11.22志賀原発「原子力防災訓練」に対する抗議声明

抗 議 声 明

 本日午前8時30分から志賀原発の重大事故を想定した石川県原子力防災訓練が実施された。東京電力福島第一原発事故後9回目となる訓練である。この間の8回の訓練では、不十分ながらも住民参加の広域避難訓練が実施されてきたが、今回は「新型コロナウイルス感染防止のため」として住民参加はなく、防災業務関係者による応急対策の手順確認を主とした訓練であった。

いま、国内では第三波とも言われる新型コロナの感染急拡大期を迎えており、政府はあらためて国民に対してソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用、密集・密接・密閉のいわゆる「三密」の回避など新しい生活様式の徹底を求めている。しかし、災害時の避難行動や避難所生活においては密になりがちであり、人との接触機会も増えるため、感染リスクは高まらざるを得ない。内閣府は災害時の避難所の開設や運営に関して、感染拡大防止のための多岐の項目を盛り込んだガイドラインを示しているが、自治体職員はもちろんのこと、多くの住民は避難と感染対策の両立は決して容易なことではないと感じている。

こうした中、自然災害とはまた異なる特徴を有する原子力災害時において、あるいは自然災害と原子力災害の複合災害時において、果たして新型コロナ感染対策と被ばくリスクを低減した住民避難の両立は可能なのか、多くの原発周辺住民は今まで以上に大きな不安を抱いている。内閣府は本年6月、新型コロナ流行下における防護措置についての「基本的な考え方」を示し、さらに11月2日には「実施ガイドライン」を公表している。今回の訓練は、国が示した「基本的な考え方」や「実施ガイドライン」の実効性を検証し、課題を住民の前に明らかにしていくことこそが最重要の課題であったはずである。

しかしながら本日の訓練は、コロナ禍に向き合うどこか、コロナ禍を言い訳とした完全な手抜き訓練に終始したと言わざるをえない。志賀原発は停止中とはいえ、いま現在も活断層上の原子炉建屋内に核燃料が保管され、住民は原子力災害のリスクに晒され続けている。にもかかわらず県や北陸電力をはじめとした防災関係機関がこのような訓練しか「しない」、「できない」のであれば、それは住民の安全・安心の確保に対する責務放棄と言わざるを得ない。

今秋に入り、福井県(大飯・高浜原発)、愛媛県(伊方原発)、島根県(島根原発)、新潟県(柏崎刈羽原発)、北海道(泊原発)、佐賀県(玄海原発)がコロナ対応を盛り込んだ住民参加の避難訓練を実施している。原発立地道県の中で石川県の消極姿勢は際立っていると言える。

以下、新型コロナ感染対策と相反する原子力防災の根本的矛盾と本日の訓練の問題点を4点に絞り指摘して行く。

  • PAZ(原発から半径5km)圏内の住民避難をスルーした訓練

今回の訓練想定は、前回訓練同様「志賀町で震度6強の地震が発生し、志賀2号機が自動停止、全電源喪失し、全面緊急事態となる」というものである。PAZ圏内の住民3,831人(2019年資料)は、基本的にはUPZ圏外の指定避難所へ自家用車あるいは用意されたバスなどで避難することとなる。

ところが今回は、志賀町総合武道館を屋内退避施設として開設し稼働させる訓練のみ。本来は被ばく低減策と感染対策を踏まえた一時集合場所の開設や避難車両の手配、換気も含めた車内での感染対策、防護措置と感染対策を講じたスクリーニング施設の運用などを実施すべきところ、今回はこれらの課題をスルーしたことが第一の問題点である。いずれも感染防止と防護措置の両立が問われ、スクリーニング施設周辺では渋滞も懸念される。

武道館の定員は130人。今回は感染対策のガイドラインに基づき、模擬住民の受付対応がおこなわれたが、全面緊急事態に至ると、防護措置の実施ガイドラインに基づき、扉や窓の開放による換気は行わず密閉空間となり、感染対策とのジレンマに直面することとなる。

  • UPZ(原発から半径5~30km)圏内の住民を「自宅に封じ込める」訓練

全面緊急事態に至るにもかかわらず、密閉が不十分な自宅での屋内退避訓練で終了する。手抜き訓練の象徴である。本来ならば避難指示を受け下記4で指摘する課題に直面することとなる。

  • 典型的「三密」のオフサイトセンター

今回の訓練の中心となるオフサイトセンターは、実質約1400㎡弱の2階フロアに、原子力規制庁職員や県の原子力防災担当職員、北陸電力社員だけでなく、北は輪島市から南はかほく市まで各市町の職員、陸・海・空の各自衛隊、県警、海上保安庁、保健所等の担当者、さらには報道関係者も含めて200人以上が参集する典型的な「三密」空間である。事態収拾が難航し対応が長引けば、施設内で感染が拡大し、事故対応自体が十分できなくなる可能性すらあるが、マスクの着用や検温、手指消毒の実施など通常の感染拡大防止策以上の対策は何ら示されていない。

4.両立困難な「被ばくリスク低減策」と「新型コロナ感染対策」

原子力防災における避難行動は時間とのたたかいでもある。しかし感染対策のガイドラインを踏まえるならば、一時集合場所やスクリーニングポイントなどで要する時間は確実に長くなり、渋滞も懸念され、避難の遅れは必至である。

感染対策を優先するならば可能な限り少人数の自家用車避難を推奨すべきであるが、ヨウ素剤の受け渡しやスクリーニング施設での渋滞は深刻化する。換気をしないバス移動では感染リスクは高まるが、基本的にはバス避難を優先しなければならない。ここにもジレンマがある。

避難バスは「濃厚接触者」や「感染疑い者」、「その他の避難者」が乗車するバスに分け、座席も間隔をあけなければならない。従来の想定を大きく上回る台数が必要となるが、バス事業者はどこまで対応できるのか。今年8月に実施された大飯・高浜原発の避難訓練では、避難住民27人に対して避難車両4台を手配している。

30km圏内の避難住民は約15万1千人(2019年度資料より)。被ばく低減策と感染対策とのジレンマは山積するが、これらの課題を検証するどころか覆い隠す訓練であった。

私たちはこの間、近年常態化する巨大自然災害に起因する原発の重大事故、あるいはこれらの災害と並行して起こる重大事故に対する原子力防災の検証が必要と指摘し、都合のいい想定の下、取り組みやすい項目だけをつまみ食いする訓練に終始する県の姿勢を批判してきた。残念ながら私たちの声は届かず、手抜き体質はさらに深刻化し、直面するコロナ禍にも背を向けることとなった。

再稼働を前提とした非現実的で実効性のない訓練の繰り返しに今こそ終止符を打たなければならない。福島第一原発事故の教訓を踏まえるなら最善の原子力防災は原発廃炉であると断言する。本日の防災訓練の監視行動を通じて、あらためて活断層上にある危険な志賀原発の一日も早い廃炉を北陸電力に要求するとともに、廃炉実現に向け全力で取り組む決意をここに表明する。

2020年11月22日

志賀原発を廃炉に!訴訟原告団

      石川県平和運動センター

社会民主党石川県連合

 

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