2008.6.1 フレンドパーク石川
【続き】自治体の港湾管理権と地位協定
~ これまでの非核・平和条例運動の取り組みと金沢開催の意義 ~
講師:新倉裕史さん
□ 入港手続に国内特例法ななし
そうすると、いよいよ一番肝心な入港手続の問題です。地位協定5条の3で、通告さえすれば日本の港に入ることができると書いてあるけれども、そのための法的な整備がおこなわれているかと言えば、全くおこなわれていません。特例法もない。日米合同委員会の合意事項もない。地位協定5条には合意議事録というのがありますが、そこにはこう書かれています。
「この条に特に定めのある場合の他、日本国の法令が適用される」
つまり入港に関する手続に関しては、なんら日本側の法的整備がおこなわれていないわけですから、現行の法律がすべて適用されて、たとえば港湾法なら港湾法という法律が適用されて、自治体の港湾管理権がいかんなく発揮されるという仕組みが現に生きているということなんです。
米艦船の入港が、米軍の「特権」で強引にできているように現状は見えますが、自治体が一生懸命勉強して、あるいは市民が一生懸命勉強して、自治体との交渉の中で、実は日本の港湾はこうなんだということを港湾管理者と一緒になって理解する中で、港湾管理者がわかったと踏み切れば、相当のことができると言っていいと思います。
□ 戦後民主的改革の中で生まれた港湾法
港湾法という法律ですが、この法律は1950年につくられた法律です。(OHPを見ながら)これは私たちの活動現場である横須賀軍港です。空母が泊まっていて、ブルーリッジという戦争を指揮する船がいて、巡航ミサイルを発射するイージス艦がいて、原子力潜水艦が入港しています。これが横須賀基地です。地位協定2条によって提供されている横須賀基地です。
私たちは、先ほども紹介の中にありましたが、ヨコスカ平和船団という活動を行っています。これはイージス艦が入るのを抗議しているところですけれども(写真参照)、この写真を見て「おかしい、何で?」と思われる方、おられますか。ここ、基地の中なんですよね。米軍基地の中。米軍基地の中に市民が船を繰り出すということが、普通、常識で考えたらまずできないですよね。陸上の基地だったら絶対に入れないです。入ったにしても見つかればすぐにたたき出されるか、逮捕される。けれども同じ地位協定2条で提供して、米軍に地位協定3条の管理権を与えているこの海の基地では、米軍は市民の船を排除することはできないんです。
なぜか。横須賀基地は、横須賀港という横須賀市長が港湾管理者である大きな、大きな港の一角にあります。この米軍基地といえども、その中では港湾法それ以下たくさんの日本の国内法が生きていて、米軍の独占的な使用が排除されているんです。陸上の基地では成立しないことが港の基地では成立する。そこに戦後の港湾管理の仕組みのすばらしさがあります。
戦争に負けて、日本の主要な港は全部、占領軍に接収されました。日本の港からたくさんの軍艦が出て、たくさん人たちを殺してきた。島国日本のいわば玄関口として、侵略戦争を支えてきたんですね。そのことの反省があって、横浜港と神戸港の接収を解除する、そのときに国家の一元的な管理ではなく、自治体が港湾の管理の主体となるような新しい法律をつくれというのがGHQの指示でした。それによって生まれたのが港湾法という法律です。港湾法を解説した本を読むと、ほぼ同じように、戦後の民主的改革の一つだと書かれています。
憲法9条、あるいは憲法の前文に日本の平和主義が明文化されただけでなく、私はむしろ、と敢えて言ってるんですけれども、戦後に生まれた個別法の中に、国家の力をなるべく小さくする、そして相対的に自治体の力を大きくする、平和主義が組み込まれています。憲法前文に過ちを繰り返すのは政府だという認識があります。再び政府の過ちによって戦争の惨禍が起こらないようにするために主権が私たちに与えられている。その主権を日常的に発揮する場、政治空間が自治体だと私たちは理解しています。
□ 港湾法に見る戦争のしにくい国づくり
その自治体に、たとえば港湾の管理を、日本政府・国家に預けるのではなくて、管理を自治体の手に委ねる。そのことで日本という国が戦争のしにくい国になる。そうした働きをもつ個別法が戦後たくさん生まれていますが、港湾法というのは、そのことをとてもわかりやすく示している法律です。自治体が港湾の管理者になり、港湾それ自体が国有財産ではなくって、みんなが使う自然公物です。だから米軍基地といえども、私たちみたいなちっぽけな市民団体が船を出すことを、拒否できない。
米軍基地は、毎日が有事という場所です。イラク戦争のときも横須賀基地から5隻の艦船が出て、先制攻撃をしています。戦争とダイレクトにつながっているそういう空間です。そのまさに今有事であるこの場所からも、市民の船を排除できないほどに個別法の力は大きい。そのことを実際の力として表現しているのが自治体の港湾管理権なんです。そうしたあれやこれやを米軍はよくわかっていると思うんですね、だから彼らは彼らで必死になっていて、とにかく自治体から下手な抵抗が生まれないように、とにかくもうこれ以上がんばれないと自治体に言わしめるために繰り返し、繰り返し入港を続けている。
□ 函館市民の非核平和条例制定とりくみ
新ガイドライン以降、各地で米艦船がたくさんは入るようになり、いまお話をしてきた港湾をめぐる様々な現状をみんなで勉強しました。特に北海道の函館や小樽、苫小牧、室蘭という町で、米艦船の寄港をくい止めるために、自治体がもっている港湾管理権を押し立てて、なんとしても軍事使用をくい止めよう、現実のものとして作り上げようという運動が生まれています。
ここで、注目されたのが「非核神戸方式」というものです。核を積んでない証明証がなければ入港の手続をしませんという、神戸市が実践している港湾管理の方法を「非核神戸方式」と言いますが、この方式をベースにして、さらにそこから一歩も二歩も踏み込みました。
たとえば函館の市民の皆さんがつくっている非核・平和市民条例は、3条で神戸方式を盛り込んでいるんですが、4条で、函館市が管理する港湾の、平和目的以外の使用を禁じると書いてあります。
神戸方式のただ一つのウィークポイントは、アメリカ海軍が「はい積んでいません」という証明証を出したら、後がないという点です。現状はアメリカの海軍は、核を積んでいないと私たちは理解をしています。1981年以降、もはや米艦船に戦術核を積む必要がなくなった。あるいは核兵器を積むことによって失う行動の自由よりも、核は積んでいないと言うことによって得られる行動の自由の方が軍事的にはメリットが大きいという判断があって、前のブッシュ大統領が戦術核は全部引き上げるという声明を出して、たぶん、それ以降戦術核兵器は積んでいないと思います。それでも、アメリカ軍の中に、核兵器があるとは言わない、だけれどもないとも言わないという、核兵器の存在を明らかにしないという政策が生きていて、その政策を逆手にとる「非核神戸方式」は今尚、大きな力を発揮しているのは事実です。現在まで、32年間にわたって米艦船は神戸港に入っていません。実績としては非常に強い力があります。しかし、米海軍がどうしても入ろうとすれば、核兵器を積んでいないということが可能です。核を積んでいない現状では。軍事的なダメージは、さほどないこともたしかだと思います。
函館の皆さんはその点を考えて、平和目的以外の使用を禁じるという、そういう条例をつくろうとしています。1回提出して、市議会であと4人というところまでがんばったんですけどもなかなか成立までには至っていません。
非核条例、あるいは平和条例が成立していないから、運動としてダメだと言うことでは全然ありません。条例がなくても、自治体の港湾管理権そのものは現にあります。その港湾管理権を十分活用して、米艦船を止めるというのはいつでも可能です。条例案をつくろうというのは、一つシンボル的なものであって、それができるかできないかということに左右される必要はありません。むしろその条例の親法である港湾法にもとづく港湾管理権、これはすごい力を持っているんだという、そこを自治体も市民も理解する、ここが一番重要な視点だと思います。
函館ではまだ条例は成立してませんが、ブルーリッジという第七艦隊の揮艦が函館に入ったときに、その艦長がですね、表敬訪問をしたあとに、送り届ける車のなかで、運転手さんにこんなふうにささやきました。
「函館市民はわれわれをあまり歓迎していないようだ」
ここがとても大事なところです。もしこのとき艦長が、市の公用車だと思うんですが、車の中でこのことを言わなかったら、艦長がそんなふうに考えていたなんて、誰もわからないままだったんです。毎日新聞でそのことが小さな記事になった。よくぞ、記事になった、と思います。これぞまさに、お宝です。「なんでも鑑定団」に出したいくらいです(笑)。
ブルーリッジの寄港に対して、函館の市民も労働組合の人たちも反対運動をしました。でも入港されてしまう。反対運動は、肩を落している。しかし、世界で最大の艦隊の戦争の指揮をとる船の艦長が、函館市民はわれわれを歓迎していないようだ、と感じざるをえないような街の雰囲気がたしかに存在したんです。艦長がひとこと漏らさなかったら、反対運動に参加した人たちも気がつかない町の雰囲気。ゼロから作りだそうとしたら、とても大変ですが、実は町はけしてゼロではない。そこにしっかりとあるものが、私たちに見えていないだけかもしれないのです。
□ 重要なのは自治体が港湾管理権を行使したかどうか
こうした街の雰囲気はやはり大切だと思います。船を止めることができた、できなかったというのは結果であって、もちろん、止めることができれば幸いですけれども、一番重要なところはその結果でなくって、そこに至るプロセスで、自治体と一緒になって街の空気というのをどうつくれるかではないでしょうか。
入港をくい止めなかった自治体に対して、これまでの反対運動とは、ともすれば糾弾したり、追及したりというのが通り相場でした。しかし、あまりそれは賢い方法ではないと思います。入港を結果として認めたとしても、自治体が港湾管理権を行使して、自分の判断でこれは入港を認めざるを得ないと判断して、入港を認めた、手続的にはそういうことをちゃんとしたということが大事なんです。地位協定5条に基づいて、自治体の判断が全然なく、日本政府の頭ごなしの言い方に、ただ従って入港が決まったんじゃなくって、それはそれ、あとは港湾管理者である我々が考えます。そういうふうに受けて、しかし、ここまでしかがんばれないということで入港を認めるということになったとしても、実際に港湾管理権ということで悩んで、いろいろ考えたということがとても大事だと思います。
ゼロか100で自治体の対応を判断するのではなく、頑張った所をしっかり評価し、次はもう少し進もう、こう呼びかけたいと思います。市民と自治体が一緒に、政府や米軍に向き合う、ここがポイントです。
□ 小樽は随伴艦を止めた
空母は小樽に3回います。自治体はがんばっていますが、なかなか止めるところまではいきません。しかし、空母の随伴艦、これは空母に付いて動くんですけれども、これについてはすでに、小樽市長は入港を拒否しました。
□ 青森は青森空港への米軍機乗り入れを止めた
(クリックすると記事が拡大します。▼)
今日は港湾についての報告ですが、飛行場についても同じような問題があります。青森空港では県知事ががんばって、実際に米軍機の乗り入れを止めているというふうなことも現に生じています。
□ イージス艦入港が可能となる金沢港
金沢港に関しては、米艦船の寄港の実績がすでにあると伺っています。そしていま、バースを13メートル掘り下げていているとお聞きしました。そこまで掘ればイージス艦も含めて、主要な艦船の寄港が可能になります。今、ミサイル防衛(MD)ということで横須賀を9隻のイージス艦が母港にしていますけど、このイージス艦がローテーションを組んで、日本海に入って、奥尻島の東側のMDの定点ポイント、そこで待機し、中国、あるいは北朝鮮からアメリカ本土に飛ぶミサイルを追尾するという任務についています。日本海側での軍事展開ですから、なにか事があれば、ずっと遠い横須賀まで戻るよりは、日本海側にあるいくつかの
港に入った方がいい。この間、一番狙われていて、実績が積み重ねられているのは新潟港です。新潟港へのイージス艦の入港が増えています。あるいは小樽もそうですね。
金沢港も、これまでは深さの関係でイージス艦は入ってこなかったけれども、これからはバースが深くなると寄港する条件は整います。米軍は使える港を一つでも増やしたいと考えていますから、金沢港も狙われていると考えるべきでしょう。
小樽に空母が入ったときも、同じようなことがありました。小樽港にパナマックスという飼料を積む大きな船が接岸できる埠頭を作りました。それが完成した直後に米軍が調査に来て、深さとか強度とか調べて、そして空母の入港が実現していくという経緯がありました。彼らは日本中の港をくまなく調査しています。
もちろん入らない方が、皆さんにとってもいいことなんですけれども、米艦船の入港問題が発生したら、自治体が港湾管理権を持っていて、港湾管理権というのは戦後生まれた法律で、自治体が平和力を発揮するための、港湾の平和利用を実現するためにつくられた法律ということを、港湾の管理者としっかりと議論する中で、街の総意として対処する、ということに、是非取り組んでいただけたらと思います。
□ 米艦船を不平等扱いするな!?
最後に、日本政府が切り札に出している港湾法の第13条についてお話します。これは港湾の不平等取り扱いを禁じるという項目です。港湾法13条はなぜ作られたか。成立過程の国会の議論を読むと、大企業に締め出され、中小零細の業者が港湾を使えなくなることがないよう、港の不平等取り扱いを禁じるという項目を入れたことが分ります。港湾法の47条で、不平等な取り扱いが現認されると、国土交通大臣が港湾管理者に是正措置を求めることができるとされています。艀(はしけ)業者だとかの零細企業、船長1人しかいないような、親方1人だけでやっている業者の強い要求もあって、13条、47条というのがつくられました。
日本政府はそれに目を付けて、米艦船だからといって入港を断るのは、不平等取り扱いを禁じた13条に違反すると言い出しました。不平等な取扱が現認されたら、是正措置だと脅しをかける。そうした言い方を受けて、たとえば函館の港湾部長は、13条があるから市民感情だけでは拒否できないと、言ってしまいます。
□ ジレンマに陥る日米両政府
でもよく考えてください。港湾法13条は国内法ですよね。米艦船の行動に関して国内法をどうぞ適用してくださいと、日本政府がいっているんです。面白いと思いませんか。これまで、米軍には国内法の適用は原則としてないといってきたのは日本政府なんです。それなのに港湾法13条の適用を口にする。これは日本政府にとっても米軍にとっても大変なジレンマだと思います。つまり地位協定5条があれば、自治体が抵抗しても切り抜けることができると考えているのならば、港湾法13条に救いを求めることは絶対ないんです。しかし地位協定5条に絶対的な力がないから、港湾法13条に救いを求めた。これは日本政府、米軍が、論理的には決定的なところに追い込まれたということになりますよね。つまり、港湾法13条という国内法が適用されて、国内法によって米軍が救われているわけですから。
港湾法13条だけ適用してくれというのはムシのいい話です。港湾法13条が適用されるのであれば、他のあらゆる国内法も駆使して米軍の軍事行動に足かせをかけるのが法的には可能ということになります。13条を出したこと自体が、有事法は全然たよりにならない、地位協定5条は力にならないということを白状したようなものなんです。
そして、実際には港湾法13条は実は米艦船を守らない、と私たちは思います。米艦船の民間港の使用こそ、自由で平等な港の使用に反することはあきらかだからです。米艦船の寄港地は、どこでも周辺が立ち入り禁止となり、場合によっては民間船舶が退かされるといったことも現に起きています。こうした独占的な使用こそが、13条違反です。そもそも13条が保証する平等とは、港湾における経済活動の平等性です。米艦船を寄港させるための平等ではありません。
こうしたことを見ていくと、港湾の現場は、あれだけの戦争をくぐりぬけて平和憲法を作った、そのことの延長上に、自治体の手に港湾の管理が委ねられているという、戦後の丸ごとの平和主義が現に生きている現場だと言うことができます。そこでの運動がおもしろくないはずがないと、私は思います。
さきほど、ごあいさつの中に、自治体と市民が一生懸命がんばれば、自治体施設の軍事使用ははね除けることができるんだという話がありましたけど、結論を先に言ってきました。まさにその通りだと思います。
9回の全国集会が成功するよう、みなさんと一緒に力を出していきたいと思います。この問題について関心をもっていただければ幸いです。港湾の現場でがんばる自治体や市民が増えれば増えるほど、米軍の軍事行動は動きに制約がかかります。是非がんばっていきましょう。ありがとうございます。