〔本の紹介〕『不死身の特攻兵―軍神はなぜ上官に反抗したか』 鴻上尚史著/講談社現代新書/2017年

〔本の紹介〕
『不死身の特攻兵―軍神はなぜ上官に反抗したか』
鴻上尚史著/講談社現代新書/2017年

平和運動に関わるなら、先の大戦がいかに誤った戦争だったか、当時のエリート・指導層がいかに無能で愚かだったかを学び、現代に伝え、生かすべきだと思っている。この著書は、陸軍の特攻兵として9回も出撃し、すべて生還。戦後95歳まで生きた佐々木友次元伍長の話であるが、特攻を命じた上官・参謀たちの醜悪ぶり、滑稽さも明らかにされる。そして、この特攻作戦に何らかの形で抵抗する軍人らも登場し、特攻作戦がいかに無謀で愚かな作戦だったか明らかにされる。
 特攻を命令した参謀や上官たちの多くは「俺も必ず後に続く」と宣言しながらも、戦後、生き延び、特攻を事実上強制した自らの責任回避のため、特攻兵を国のため自ら進んで志願し命を捨てたものとして美化賛美してきた。この著書はこの論調に痛烈に反撃するものだ。
 佐々木さんの生還に、上官や参謀らは「恥さらし」「臆病者」「腰抜け!」「今度こそ死ね!」と罵倒、暗殺計画さえ立てた。当時上官の命令は絶対。反論・反抗は許されないが、佐々木さんは屈しない。その遺志の頑強さは驚異的だ。ベテラン操縦士だからこそ、この作戦の過ちを見抜いていた。

 航空特攻の場合、初期を除き、その戦果は嘘ばかりで実際は微々たるものだった。特攻機は、敵艦に達するまでに大半が撃墜された。米軍のレーダーに捕捉され、迎撃機の餌食となり、近づいただけで爆発する近接信管という艦船からの機関砲の犠牲となった。まれに体当たりできてもその破壊力は小さかった。急降下による爆弾投下は艦内に潜り込み爆発するが、航空機による衝突は空気抵抗が大きく甲板の表面で爆発するだけの威力しかなかった。戦艦・大型空母等の撃沈例は軽微で、大半は小型船舶が中心、当時の日米の戦局を転換する効果はなかった。むしろ、本土決戦・一億特攻への戦意高揚に利用され、終戦を大幅に遅らせ、戦争犠牲者を増やす要因となった。しかし、特攻兵は必ず犠牲となり飛行機も破壊。航空特攻による犠牲者は約4000人、その多くが20歳前後の若者であった。死を強制された若者の親や妻たちの戦後の苦悩苦難はいかほどであったか。こんな愚かな戦争を二度と繰り返さないためにも、広く読まれることを願いたい。
 関連著書に「特攻隊振武寮」(朝日文庫)、「特攻―なぜ拡大したか」(幻冬舎)、「つらい真実―虚構の特攻隊神話」(同成社)等がある。
(富永誠治)

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核背負い宇宙をさまよう地球よあわれ、人間の罪は重い
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