていないということが明らかになった。訓練では毎回バス会社の運転手さんが参加するが、バス協会との間でもいまだ協定は締結されていない。
バスの運転手さんの被ばく限度に関しては、8年前に原子力防災会議連絡会議コアメンバー会議が「共通課題についての対応方針」をまとめ、この中で「一般公衆の被ばく線量限度である1mSvを基本とする」という見解が示されている。しかし石川県も含め各地で協定の締結は進んでおらず、内閣府は2017年「原子力災害時の民間事業者との協力協定等の締結について」を示している。1mSvという数値を決めても、それを守るためには諸々事前に決めておかなければ運転手の安全は確保できない。バス協会としても曖昧な規定で協定締結とはいかないということだろう。災害復旧や除雪などでは建設業協会との協定が求められるが、ここでもPAZ内は放射能放出前だから大丈夫と言われも簡単に「それでは了解!」となるものではない。
(2)に対する回答の中では、「現実的にはこうした方々に被ばくリスクのある所で協力をお願いするというのはなかなか難しいのかなと思っている」と率直な思いも吐露された。現実にはその通りだろうが、この状態で事故を迎えたときにどういう事態を迎えるか。「緊急時だ。頼む。住民を迎えに行ってくれ」「道路の復旧だ。現場に向かってくれ」「除雪しないと住民は孤立状態だ。頼む」と言われ、拒否できるか。防護対策も不十分な中、なし崩しの対応が懸念される。
民間団体との協定締結ができないのなら原子力防災は成り立たず、残された道は速やかな廃炉しかない。このように書くと、次は協定締結に向け民間団体に圧力をかける動きがでないか心配になる。県や市町、北陸電力と様々な委託契約を結び、事業を行う団体の弱みに付け込むことはないか警戒し、私たちも監視しなければならない。
関連して消防団の被ばく線量についても聞いた。この間の訓練では被ばくのリスクのある場での行動も見られた。制度上は非常勤公務員なので被ばく線量も自治体職員と同様となるのか。これについては今後、地域原子力防災協議会を通じて、どのような活動に携わってもらうか検討するとのことだった。

3.UPZ内の住民の屋内退避について
(1) PAZ内の住民のスムーズな避難行動のためのUPZ内住民の屋内退避は、低線量被ばくのリスクを求めるものと言えるが、住民に理解されているか。
(2) 自主避難住民が相当の比率にのぼり、混乱必死となるのではないかと危惧する。2段階避難は機能するのか。

「周知を徹底する」との回答。この問題は先の避難退域時検査場所に関連しての質疑の中ですでに議論されているが、避難ではなく屋内退避をさせる方向へと国は徐々に舵を切っている。この問題は周知を徹底すればいいという問題ではなく、①屋内退避の安全が確保されていること、②屋内退避をする場所(自宅や避難施設)周辺が高濃度の汚染地域とならないこと、③避難指示に移行したとき、スムーズな避難が可能なこと、が最低限の前提条件となる。家にとどまり被ばくのリスクが高まるのならば、屋内退避の指示に従わず避難を開始する行動心理を批判することはできない。
原子力規制委員会の「原子力災害発生時の防護措置の考え方」では「屋内退避により、吸入による内部被ばくを、木造家屋においては四分の一程度」に抑えることができるとする。しかし、4分の1に低減されるのは1993年以降の家屋。原発立地県における木造住宅のうち37%は1980年以前の住宅で、この住宅の場合は56%に低減されるだけ。半分の低減効果もない。住民みんなが高気密住宅に住むわけではないという現実を直視した対策が求められる。

4.避難バスの確保
(1) コロナ対策も踏まえた避難用バスの必要数は何台を見込み、手配可能なバスは何台か。
(2) 観光シーズン等バス会社の繁忙期の対応は可能か。

「バスの必要台数は放射性物質の放出にもよるので一概には言えない」とし、「他県の例では避難住民の1割程度のバス避難を想定していて本県でも自家用車主体の避難と考えている」との回答。要するに必要台数、手配可能台数の検討はできていないということ。「コロナ対策を踏まえれば想定より多くのバスが必要になると承知している」とするが、具体的な数字は一切聞くことはできなかった。今後、地域原子力防災協議会で具体的な数字について詰めていくことになると思われるが、応援協定の締結なしに数字だけ積み重ねても実効性はない。

5. 要配慮者の避難について
(1) 放射線防護施設は最長何日間の屋内退避を想定しているか。
(2) 避難対象地区内の病院や福祉施設等の入院患者や入所者らの人数、避難先施設の受け入れ可能人数を聞く。受け入れは県内施設だけで対応可能か。
(3) 避難に必要な車椅子対応車両、ストレッチャー車両、救急車はそれぞれ何台を想定しているか。現在手配できる車両はそれぞれ何台か。

(1)について、「国のマニュアルでは3日以上の備蓄を求められているが、最長何日との想定はない」とのこと。避難先が確定し、移動手段を確保できなければ期限なく何日も施設内にとどまることになる。そうした事態を避けるための具体的な計画が(2)(3)となるが、「区域内の病院、福祉施設等の総定員が6871人であることしか把握していない」とのこと。要配慮者の避難は、総定数を把握しているだけではほとんど意味を為さない。地域原子力防災会議作業部会では3年前から課題として取り上げらているが、PAZ内の要支援者の調査が完了したのみとなっている。「緊急時対応の取りまとめの中できちんと対応していかなければならない」と今後の課題であることを認めた。

6. 複合災害について
(1) 地震による建物倒壊・損壊で屋内退避できないときの屋内退避指示、雪害や台風などで外出ができないときのOILによる避難指示など、自然災害と原子力災害の複合災害時には相反する行動が求められるケースが多々ある。防災計画第5章複合災害対策編では、優先すべき行動原則を明記すべきではないか。
(2) 近年、巨大台風襲来による暴風と豪雨、大洪水、高潮、大規模停電、さらに豪雪による交通網の麻痺や災害級の猛暑など日本列島でも「異常気象」が常態化している。相次ぐ巨大地震、大津波の脅威も含め、現代社会は巨大自然災害の危機に直面している。これらの災害に起因する原発の重大事故、あるいはこれらの災害と並行して起こる重大事故に対しては、住民の避難行動のみならずモニタリング体制や原子力災害医療体制も機能不全に陥ること必至である。原子力防災の限界を住民の前に明らかにしておくことも必要ではないか。

複合災害への対応は、今後、地域原子力防災協議会での緊急時対応の取りまとめの中で検討していくとのこと。「今後とも訓練、検証を重ね、継続的に改善を図り実効性を高めていかなければならない」というあまり意味を為さない一般論しか聞けず、踏み込んだ議論をする時間はなかった。
複合災害時は、たとえ被ばくの危険性があっても、まずは我が身に振りかかった命を脅かす災害から身を守ることを最優先にすることが大原則で、原子力防災は停止せざるを得ない。自然災害は防ぐことはできないが、原子力災害は一日も早い廃炉の実現で防ぐことは可能。訓練や検証で解決できる問題ではない。

Ⅴ コロナ感染防止と放射線防護について
1. オフサイトセンターは典型的な三密空間であり、新型コロナ感染リスクの高い空間だと思われる。現状の感染防止対策とさらなる対策の余地について聞く。
2. 避難車両内や放射線防護施設などでは、新型コロナ感染防止対策として三密回避が求められる一方で、放射性物質からの防護措置としては密閉が求められる。相反する対応が求められ中、内閣府が示す実施ガイドラインは最終的な対応を現場丸投げにしている。県の対応を聞く。
3. 避難所で求められる1人当たりの面積は2倍以上となる。避難先施設の見直しが必要ではないか。

(1)については「機械換気の能力を十分に生かしつつ、感染症対策(手指消毒や機材の消毒等)を徹底する。中に持ち込まないことが第一」とのこと。(2)については、「30キロ圏は窓を開けて走ることはない。乗車定員を減らし、体調の悪い人は別車両とするといった対応になる」との回答。放射線対策と感染症対策は相反するところがあることは認めたうえで、「放射線防護を優先しつつ、出来る限りの感染症対策をする」とする。このように言わざるをえないということ。
コロナ対策と原子力防災は矛盾し、両立しないことは昨年の防災訓練に対する抗議声明、そして今年の抗議声明でも指摘している。
(3)については、「感染症対策を踏まえると、これまでの考え方での避難所の収容人数が足りなくなるのではないかという心配は確かにある」とし、避難先、避難元の市町と今後検討をすすめていくとのこと。
コロナ前に策定した避難先リストは、施設によってもちろん異なるが、施設収用人数(一人あたり2㎡)の8~9割の住民が割り振られている施設も多くある。コロナ対応では一人あたり4㎡ほどになるので見直しは必至だ。地域全体でみると予備の施設が多くあり、総数としては地域の中で受け入れは可能だが(複合災害時を除く)、避難先施設は事前に周知する必要がある。「今後」という回答に「えっ!まだやってなかった?」と驚く。新型コロナはいずれ収束するとしても、感染症はいつ流行するともしれず、この機会に速やかに見なおし作業を進めるべきだ。
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以上、質問項目ごとに回答のポイントを紹介し、コメントを付け加えた。
今回の質問状は、石川県原子力防災計画や避難計画の問題点、疑問点を網羅したものではないし、各項目についてもさらに踏み込んで議論しなけれないけないこと、多々残っていることは承知しているが、それでも現状の原子力防災の問題点をかなり浮き彫りにすることができたのではないかと思う。
1.福島第一原発事故の教訓化がほとんどできていない(国以上に後退)
2.PAZ内とUPZ圏外で新たな安全神話 → 対策は簡略化され住民はより危険になる
3.UPZ内の住民は「被ばくの低減」の名の下、被ばくの受容が求められる → 屋内退避や避難行動、避難先など随所で
4.民間事業者の協力体制や要配慮者の避難計画など、具体性に欠ける箇所が数多くあり、事故が起これば計画の破たんは明らか
5.今後の検討課題が多く残されており、現行の防災体制は不完全、未整備

今後、志賀地域原子力防災協議会の場で4、5の課題は議論されていくことになるが、具体化すればするほど、原子力防災の矛盾(ex.避難の迅速性を重視すれば、防護対策を簡略化せざるを得ない)は一段と鮮明になっていくだろう。
さらに、日頃からの重大事故への備えは、常に原発を意識した生活を求め、原発の外部コストも高め、そこまでして原発が必要かという議論へとつながっていく。原発推進の矛盾をさらに深めていくことにもなるだろう。

継続した取り組みを参加者一同確認し合い、クリスマスイヴの申し入れ行動を解散した。

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