抗議声明 11.23石川県原子力防災訓練に異議有り

抗 議 声 明

 本日午前7時30分から志賀原発の重大事故を想定した石川県原子力防災訓練が実施された。東京電力福島第一原発事故後10回目となる訓練であり、2年ぶりとなる住民参加の広域避難訓練も実施された。私たちは毎回監視行動を実施し、今回の訓練でも明らかになった荒天時の脆さ、複合災害被害の矮小化はもちろんのこと、根本的課題から現場の諸課題まで含め、その都度「抗議声明」を通じて指摘してきた。今回は①新型コロナ禍の原子力防災、②半島先端への避難の2点に絞って問題点を指摘し、住民を守らない、守れない原子力防災の実態を明らかにする。

1 コロナ禍において原子力防災は成り立たない

現在、新型コロナの感染は落ち着いた状況にあるとはいえ完全収束には至らず、感染再拡大による第6波が懸念されている。政府は国民に対して引き続きソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用、密集・密接・密閉の「三密」回避など新しい生活様式の徹底を求めている。こうした中での原子力防災訓練であるが、原子力災害時には「三密」のリスクが伴う長距離の避難行動や長期間にわたる避難所生活が待ち受ける。なにより放射性物質の体への付着や吸引を防ぐための「密閉」が強く要請される。感染防止対策と相反する取り組みが求められるのである。

内閣府は昨年11月、「新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえた感染症の流行下での原子力災害時における防護措置の実施ガイドライン」を公表した。しかし、その内容を見るならば、両者の「可能な限りの両立」を求めつつも「現場の状況により、柔軟な対応を行うことが重要」としており、行き着くところは現場への丸投げ方針と言わざるをえないものであった。

今回の訓練は新型コロナ禍における石川県として初めての住民参加の原子力防災訓練であり、「コロナ禍において原子力防災は成り立つのか」という命題に対して現場で答えを示すことができるのかが問われていた。結論を述べるなら「成り立たない」の一言であり、あえてどちらを優先させるかとなると被ばくからの防護措置を優先せざるをえないのである。県や関係自治体は一般的な感染防止対策を実施したのみで、「コロナに対応した原子力防災訓練」などと誤ったメッセージを発することはゆるされない。以下3点、指摘する。

(1)30キロ圏内では屋内退避訓練が実施された。放射線防護施設を備えた病院や福祉施設は、防護施設が建物の一部であるため、施設内の患者や入所者、職員ら全員が避難した場合、密集、密接は避けられない。放射線防護施設のない福祉施設などでは窓を開けての換気はできず、全員の速やかな避難も困難なため、長時間にわたって密閉空間となる。木造建屋などに屋内退避した場合も窓を開けての換気は厳禁であり、避難が長時間に及ぶとリスクは高まる。

(2)バスによる避難行動時も同様に換気によって放射性物質を取り込むことは厳禁である。避難先の多くは50~60km先であり、事故時には今回のようなスムーズな避難はありえず、渋滞などで移動に要する時間は県のシミュレーションでも6時間以上、場合によっては十数時間を要する。車内を汚染空間にしないよう細心の注意が必要である。

(3)原子力防災の司令塔、オフサイトセンターは典型的3密施設である。床面積約1400 ㎡弱のオフサイトセンター2階フロアには、志賀原子力規制事務所職員や県職員、北は輪島市から南はかほく市まで各市町の職員、北陸電力社員、陸・海・空各自衛隊、県警、海上保安庁等の担当者、さらに報道関係者も含めて200人以上が参集し、長時間にわたって業務にあたる密集空間である。放射性物質を遮断するために窓はなく、入り口もエアーロック設備が設けられるなど気密性を特に高めている。施設内感染があれば、事故対応は難航する。

2 放射能と共に風下に向かう、ありえない避難訓練

今回の訓練は、南西からの風が吹き、原発の北東方向に放射性物質が流れるとの想定で行われた。避難区域はPAZに加え、UPZ(約30~5km圏)の志賀町富来地区や七尾市中島地区、穴水町である。避難先は本来、風向きの垂直方向を選択しなければならない。しかし北西は日本海、南東は富山湾であることから、住民はプルームと共に、あるいはプルームと前後して、北東方向である半島先端に向かって避難するという、本来あってはならない避難訓練が実施された。訓練を主導した県や関係自治体に強く抗議し、以下、問題点を指摘する。

(1)UPZの住民はEAL3(全面緊急事態)で屋内退避を要請され、その後の緊急モニタリングで20μSv/hを超える空間放射線量が測定されたとの想定でOIL2(早期防護基準)に基づき避難行動を開始した。避難計画通りであるが、現実に事故が起こったとき、プルームが流れてくるのを座して待ち、放射線量が上昇する中、プルームが流れる方向へ避難する住民が果たしてどれだけいるのか。いまは誰でも手元のスマホで簡単に風向き情報を入手できる時代である。指示に従わない多数の住民が出ること必至であり、混乱は避けられない。

(2)指示に従った住民は、手配されたバスあるいは自家用車で通常ならば1時間前後で到着する避難所へと向かうが、事故時は渋滞等で30km圏外へ出るだけでも6~10時間以上が見込まれている。プルーム下の長時間移動となり、住民の被ばく、車両の汚染リスクは高い。

(3)風向き方向の珠洲道路沿いののと里山空港と国道249号線沿いの藤波運動公園で避難退域時検査場所が設けられた。30キロ圏を越え、放射線量は徐々に低下しているとしても空間線量はゼロとは限らない。住民や車両の除染で渋滞、混雑する中、更なる被ばくのリスクが待ち受ける。渋滞を避けて検査場所を素通りし、避難所へ急ぐ車両も少なくないと思われる。

(4)能登町や珠洲市の避難者受入施設では、まず避難退域時検査の通行証を確認するが、通行証のない人の検査や除染をする設備はない。放射性物質の拡散が懸念される。

(5)国は、30キロ圏を超えてプルームが流れてきても通常の防災体制による広報で屋内退避を呼びかけ、対応は可能とする。しかし、福島県飯館村の例を持ち出すまでもなく30km圏外へも高濃度の放射能は流れ、降雨や降雪で地表や水源が汚染されるという事態も決して杞憂ではない。全住民の海路・空路による避難は困難であり、事故の収束が長引けば、半島先端へ避難してきた人、半島先端の住民、そして観光客など一時滞在者は半島先端で孤立する。

半島先端問題は安全神話を信じ能登半島の首根っこに位置する志賀町に原発を建設したことに起因する。プルームと共に半島先端へ避難し、これで安心・安全の確保とは言語道断である。唯一の解決策、最善の原子力防災対策は安全神話が崩壊した志賀原発の能登半島からの撤去であることを本日の原子力防災訓練に参加したすべての人に訴えたい。

福島第一原発事故から10年8か月、いまだ福島県内外で避難生活を強いられている人は志賀町の人口を大きく上回って約3万5千人にものぼる。ふるさとを追われ、仕事を失い、ときには家族がバラバラになる、そんな長期避難生活を覚悟している人が能登にいるとは思えない。福島の教訓をさらに多くの人と共有し、一日も早い廃炉実現へ全力を尽くす決意をここに表明する。

2021年11月23日

志賀原発を廃炉に!訴訟原告団

      社会民主党石川県連合

石川県平和運動センター

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