日本政府は、核抑止依存政策を根本的に再検討せよ -ピースデポ、外務大臣に要請―

2019年4月30日

 2019年2月末、ハノイでの第2回米朝首脳会談が合意文書を出すことなく終了し、また2020年NPT再検討会議まで残り約1年となり、その最後の準備委員会が4月29日より国連本部にて開催されている。そうした中、ピースデポは、2019年4月10日、河野外務大臣宛ての「朝鮮半島の非核化、NPT再検討会議;日本の核抑止依存政策の根本的再検討を求める要請書」を提出した。要請の趣旨と、その背景にあるNPTをめぐる情勢や朝鮮半島情勢に関する日本政府の姿勢について解説する。

外務大臣へ4項目の要請
1970年に核不拡散条約(以下、NPT)が発効してから半世紀、核兵器禁止条約ができてから初となるNPT再検討会議が2020年春に開催される。開催まで残り約1年となった。それに向かう第3回準備委員会が4月29日よりニューヨークの国連本部で開催されている。
しかし、米トランプ政権は、核態勢見直し(NPR)により低威力核弾頭など新型核の製造を開始し、中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明し、核軍縮に逆行する動きを強めている。これに対しロシアは、米国が2002年にABM条約(対弾道ミサイル制限条約)から脱退し、ミサイル防衛(BMD)体制構築を打ち出して以来、米MDを打ち破る核兵器や極超音速兵器の開発を進めている。この結果、米ロの対立が激化し、新たな核軍拡競争が再燃しようとしている。一方で、2017年、韓国に登場した文在寅政権が朝鮮半島平和ビジョンを打ち出す中で、2018年、板門店宣言とシンガポール米朝共同声明という2つの首脳合意により、朝鮮半島の非核化と平和に画期的な変化が起きた。しかし、これもハノイでの第2回米朝首脳会談が不調に終わる中で、交渉の行方には暗雲が立ち込めている。
これらの困難を打破するためには新たな変化や動きが必要であり、戦争被爆国としての歴史体験を有する日本政府が、核抑止依存政策を根本的に再検討することを通じて、グローバルな核軍縮や北東アジアの非核化問題で大きな役割を発揮することが望まれる。
そうした観点から、19年4月10日、ピースデポは、湯浅、梅林が外務省を訪問し、アジア大洋州局石川浩司(ひろし)審議官及び軍縮不拡散・科学部の今西靖(のぶ)治(はる)軍備管理軍縮課長と、別個に面談し、河野外相宛の「朝鮮半島の非核化、NPT再検討会議;日本の核抑止依存政策の根本的再検討を求める要請書」●1を提出した。
要請項目は以下の4項目である。

  1. 北朝鮮の核・ミサイル開発に対する経済制裁の強化・維持を止め、段階的緩和のメリットを検討し、その必要性を訴えること。
  2. 米朝が相互不信を乗り超えながら前進するために、朝鮮半島の非核化には中間的措置の積み重ねが必要である。日本政府がその方法論を支持し、米国を説得することを要請する。
  3. グローバルな核軍縮に関する現時点の最大の障害は、米国とロシアがNPTに定められた核軍縮義務に背を向けていることである。被爆国日本は、4月末に始まるNPT再検討会議準備委員会において、このことを正面から指摘すべきであり、米ロが核兵器削減について協議を直ちに開始することを要求すべきである。
  4. グローバルな核軍縮に関しても、朝鮮半島の非核化に関しても、日本の核兵器依存政策の転換が、現状を好転させる重要な鍵を握っている。そのために、日本が北東アジア非核兵器地帯をめざす方向に一日も早く政策の舵を切ることを求める。

2020年NPT再検討会議の重要性
まず、グローバルな核軍縮について述べておこう。2020年NPT再検討会議は、グローバルな核軍縮を前進させるために、米ロのNPT第6条や各回の再検討会議合意に背を向けた姿勢を正面から指摘し、変えていく極めて重要な場とせねばならない。しかし、それを成功させるため、2000年や2010年NPT再検討会議の時のように核軍縮への機運を作りだす必要がある。
2000年NPT再検討会議では、新アジェンダ連合(NAC)という有志国家の登場が会議に勢いと熱気を生み出した。それを中堅国家構想などのNGOが後押しした。その結果、「核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束を行うこと」という文言を含む13+2項目の合意が生み出された。2010年再検討会議は、米国におけるオバマ政権の登場と2009年のプラハ演説に始まる「核兵器のない世界」への熱気が会議を成功に導いた。合意文書で「いかなる核兵器使用ももたらす人道上の結末」への懸念が初めて表明され、64項目の行動勧告が採択された。それは核兵器禁止条約を生み出す人道アプローチの原点となった。2020年NPT再検討会議が成功するためには、これらの例にみられたような機運が作り出されなければならない。
にもかかわらず、冒頭に述べた悪化した米ロ関係だけではなく、底の浅いアメリカ・ファースト主義のトランプ大統領と国連に敵対的ですらあるボルトン大統領補佐官(安全保障担当)の指揮下にある米政権のもとで、私たちは2020年を迎えようとしている。
この厳しいマイナス状況を考えると、本当に核兵器がもたらす悪夢への危機感に裏打ちされた国の強いリーダーシップが必要である。だからこそ核兵器廃絶へ強い世論の支えのある被爆国日本の政府の責任ある登場を求めるのである。
4月2日、中満泉国連事務次長(軍縮担当)が2020年のNPT再検討会議について国連安保理で演説するという珍しい機会があった●2。議長国であるドイツの計らいとみられる。中満氏は米国をはじめとする核兵器国を前に凝縮された言葉で危機感を述べた。「NPTは驚くほど持久力があった。しかし、それを当然のことと思うな」と警告し、「冷戦後の軍縮の成功は止まった。核兵器の有効性を語る危険なレトリックと安全保障の教義における核兵器依存の増加がそれに代わった」と述べた。そして、NPTが置かれている状況を断層にたとえた。「(危険な情勢は)NPTをひずみの蓄積の中に置き、最近国家間に目立って続いている断層線を悪化させている。」つまり、2020年は、NPTに対して多くの国が信頼を置かなくなり、国家間の溝を一層深める決定的な年になるかも知れないという、危機感を中満氏は述べたのである。
私たちの要請に対して、今西課長からは、この情勢に見合う日本政府としての意欲を聞くことはできなかった。日豪がリードする12か国の非核兵器国の集まりであるNPDI(核不拡散・軍縮イニシャチブ)や賢人会議アピールなどの取り組みの説明があるに留まった。

朝鮮半島の画期的情勢下でも根強い核抑止への依存体質
一方、朝鮮hな党情勢に関連して、要請項目4)のグローバルな核軍縮や朝鮮半島の非核化に関して日本自身が役割を果たすため、核兵器に安全保障を依存する核抑止政策を止め、北東アジア非核兵器地帯をめざすべきであるとの要請に対しては、全く手ごたえのない回答に終始した。
板門店宣言で南北は、「完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現する」という共同の目標を確認した。このことは、韓国は、いずれ「核の傘」依存を止めていく方向に向かうことを意味しているのではないかとの問いに、今西氏は、個人的な見解とした上で、「韓国が核抑止に依存しないと考えているとは捉えていない。韓国は、物理的に核兵器を持ち込まないことにコミットしているだけではないか。中国との関係で、米国の核の傘を手放すことはない」と述べた。
米朝合意が、「朝鮮半島の完全な非核化」と、「米国による安全の保証」をセットにしていることからすれば、北朝鮮から見れば、韓国が核の傘政策を維持している限り、北に対する核攻撃の選択肢は残ってしまう。北朝鮮の安全が保証されるためには、韓国が核の傘に依存しないという政策を採用せねばならないはずである。それは、朝鮮半島非核兵器地帯条約を作るということに行きつくことになる。
また、要請項目1)米朝交渉での経済制裁の緩和要請に対して、石川審議官は、現時点で制裁緩和はありえないと強く主張した。北朝鮮は、強力な経済制裁があったために対話の場に出てきたのであり、今、それを緩めたら元の黙阿弥であると力説した。しかし、国連安保理の制裁決議は、「安保理は、DPRKの遵守状況に照らして、必要に応じて(制裁)措置を強化したり、修正したり、留保したり、解除する準備がある」●3と繰り返し述べていることを指摘して、DPRKの遵守状況に照らして、制裁を解除することもありうると政府の行動を促した。しかし、要請の内容は現在の政府方針と正反対のものであり、面談の中で議論に進展はなかった。

南北、米朝首脳が歴史的合意をした新たな情勢においても、日本政府には、核の傘に安全保障を依存する道の重要性が染み付いている。日本が「核の傘」から出て、朝鮮半島の非核化から北東アジア非核兵器地帯に向かうべきとする私たちの要請に対しても、石川審議官は、北朝鮮への強力な経済制裁の継続が重要だと現状認識を強調するに留まった。これを打破するためには、市民社会の世論の一層の高まりが必要であることを痛感した一日であった。

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