核兵器国は、核不拡散条約(NPT)6条に沿って速やかに核軍縮を履行せよ

2021年06月30日

2021 年1 月、核兵器禁止条約(以下、TPNW) が発効した。核兵器の存在そのものを禁止する国際条約が初めてできたことで、核軍縮をめぐる論議はまさに「核の終わりの始まり」という新たなステージに入った。しかし、これによって自動的に「核のない世界」がやってくるわけではない。これまで、核軍縮をめぐる国際的な議論の舞台であった核不拡散条約(以下、NPT)再検討会議と国連総会第1 委員会が重要であることに変わりはない。ただ、同時に隔年開催のTPNW締約国会議が並行して行われる時代が始まったのである。

しかし核保有国は、安全保障環境の悪化を理由に核開発競争を繰り広げ、核兵器国・依存国と非核保有国との間の核軍縮をめぐる対立や意見の相違は強まっている。

そこで、本論文では、核兵器を禁止するTPNWが発効して新たなステージに入った今、改めてこれまでNPTの果たしてきた役割を整理し、当面の課題を考える。

1.NPTとは?

NPTは1968年に署名され、1970年に発効した。2020年1月の時点で191か国が加盟している。国連加盟国数は193か国であるから、世界のほとんどの国がNPTに加盟しているといっていい(NPT未加盟国はインド、パキスタン、イスラエルと、核保有国ではないが南スーダン。NPT加盟国だが、国連には未加盟なのが、バチカンとパレスチナ)。北朝鮮は2003年に脱退宣言をしたが、多くの国は承認していない。

この条約の目的は、核兵器が世界に拡散しないようにすることである。1960年代後半当時、核兵器の製造は技術的に困難ではなくなり、核保有国の数が増えていくことが懸念され、核兵器が使われる危険性も増していた。NPTは核保有国を増やさないことに関する米国とソ連の合意から始まり、この2か国が中心になって条文を起草して作られた。米ソの他に、すでにイギリス、フランス、中国も核兵器を持っていたので、当面はアメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国の5か国を「核兵器国」と規定した。つまり、NPTは核兵器を5か国で独占しようとする条約であり、不平等条約である。

条約(注1)は11 条からなる簡単なものであるが、以下のように①「核不拡散」、②「核軍縮」、③「原子力の平和利用」の三本柱で構成されている。

①核不拡散

核拡散を防ぐために、第1条で、「核兵器国」は、核兵器国・非核兵器国を問わずに他の国に核爆発装置を譲渡したり、非核兵器国による核爆発装置の取得を援助、奨励したりしないこととする。そして、第2条で「非核兵器国」は、核爆発装置の開発、製造、取得を行わないこととする。

さらに核不拡散を実のあるものにするために、「原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するため」、「核の番人」といわれる国際原子力機関(以下、IAEA)が監視するシステムを設けている(これを「保障措置」という)。「非核兵器国」は、IAEA との間で保障措置協定を締結し、「協定に定められる保障措置を受諾することを約束する」とされる(第3条第1 項)。当然ながら、日本も定期的にIAEA の査察を受けている。これに対し、核軍縮に関しては、履行状況を監視する機関やシステムは存在しない。

②核軍縮

第6条は「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と核軍縮を進めることを規定している。ここには、「厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行う」と極めて困難な課題に挑戦することが盛り込まれている。

③原子力の平和利用

しかし、5か国が核兵器を独占するだけでは、非核兵器国にとってNPT はただただ不平等な条約のままである。そこで、第4 条ですべての締約国に対し、原子力の平和利用の権利を「奪い得ない権利」として認め、締約国は平和利用の促進のために国際的に協力することを定めている。核兵器を持たない国には、核兵器国が、原子力発電所の建設技術を教えたり、原子力発電所を建設したりすることができるようにした。

図1は、上記の構図を非核兵器国の立場から捉えたものである。世界の大多数の国がこの条約に加盟している訳は、図1に示されている。非核兵器国は、自らの意志で核兵器を持たないことを誓約し(第2条)、それを検証するためにIAEAによる査察制度がある(第3条)。一方で非核兵器国は、核兵器国の核保有を容認しつつ、核兵器国の②核軍縮を約束させる(第6条)。かつ核兵器国は、非核兵器国に対して、③原子力の平和利用の権利を奪い得ないものとして認め、協力していく(第4条)としている。このようなある種の取引構造が多くの国をNPTに引き寄せているのである。こうしてNPTは国際社会において核拡散防止の強力な抑止力となってきた。

2.NPT再検討会議

NPTは、核不拡散や核軍縮が適切に履行されているか否かを評価し、それを推進する方法を考えるために「再検討会議」の開催を定めている。再検討会議は、1975年に最初の会議がジュネーブで開かれて以降、5年ごとにニューヨークの国連本部で開かれている。再検討会議では、参加国が話し合って、議論の結果をまとめた全会一致の合意文書を採択することを目指す。NPT締約国にとって合意文書(注2)は極めて重要な政治的誓約である。1995年、2000年、2010年の再検討会議では核軍縮を進める上で重要な成果があった。それらを含めて関連年表を表1に示す。

1995年の再検討・延長会議では、NPTを延長するのか、それとも失効させ、核廃絶へ向けて新たなステージに移るのかをめぐって、核兵器国と非核兵器国との間で激しい議論が繰り広げられた。まずNPTの無期限延長が決定された。その際に、「核不拡散と核軍縮の原則と目標」及び「再検討プロセスの強化」についても決定された。前者では、核兵器国は「核軍縮に関する効果的な措置につき誠実に交渉を行う、という誓約を再確認する」という第6条の前半を念頭に入れた表現が盛り込まれた。後者については、再検討会議を実効的なものにするために、5年の間に3回の準備委員会が開催されることになった。あらゆる空間での核実験を禁止することを目的とした包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する交渉を1996年までに完了することも合意された。NPTの無期限延長は核兵器国にとって核を独占し続けられる好都合なものであったが、核兵器国が核軍縮を進めることを約束したことによって折り合いをつけた形である。

2000年NPT再検討会議においては、新アジェンダ連合(ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、スウェーデン(当時))をはじめとした核軍縮に熱心な国々と核兵器国との激しい交渉の末、最終文書が採択された。ここには NPT 第6条義務を履行するための13項目の実際的措置を含む行動計画が含まれている。13項目の第 6 項には「すべての締約国が第6条の下で誓約している核軍縮につながるよう、核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束をおこなうこと」という画期的な文言が盛り込まれた。

さらに2010年再検討会議は、2009年4月のオバマ大統領のプラハ演説を契機とする核軍縮に向けた機運の高まりの中で開催された。その結果、会議では3本柱にまたがる64項目の行動計画を含む最終文書が採択された。合意文書のⅠ.核軍縮、A 原則と目的の行動 1で、「すべての加盟国は、NPT 及び核兵器のない世界という目的に完全に合致した政策を追求することを誓約する」とした。さらに「A. 原則と目的」のⅴ . では「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国が、いかなる時も国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認する」とし、NPT 合意文書では初めて国際人道法の観点から核兵器の非人道性を確認した。またB.「核兵器の軍縮」ⅲで、NPT 合意文書では初めて「核兵器禁止条約についての交渉」に言及した。

3.不十分なNPT合意の履行

しかし、第6条の「約束」は義務規定ではなく、それを検証する機構やシステムは何一つ備えていない。そのため、再検討会議での核軍縮に関する合意の履行は、第3者により検証されることなく、見逃されてきているのが実態である。全会一致の国際合意は、政権が変わっても引き続き各国の合意事項であるはずなのだが、過去のNPTにおける合意は履行されないままになっている。ここでは、その具体例を列挙しておこう:

①米国の中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱と条約の失効は、2000年NPT再検討会議の最終文書にある、13項目の5「核軍縮、核およびその他の軍備管理と削減措置に適用されるべき、不可逆性の原則」に反する。

②いくつかの核兵器国の新型核兵器の開発、配備は、2010年行動計画、行動3「配備・非配備を含むあらゆる種類の核兵器を削減の努力」に反する。

③核弾頭数の増加は、2010年行動計画、行動3及び行動 5a「あらゆる種類の核兵器の世界的備蓄の総体的削減に速やかに向かう」に違反する。

④法的拘束力のある消極的安全保証(核兵器国が非核兵器国に対して核による攻撃や威嚇をしないことを誓約すること)に係る 2010年行動計画、行動7に基づく協議は、全く行なわれていない。

いくつもの NPT合意の履行がなされず、現在の世界は核軍縮が停滞していると言わざるを得ない状況である。むしろ、核兵器の近代化により、核兵器使用の敷居が下がっている。

4.2020 年 NPT 再検討会議へ向けて

NPT 体制は、多くの合意を作りながらも、合意履行の面で多くの課題を抱えている。NTP 体制の意義ある存続は、締約国が誓約を誠実に履行するか否かにかかっている。1996年に採択された CTBTは四半世紀を経てもなお未だに発効しておらず、発効に向けた具体的見込みも立っていない。核兵器国が NPTにおける国際合意を破り続けることはNPT体制の弱体化に直結する。NPTを意義あるものにするためには第 6 条に基づいた核廃絶を目指さなければならない。そもそも、NPTは核不拡散が主要な目的とはいえ、第 6 条により究極的には核兵器をなくしていくことを誓約しているのである。

コロナ禍で延期が続いている2020年NPT再検討会議においては、半世紀を超えるNPT 体制の下で蓄積されてきた合意文書を再確認し、その履行をどう進めていくのかを包括的に議論することが求められる。具体的には、例えば、以下のようなことがあげられる。

1.過去のNPTにおける全会一致の国際合意が破られていることを、具体例を挙げて示し、NPT体制そのものの信頼性の低下を招いていることを、再検討会議で指摘し、その上で、過去の合意の履行を改めて再確認すること。

2.NPT再検討会議において過去の合意の履行状況を各国が提出することが義務付けられた。しかし、明確な違反を具体的に指摘し対策を協議するシステムができていない。2020 年再検討会議においては、このようなシステムの必要性を提起し、可能ならば具体案を提案して検討すること。

これらを求めていく際、米国に登場したバイデン政権の核兵器政策が、トランプ政権とは異なる傾向を有していることを注視すべきであろう。バイデン政権は、核兵器の役割と数を減らしていく方向を目指すことがうかがえる。オバマ政権として一度は検討し、日本政府がこれに強く反対したとされる先行不使用の政策が打ち出されることも予想される。また北朝鮮政策においても、トランプ大統領が進めた 2018年のシンガポール米朝共同声明や南北板門店宣言を基礎として、「朝鮮半島の完全な非核化」を目指すとしており、これは、北東アジアの非核兵器地帯にもつながる可能性を秘めている。核兵器の役割低減は、2010年 NPT合意の行動 5 のc「あらゆる軍事及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性を一層低減させる」に即した、具体的にNPT合意を履行していく道につながっている。

2020年8月に予定されていた2020年NPT再検討会議は、コロナ感染の継続により、再々延長され、当面、2022年1月開催の方向で調整が進んでいる。いずれにせよ、NPT再検討会議は異なる立場を持つ国が、一堂に会する場として重要である。核兵器国、核の傘依存国、そして他の非核兵器国の間でNPT合意の履行について意見交換し、方向性を議論することは、信頼関係の回復と核軍縮、及び核拡散のリスク減少のために効果的である。

NPTは50年以上にわたり世界を安全にするために機能してきたし、締約国はこれからもそうなるようにする責任を負っている。全ての締約国が過去の再検討会議で合意された「核兵器使用の壊滅的人道上の結末」(2010年)の認識を共有し、「核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束をおこなう」(2000年)ことを再確認し、核軍縮に関して具体的な合意を作れるよう努力することで、核廃絶という目標に勢いをつけていかねばならない。(ドウブルー達郎、湯浅一郎)

カテゴリー: 全国・中央・北信越, 原水禁, 反戦・平和, 核兵器・放射能・核開発, 環境(原水禁、核燃、放射能・食品汚染) パーマリンク

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