核兵器禁止条約発効確定にあたっての原水禁議長声明
原水爆禁止日本国民会議
(原水禁)
議長 川野浩一
10月24日、核兵器禁止条約(TPNW)を中米のホンジュラス共和国(Republic of Honduras)が批准しました。これにより批准した国・地域が50を超えて、2021年1月22日に発効することが確定しました。これにより核兵器を非人道的兵器・絶対悪と定める国際規範が成立し、世界は核兵器廃絶という希望へ大きく前進することとなりました。原爆投下の惨劇の中から生きることを選択した被爆者の強い思いと、日本の原水禁運動やICANなどの核兵器廃絶にとりくむNGOの様々な努力、そして核兵器に頼ることなく自国の安全と世界の平和を願う各国政府のとりくみの大きな成果です。原水禁は、条約発効の意味をしっかりと受け止め、様々な組織・人々とともに核兵器廃絶へのとりくみを進めることを改めて確認します。
しかし、核兵器保有国、日本やドイツなど他国の核の傘の下にある国は、核抑止力を自国の安全保障の基本に据えて、条約に反対しています。本年10月2日に開かれた国連の「核兵器廃絶国際デー」で演説に立った、オーストリア代表の「核抑止力は安全をもたらすものではない。いいかげんにこの神話を葬ろう」との呼びかけに、核兵器保有国や保有国の核の傘の下にある国は真摯に応えるべきです。
今年8月9日、長崎平和祈念式典後の記者会見で安倍首相は、核兵器禁止条約に触れ「わが国の考え方とアプローチを異にしている」として、改めて条約に参加しないことを表明しています。また、安倍政権を継承するとした菅首相は、9月26日の国連総会でビデオ演説し「積極的平和主義」に基づき世界平和に貢献するとしましたが、「現実の安全保障の観点を踏まえていない」として、これまでの政府の姿勢を基本に核兵器禁止条約には触れませんでした。安倍政権は、この間朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核実験・ミサイル発射実験を脅威とし、また中国の南シナ海進出も含めて日本をめぐる安全保障の脅威を主張してきました。その上で、核抑止力をことさらに評価し条約批准が日米安保条約体制に矛盾するとの立場をとり、旧来の安全保障観を抜けることができません。朝鮮は、2002年のアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領の「悪の枢軸国」とされて以来、米国の圧力の下で核兵器保有を強行してきました。中国は、核の先制不使用宣言しており、両国の核兵器や戦力が日本へ向けられているとは考えられません。米国とともに、中国や朝鮮を仮想敵国として、ミサイル防衛の強化や敵基地攻撃に言及する日本政府の姿勢こそが、日本の安全を脅かすものと考えられます。
原水禁は、連合、核兵器廃絶・平和建設国民会議とともに、「核兵器廃絶1000万署名」にとりくみ、日本政府に核兵器禁止条約の批准を求めるとともに、核兵器廃絶を訴えてきました。8月9日には、長崎において中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表に、823万を超える署名を手交しました。中満泉事務次長は、核兵器廃絶という目標は「日本も共有しているはず」として条約に反対する各国に対して「ドアを完全に閉めずオープンマインドで」と苦言を呈しています。
米国は、イラン核合意を破棄し、そしてINF条約も破棄しました。来年2月には期限を迎える新戦略兵器削減交渉も、米露両大国の思惑が交錯し、先行きが不透明となっています。これまでの米露を中心とした核兵器削減の流れが止まろうとしています。中距離核戦力をめぐる米国とロシア・中国の対立は、日本への米軍中距離ミサイル配備や核弾頭配備の可能性も引き出しています。唯一の戦争被爆国としての国是である、核兵器をもたず、つくらず、持ち込ませずとする非核三原則に抵触する事態もおきかねない状況です。核兵器廃絶を、日本政府が主張するのであれば、核兵器保有国と非保有国の間に立って、核兵器廃絶への対話をつくりだす役割を果たさなくてはなりません。核兵器をめぐる状況がきびしい中にあって、日本に与えられた役割は大きいと考えます。今年の長崎平和祈念式典の平和宣言において、田上富久長崎市長は「核兵器の恐ろしさを経験した国として、1日も早く核兵器禁止条約の署名・批准を実現するとともに、北東アジア非核地帯の構築を検討してください。『戦争をしない』という決意を込めた日本国憲法の平和の理念を永久に堅持してください」と訴えました。戦後日本が、日本国憲法前文で誓った「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」のであれば、日本と世界の将来を見据えた議論を開始し、そのための努力を開始すべきです。
原水禁は、核兵器禁止条約が発効したこの記念すべき出発点にあたって、平和を愛するすべての人々と、核兵器廃絶・平和構築にむけて、全力でとりくんでいくことを改めて確認します。
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