101歳で死去 反骨のジャーナリストむのたけじ氏の“遺言”
- 2016年8月23日
安倍政権の危険性を糾弾していた(C)日刊ゲンダイ拡大する日刊ゲンダイより
戦時中、中国戦線やジャワ戦線の悲惨さを目撃し、戦後は反戦運動で活動──。むのたけじ氏(享年101歳)は最期まで反骨を貫いたジャーナリストだった。戦争を「狂い」と表現し、平和の大切さを訴え続けたむの氏を失うことは、安倍首相の下で保守化している現代の日本にとって大きな損失だ。
むの氏は1915年生まれ。東外大を卒業後、朝日新聞などで中国や南方戦線の従軍特派員を務めた。有名なのが敗戦時のけじめだ。1945年8月15日、「負けた戦争を『勝った』と言い続け、うそばかり書いていた。けじめをつけたい」と朝日を退社。郷里の秋田県で週刊新聞「たいまつ」を発行し、「反戦」「反権力」を訴えてきた。
昨年11月、日刊ゲンダイのインタビュー欄にも登場。戦後70年を経て、平和憲法が大事だと思う日本人が育ってきたことを喜ぶ一方で、「それじゃあダメだというのが安倍首相で、米国と手をつなぎ、強国と一緒に発展していきたい。そのために、米国との軍事同盟を強くして、戦死者が出てもやむを得ないような体制に持っていこうとしている」と安倍政権の危険性を糾弾した。
また、敗戦とともに日本の国民と政府は戦争の締めくくりをするべきだったのに、それがなされていないとも主張。あの戦争を誰がいつ始めたのか、南京虐殺や従軍慰安婦など、戦場で何が起きていたのか。そして侵略した中国、韓国への償い。この3点の締めくくりがなされていないと批判した。
「ジャーナリストとして尊敬すべき人物でした」と言うのは政治評論家の森田実氏だ。
「戦争の本質を明らかにし、その惨劇を語ることで平和の尊さを次世代に伝えられるという信念を抱いた人でした。ご自身は退職できっちりけじめをつけたが、日本人は戦争責任を曖昧にしてきた。しかも現在、戦争を経験した世代は戦争の苦しみを痛感しているが、安倍首相を筆頭に戦争を知らない世代は戦争を甘美なものと捉える傾向がある。政治権力は国民を抑えつけようとしている。こうした実情への憤りと使命感が、長寿につながったのだと思われます。むの氏は日本民族にとって偉大な宝です」むの氏が語る戦争の実態は悲惨きわまりない。戦場は殺さなければ殺される二者択一の世界。人は兵士として戦地に派遣されると3日で理性を失い、「狂い」の中に放り込まれる。中国では兵士が婦女子を強姦し、中には襲われる前に刃物で自殺する女性もいた。戦後、復員兵士が戦争を語らなかったのは、こうした事実に遭遇したからでもあるという。
「戦後71年間、日本人は戦争の恐ろしさを忘れようとしています。だからこそ、むの氏のようなジャーナリストがいたことを語り継ぎ、戦争の問題点を検証しなければなりません」(政治評論家の山口朝雄氏)
前述の森田氏は「あと10年長生きして後進のジャーナリストを育てていただきたかった」と残念がる。言論界の巨星が日本人に語りかけたメッセージはあまりにも重い。