放射能汚染水の「海洋放出」方針決定に断固反対する
2021年3月6日、菅義偉首相は、東京電力福島第一原発のタンクにたまり続けている処理水(放射能汚染水)の処分をめぐり「いつまでも決定をせずに先送りはすべきでない。政府が責任を持って適切な時期に方針を決定したい」と表明し、4月7日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と会談した。菅首相は「海洋放出が確実な方法であるという専門家の提言をふまえ、政府の方針を決定していきたい」と伝えたが、岸会長は「絶対反対との考えはいささかも変わらない」と答えた。来週・13日には、関係閣僚会議を開催し「海洋放出」方針決定すると言われている。
2020年2月、有識者による政府の小委員会は「海洋放出」と水蒸気にして空気中に放出する「大気放出」を提示し、海洋放出を「より確実」とする報告書をまとめたが、放射能汚染水の扱いについては「現地や関係業界と丁寧に議論をして、国民的な合意ができたら政府が決定する」とした。しかしながら、その後、まともな議論も行われず、福島県民合意・国民合意もないまま、問答無用で処分について方針決定することは、再び放射能による被害を招くことになる。
何よりも、2015年1月7日に開催された「第6回廃炉・汚染水対策福島協議会」の場において、経済産業省の糟谷廃炉・汚染水対策チーム事務局長補佐は「(ALPS処理水について)関係者の方の理解を得ることなくしていかなる処分もとることは考えておりません」と答弁し、経済産業省は、福島県漁連へ「関係者の理解なしにはいかなる処分も行いません」(2015年8月24日付)と文書回答したことを忘れてはならない。「海洋放出」することは、政府が福島県民や国民に約束したことに違反することになる。
地元・福島県漁連の野崎哲会長も「『海洋放出』に反対の姿勢は変わらない」としており、県民も生産者の多くも反対の声をあげている。福島県内59市町村のうち約7割にあたる41市町村議会が、「海洋放出」に反対または慎重な対応を求める決議や国への意見書を採択している。経済産業省が公募したパブリックコメントでは、放射能汚染水の安全性に対する懸念、陸上保管などの処分方法の見直し、合意プロセスへの懸念などが寄せられ、「海洋放出」に対して否定的なものが占めていた。多くの問題を抱え、解決方法が見いだせないまま、関係閣僚会議において「海洋放出」を方針決定することは許せない。
東日本大震災後、福島沿岸の漁業は一時自粛を余儀なくされた。漁業者は、2012年6月から、漁の回数や漁獲量を大幅に抑える「試験操業」を行ってきた。水揚げのたびに、放射性物質検査を行って安全を確認し、水産物の市場価値を慎重に調査してきた。2021年3月「試験操業」は終了した。数年後の本格操業をめざして、水揚げを震災前の水準へ戻そうと、徐々に漁獲量を増やしていくために歩み始めたばかりだ。「海洋放出」方針決定により、風評被害が起きれば、水産業関係者がこれまで地道に積み重ねてきたさまざまな努力が水泡に帰することになる。再び水産業関係者の生活や希望を奪い去ることになる「海洋放出」方針決定は、絶対に許されるものではない。
また、放射能汚染水を「海洋放出」することは、将来的に地球規模での海洋汚染・環境破壊につながることを懸念し、「海洋放出」方針決定に反対・批判の声が海外からも原水禁に寄せられた。
原水禁は「海洋放出」方針決定することに断固反対する。貯蔵タンクの増設、新たな保管場所の確保など「海洋放出」ではなく、これまで同様陸上保管することを強く求める。
2021年4月9日
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野 浩一