憲法理念の実現をめざす
戦後社会の基本原則を変えようとする安倍晋三首相は、選挙公約ではごくごく小さく憲法改正に触れていたものの、「選挙で争点とすることは必ずしも必要はない」と述べ、街頭演説においても憲法改正に触れることはありませんでした。「アベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」、「この道を。力強く、前へ。」と、経済政策を前面に押し出して選挙戦を闘いました。野党4党は、一人区すべてに統一候補を立て善戦しましたが及ばず、改憲勢力は、改憲に前向きといわれる議員も含めて参議院議員の3分の2を確保したとされています。衆議院を含め、改憲の発議の条件が固まりつつあります。
世論調査によれば、憲法改正の議論が深まっていないとする回答が62%(朝日新聞、7月4日)となっています。2007年からNHKが実施してきた世論調査では、「憲法改正が必要」との意見が「必要ない」を上回ってきましたが、2016年5月の調査では、「必要ない」が31%で「必要」との意見の27%を上回りました。朝日新聞も55%対37%、共同通信も56.5%対33.4%と、「憲法改正は必要ない」との意見が上回っています。毎日新聞社が東日本大震災で被害を受けた岩手・宮城・福島3県の42自治体に「緊急事態条項は必要と感じるか」と尋ねた調査では、必要と感じたと回答した自治体はわずか1自治体でした。世論は、改憲を必要としていません。
安倍首相は参議院選挙後、「自民党案をベースにしながら、どう3分の2を構築していくか。これがまさに政治の技術と言ってよい」と発言し、衆参両院の憲法審査会で発議可能な項目を、選択することを示唆しています。しかし、どこに憲法を改正する必要があるのか、どのような理由から何を変えるのか、全く明らかになっていません。
安倍首相は、2013年の参議院選挙、2014年の衆議院選挙を、アベノミクスで闘いながら特定秘密保護法や日本版NSC、そして安全保障関連法(戦争法)を成立させました。第一次安倍内閣が、教育基本法改悪、防衛庁の省昇格法、そして国民投票法を制定してきたことを考えると、その意図は明らかです。「戦後レジームからの脱却」という安倍首相の基本姿勢は、数の力を以って着々と進められてきました。平和と民主主義、基本的人権の尊重という日本国憲法の基本姿勢を、安倍首相は根底から覆そうとしています。
東日本大震災、福島原発事故、熊本震災、多くの災害が日本社会を襲いました。震災のがれきの中からの復興は、多くの人々に我慢と自己犠牲を強いてきました。デフレ脱却をめざすとした大規模な金融緩和策は、格差と貧困を増大させ、非正規労働者の比率は40%を超え、子どもの貧困率は16.3%、沖縄県では実に39%に達しています。命をないがしろにする政策が進んでいます。
「戦後の社会は、明るかった」との大江健三郎さんの言葉は、戦争に明け暮れ多くの犠牲を国内外に払ったアジア・太平洋戦争の時代から、日本国憲法の時代への国民の思いを象徴しています。1945年8月15日、私たちは敗戦の中から、何を紡ぎ、何を生み出したかをしっかりと見つめ直さなくてはなりません。戦後70年、私たちはどこへ向かわなくてはならないのか。子どもたちの未来に、今に生きる私たちの責任を果たさなくてはなりません。
私たちは、11月12日から14日、憲法理念の実現をめざす第53回大会を富山県富山市で開催します。戦後社会の最大の危機に際し、一人ひとりの命に寄り添い、平和と民主主義を守り抜こうとする多くの仲間に、参加を呼びかけます。