中学校用教科書検定に関する事務局長見解

2015年4月8日

中学校用教科書検定に関する平和フォーラム事務局長見解

フォーラム平和・人権・環境

事務局長 藤本泰成

2016年度から使用する中学校用教科書の検定結果が、4月6日公表された。しかし、日本の将来を担う子どもたちのために、教育がどうあるべきなのかという視点は、今回の教科書検定からは一切見えてこない。

世界のグローバル化はよりいっそう進み、とりわけ中国や韓国との経済的交流は格段に深まっている。日本がアジアの、そして世界の一員であることは、もはや日常の生活のなかでも容易に認識できる事実である。世界史の必修化や小学校での英語教育は、こうした国際社会に対応した人材育成を理由にしていたはずだ。教科書についても、この世界の動きを捉え、その中で生きていく子どもたちにとってよりよい教育のあり方を考えることを中心に据えなくてはならない。

文部科学省は、教科書検定基準と学習指導要領の解説書を改定し、今回の検定から政府方針や見解などを教科書作成に反映させるよう求めていた。実際、今回の検定の過程において、都合の悪い事実は伏せて、政府の政策を正当化する姿勢が目立っている。

このような姿勢の結果として、社会科の全教科書20点において尖閣諸島(中国名:釣魚島)と竹島(韓国名:独島)が日本の領土として記載された。一方で、政治・社会問題化している「慰安婦」の記述が、新規参入した学び舎の教科書を除いて全く記載がないのも、きわめて問題である。国連の社会権規約委員会が、2013年5月の「日本に対する第3回総括所見」において「締約国が『慰安婦』の搾取について公衆を教育するよう勧告する」としていることを忘れてはならない。

韓国外務省は、報道官声明において「歴史事実を歪曲・縮小、脱落した教科書を検定で通過させる挑発を敢行した」と強く批判し、中国の国営新華社も「一部教科書は歴史認識問題の記述で再び後退している」と報じた。事実、沖縄戦の集団自決や南京事件など多くの記述や表現を見ると、日本の侵略や植民地支配を、また戦争そのものを批判する姿勢は薄まっている。

また、先住民族であるアイヌ民族に関しても、これまでの検定基準を見直し、政府の政策を正当化する記述に修正した。明治政府がアイヌ民族から土地を奪い、貧困を固定化し、また同化政策を進めたという、基本的な事実に目を向けようとする姿勢は、そこにはない。

日本政府の主張のみを一方的に強調し、他の主張を無視する姿勢からは対立しか生まない。一方的な見解しか学ばない子どもたちは、将来のグローバルな社会のなかで、他国民との信頼と協調を基本に自らの生きていく場をつくり出すことができるだろうか。敵対的対立ではなく、それぞれの文化や主張を理解しつつ、共に生きる社会をつくり出していくには、自国の主張を一方的に繰り返すだけでは難しい。教科書は主権者である子どもたちのためのものであり、日本政府のものではないのだ。

平和フォーラムは、お互いの主張を理解し、問題解決への議論を深める姿勢が重要であると考えている。そのことを実現していくうえで、教育が果たすべき役割を見定めるべきだ。それこそが、将来国際人として生きていく子どもたちのために、社会的に要請されている教育のあり方である。

先に来日したドイツのメルケル首相は、同じ第二次大戦の敗戦国として「過去の総括は和解の前提」と「慰安婦」問題など日本政府の歴史認識に対して懸念を示した。ドイツのヨーロッパ社会での確かな歩みに学ばなくてはならない。日本が東アジアに存在する国として、過去の歴史事実を真摯に受け止め、その反省に立って東アジア諸国との新しい信頼と協調の関係を、戦後70年の今こそつくり出していかなくてはならない。

平和フォーラムは、豊かな未来の創造のために、これらの認識に立った教科書検定を強く求める。

以上

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