「凍土遮水壁」全面凍結遅れ
第1原発・地上タンク計画に影響 2016年5月2日8時5分
東京電力福島第1原発1~4号機の周囲の地盤を凍らせる汚染水対策「凍土遮水壁」の全面凍結で、1日当たり150トンに減らせる見込みだった汚染水がいまだ同500トン発生し、当初目標よりも3倍のペースで増え続けている。工程表で2015(平成27)年度中とされていた全面凍結の当初目標は、運用開始の遅れにより本年度中に先延ばしになった。抜本的な汚染水発生量の低減が図れないことで、汚染水を保管する地上タンクの計画に影響を及ぼし始めている。
◆◇◇保管量80万トン
「凍土壁で建屋内に入る地下水量を少しばかり減らしても汚染水問題は何も解決しない」。原子力規制委員会の田中俊一委員長(福島市出身)は、地上タンクでの保管が増え続ける放射性トリチウム(三重水素)が含まれる水を海洋放出することが、持続可能な汚染水対策につながると独自に警鐘を鳴らし続ける。
トリチウム水は水に性質が近いため現在の技術では除去できない。通常の原発でも発生し、濃度基準を下回れば海洋放出することが世界的に認められているが、事故後の第1原発ではトリチウム水の取り扱いは5年以上、宙に浮いたまま。現在構内にある地上タンクの容量約95万トンに対し、トリチウム水約60万トンを含む汚染水計約80万トンが保管されたままとなっている。
既に凍土壁の運用が遅れ、発生する汚染水量の低減が図れないことで、地上タンクの容量に一定の余裕を確保する必要が生じ、溶接型に比べて漏えいの危険性の高い「ボルト締め型タンク」の継続使用を余儀なくされている。
◇◆◇今月中に半減
東電の試算では、凍土壁の第1段階の効果が想定通りに表れれば、今月中旬にも護岸からくみ上げて建屋内に戻している汚染地下水量が1日当たり350トンから100トンに減る。建屋内への地下水流入量同150トンと合わせて、汚染水の発生は同500トンから同250トンに半減する見込みだ。
それでも全面凍結が実現されなければ17年4月には、増設で確保された地上タンクの容量100万トンに対し、トリチウム水などの保管量は約90万トンに達する。
全面凍結達成後の汚染水の保管量はまだ試算されていないが、建屋内への流入量が同50トンに減り、護岸からのくみ上げ分同100トンと合わせ現状の3分の1以下となる同150トンまで低減されれば、汚染水の増加ペースは緩やかになる。
◇◇◆限られる時間
地上タンクの増設に限界がある中、国の作業部会が海洋放出や蒸発などトリチウム水の処理方法ごとの費用や期間を試算。今後、トリチウム水の処理に向けた議論が本格化してくる。
だが建屋周辺の井戸からくみ上げ、浄化した汚染地下水を港湾内に流す「サブドレン計画」の容認を漁業者から得るのに1年を要した。トリチウム水の処理方法について早急に結論を導き出せるかは不透明だ。
地上タンクの容量をにらみながら議論の時間を稼ぐには凍土壁の全面凍結で汚染水の発生ペースを緩やかにする必要があるが、全面凍結にはさらに規制委の認可を得なければならない。
しかし運用開始が遅れた背景には、凍土壁の影響で懸念される建屋内汚染水の外部流出の防止策を巡り、規制委との協議が長期化した経緯がある。
福島第1廃炉推進カンパニーの増田尚宏最高責任者は「現段階で、もっとスムーズに進められる何かがあるわけではない。規制委としっかり情報を共有して進めたい」と限られた時間の中で最善の手段を探る。