北陸電力のこの間の「ていたらく」(原子力規制委員会へのデータ提出に際し、誤字脱字、データ不足などから(審査は)時間の無駄とまで言われたことや、大田火電の「火災」事故、おまけに、雨水によるモニタリングポスト水没などなど)に、危険な原発を運転する資格も能力も技術も緊張感も倫理観もないことから「即刻!廃炉に」を申し入れたものです。
申 入 書
2018年11月 7日
北陸電力株式会社
代表取締役社長 金井 豊 様
さよなら!志賀原発ネットワーク
- 共同代表 岩淵正明(石川県憲法を守る会代表) 共同代表 中垣たか子(原発震災を案じる石川県民・世話人)
- 共同代表 新明宏(石川県平和センター代表)
- 石川県平和センター代表 本田良成
- 石川県勤労者協議会連合会長 藤田 利男
- 金沢地区平和運動センター議長 赤玉 善匡
- 石川県憲法守る会事務局長 森 一敏(金沢市議会議員)
- 北陸プルサーマルネット 林 秀樹
- 命のネットワーク代表 盛田 正
- 志賀原発を廃炉に!訴訟原告団長 北野 進(珠洲市議会議員)
- 事務局長 堂下 健一(志賀町議会議員)
- 原水禁石川県民会議 代表委員 佐野 明弘
- 糸矢 敏夫 野村 夏陽
- 石川県議会議員 盛本 芳久(社民党石川県連代表)
- 原水禁富山県民会議会長 岡﨑 信也
富山県平和運動センター議長 山崎 彰
富山県議会議員 菅沢 裕明(社民党富山県連代表)
申 入 書
2011年3月11日の東日本大震災以降、志賀原発は1号機、2号機ともに停止したまま、すでに7年半以上が経過しました。この間終始一貫して貴社は「志賀原発の早期再稼働を目指す」として、2014年8月に2号機の新規制基準への適合性審査(安全審査)を申請しました。この時点では原子力規制委員会の有識者会合による敷地内断層の調査及び審査がまだ継続中で、実質的な審査が開始されたのは2016年4月に有識者会合の評価書が提出された後、2016年6月のことです。
しかし、それから2年以上たっても審査は一向に進んでいません。去る9月21日の審査会合では、貴社が提出した資料に説明不足や誤記などの不備があまりに多いことが指摘され、委員からは「論外」、「時間の無駄」といった厳しい言葉が飛ぶ有様でした。それ以前の審査会合でも貴社の見解はたびたび否定され、委員の質問に十分な説明ができずにいる担当者の無様な姿に住民らは「こんな会社が原発を建設し、動かしてきたのか」、「これでも、まだ原発を動かす気なのか」と不安を募らせています。
2号機の審査が進捗せず再稼働は目処が立たない状況ですが、1号機は審査申請の目処さえ立たっていません。貴社の経営陣は「敷地内の断層は動かない断層であることをご理解いただけるものと確信している」という趣旨の発言をいまだに繰り返していますが、1号機、2号機ともに再稼働の見込みがないことは明らかで、社内でも「(志賀原発は)“本当に動くのか”と危機感が増している」と、地元紙にも報道されているのが実態です。
2016年4月、透明性・中立性の条件をクリアした4名の専門家からなる有識者会合が、2年以上にわたる審査会合を経て原子力規制委員会に提出した「評価書」の結論は『1号機原子炉直下と2号機タービン建屋の安全上重要な配管直下にある破砕帯(断層)は、いずれも将来活動する可能性が否定できない』というもので、これは新規制基準に照らせば『志賀原発の敷地には原発を建設してならない』ということに他なりません。今まで北陸電力を信用していた住民にとって貴社の主張がことごとく否定された衝撃、そのショックの大きさは計り知れません。この時点で1号機、2号機ともに速やかに廃炉の決断をするべきでした。
志賀原発が停止していても、大雪の冬も猛暑だった今年の夏も電力供給には何ら問題は生じていません。その一方で、原子炉建屋への雨水流入や大雨によるモニタリング・ポスト床上浸水など、原発の安全性に関わる問題が次から次へと起きており、停止中であってもゆるがせにはできないはずの安全管理体制に緩みが生じているのではないかと危惧されます。長期間停止による運転員の志気の低下も気がかりです。
また、昨年度実施された原子力規制委員会と電力事業者による事故を想定した訓練で、貴社は「原子力規制委員会との情報共有」において最低評価でした。理由は「社内の情報共有システムがダウンし発電所の情報が伝わらなかった」という極めてお粗末なもので、こんなことでは到底過酷事故には対応できません。「北陸電力には原発運転の資格なし」と、あらためて言わざるを得ません。
さらに、9月6日に発生した北海道電力管内の全域停電では、原発の再稼働を優先して火力発電所の更新が後回しになっていた、いわば「原発依存が招いた“人災”」ではないかという指摘があります。この指摘は北陸電力にとっても決してよそ事ではありません。
台風による停電でオフサイト・センターが機能停止するなど、昨今多発している自然災害に対する原発の脆弱さも深刻な問題で、原発の存在自体が北陸電力にとっても大きなリスクであるという事実が明らかになっています。
電力供給には必要のない、まったく発電せずに電力を消費しているだけの原発のために、これ以上危険にさらされることのないよう、以下、申し入れます。
【 申入れ事項 】
1.志賀原発1号機は速やかに廃炉にすること。
2.新規制基準適合性審査が続いている2号機も、直ちに審査の申請を取り下げ、廃炉にすること。
志賀原発は速やかに廃炉にすべき理由・補足説明
1 活断層の見落としや過小評価があり、原発を立地すべきではない場所に建設されていて危険
(1)2016年4月に原子力規制委員会に提出された有識者会合「評価書」の結論は『敷地内破砕帯のS-1、S-2・S-6は、いずれも将来活動する可能性が否定できない』というものでした。
S-1は1号機原子炉直下、S-2・S-6は、タービン建屋内にある原子炉冷却に不可欠な安全上極めて重要な配管直下にあり、『新規制基準における活断層等の扱い』では「可能性が否定できないものは活断層とみなす」と、あくまでも安全側に立って判断を下すことになっているのですから、この「評価書」が提出された時点で、北陸電力は速やかに廃炉の決断をすべきでした。
(2)敷地内断層の問題のみならず、敷地周辺の活断層も過小評価されていることも問題です。2006年3月24日、金沢地裁は志賀原発2号機の運転差止め判決を下しました。この判決では、政府の地震調査研究推進本部が、一体となって活動すると推定している邑知潟断層帯による地震(想定地震規模M7.6程度)が、志賀原発の耐震設計においては何ら評価されていないことが指摘されました。北陸電力は、邑知潟断層帯に平行する眉丈山第二断層(想定地震規模M6.6程度)しか考慮していなかったのです。
この判決の一年後、2007年3月25日、能登半島地震で1、2号炉ともに設計基準をこえる、文字通り想定外の揺れに見舞われました。震源となった能登半島沖合いの活断層は、なぜか三分割されて耐震設計では考慮対象外でした。この時は、1999年6月に発生した臨界事故隠蔽が発覚した直後で、原発は停止中だったため放射能漏れを起すような事態にいたらなかったのは幸いでした。現在でも敷地直近の富来川南岸断層は、上記の例と同様に過小評価されたままです。
(3)耐震設計では地震動による揺れのみが問題にされ、活断層による地盤のズレで機器・配管等が損傷することは考慮されていません。しかし、直下あるいは直近の断層の活動により深刻な被害が生じる可能性があることも忘れてはなりません。しかも安全審査の際には単一故障しか想定されていませんが、地震が起きれば被害は同時多発的に発生することは明らかです。
2 北陸電力には原発の運転資格なし
1号機、2号機ともに運転開始から2011年3月に停止するまでの間、お粗末な事故・トラブルの事例には事欠かず、北陸電力は原発を安全に管理・運転する能力に欠けていると判断せざるをえません。記憶に新しいものでは原子炉建屋に雨水流入、モニタリング・ポスト床上浸水等がありますが、長期停止する前の2010年でも、1号機は9月末に定検終了後、翌年3月1日までに3回も手動停止し、定検中には制御棒の脱落事故も発生していました。その間、2号機でも手動停止する事故があり、地元から不安の声が上がっていました。
(2)過酷事故に対応できるのか、非常に不安です。
昨年度実施された原子力規制委員会・規制庁との防災訓練において、原発から事故発生情報が伝わらず社内で情報共有ができず、規制委にも基本的な情報伝達ができませんでした。これでは、政府が原子力緊急事態宣言を出すかどうか判断することさえ不可能です。原因は、要員が一気にアクセスしてシステムがダウンしたというお粗末なもので、こんな有様で緊急時に対応できるのか不安です。(2018年7月25日開催の第21回原子力規制委員会・配布資料3を参照)
この件はマンスリー・レポート等でも報告されておらず、再発防止対策等も不明です。
(3)取締役らに原発が抱える潜在的危険性に対する認識が欠如していることが懸念されます。例えば原子力担当の副社長が、今年の株主総会で廃炉に関する質問に対して「300年、500年も先のことではないが云々」等の発言をしていますが、原発の運転は原則40年、仮に延長が認められても20年に限られているのに、100年単位の数字がどこから出てくるのか、まったく非常識極まりありません。
その前には、社長が記者会見で「1号機は60年間運転できる」という趣旨の発言をしています。しかし、再稼働の前提となる適合性審査への申請の目処さえ立っておらず、しかも大事故を起こした福島第一原発と同じ沸騰水型というだけでなく格納容器も同じマークⅠ型です。この1号機について、運転期間の延長について言及するとは、志賀原発の危険性についてまったく認識を欠き、福島原発事故から何も学んでいないのではないかと懸念されます。
3 原子力防災および避難計画に実効性なし
事故の想定において、地震、津波、台風、豪雨、積雪などの自然災害との複合災害は考慮されていません。しかし、実際に台風の影響で停電してオフサイト・センターが機能停止、あるいは大雨でモニタリング・ポストが水に浸かるといった事故が起きており、自然災害に対する原発の脆弱さが明らかになっています。過酷事故対策では複合災害を想定することが不可欠です。
ひとたび重大事故が起きれば、取り返しのつかない想像を絶するような被害が広範囲かつ長期間に及ぶことが、福島原発事故で明らかになっています。福島原発事故はいまだ収束せず、廃炉の目処はついておらず、放射能による被害は今もなお進行中です。
もっとも確実な原子力防災は原発を廃炉にすることですが、原発は停止中でも危険な存在です。福島事故から教訓を学び、原子力防災および避難計画を抜本的に再検討するべきです。
4 再稼働に固執するのは北陸電力にとって経済的にも電力安定供給の面でもリスクが大きい
志賀原発は発電量ゼロの状態がすでに7年半以上続いていますが、その間、使用済み核燃料の冷却などに電力を消費し続けています。「原子力発電費」の名目で計上されている原発の維持管理費は毎年400億円以上かかり、2011年度~2017年度の総額は約3600億円に及びます。再稼働に固執すれば、そのための安全対策工事費への投資も続けなければなりません。2015年度以降はその投資額に関して公式発表では「1千億円の後半」と公表されていますが、その詳細は不明のままです。
再稼働できない限り全く回収の見込みがない投資を続けて、「すでに巨額の投資をしてしまったから」という理由で危険な志賀原発の再稼働すれば、大事故のリスクがあります。いずれにしても志賀原発は、貴社にとってお荷物でしかないことは明らかです。経済的な観点からも、すみやかに廃炉の決断をするべきです。
北海道電力管内で発生した広域停電の際には「原発の再稼働を優先して火力発電所の更新が後回しになっていた」と指摘されていましたが、七尾大田火力発電所での事故発生は、北陸電力も同様の状況にあることを示唆しています。また他地域との連携線に関しても中部とは30万kWのみで、しかも直流送電なので停電していれば使えず、関西との連携線が何らかの事情で使用不可能になれば、広域停電の可能性も否定できません。
原発事故による被害回復のための備えは原発再稼働より優先されるべきなのに、原子力災害の損害賠償金の上限は1200億円に据え置かれることになりました。福島原発事故で東京電力の損害賠償費用はすでに8兆円を超えており、10兆円に迫るとも言われています。にもかかわらず損害賠償の上限が1200億円のままでは、実質的には無保険状態といってもよい状態です。このままで原発を再稼働するとは、無責任の極みというほかありません。賠償金の上限引き上げによる高額の保険料が負担できないのなら、原発から撤退するべきです。