2008年2月22日
石川県知事
谷 本 正 憲 様
北陸電力に原発運転の資格なし!
全 国 署 名 運 動
共同代表 嶋 垣 利 春
〃 中 垣 たか子
申 入 書
志賀原発1号機の運転停止から11ヶ月、2号機の運転停止から1年8ヶ月が経過しました。この間、県民は志賀原発による電気を使用せず、停電にみまわれることもなく暮らしてきました。能登半島地震発生時も含め、原発事故の危険に怯えることなく過ごすことができました。
多くの県民が、このまま志賀原発が止まっていることを願う中、北陸電力は地元住民を対象とした説明会を重ね、志賀原発への視察も積極的に受け入れるなど、今春の運転再開に向けた取組みを強化しています。3月に予定される再発防止対策検証委員会の報告、新耐震設計基準に基づくバックチェックの中間報告、そして現在進められている2号機の「耐震裕度向上工事」の完成を受け、再稼働の申し入れがあるのではないかと危惧します。
志賀原発の運転再開に反対する理由については、昨年10月30日の申し入れで指摘をさせていただきました。臨界事故隠しについては、極めて不十分な原因究明の下で的はずれな再発防止策を打ち出して、100%の達成率を自慢されても、県民にとっては不安が募るばかりです。
さらに耐震問題が全国民の大きな関心事になっています。署名運動開始後に発生した中越沖地震は、国の安全審査が電力会社の立地ありきの形式的な地質調査にお墨付きを与えるだけで、なんらチェック機能を果たしていない実態を暴き出しました。北陸電力の新たな活断層隠しにも批判が高まっています。北陸電力は2003年の時点で志賀原発の沖合にM7級の地震を起こす活断層の存在を把握したにもかかわらず、安全性に問題なしという国の判断を受け、地元自治体へは報告しませんでした。しかし、この活断層による地震動の評価は、実は志賀原発で設計時に想定した基準地震動S1(将来起こりうる最強の地震による地震動)を上回っており、この事実が設置許可段階で確認されていれば志賀原発の設置許可はありえませんでした。「本来は必要ないが住民の安心のため」という程度の現在の裕度向上工事でお茶を濁し、志賀原発を再稼働するなど論外です。
「北陸電力に原発運転の資格なし!」を掲げ、志賀原発の再稼働に反対する全国署名は昨年11月以降も全国各地から続々と届けられ、本日現在518,107筆となりました。臨界事故隠し問題への北陸電力や国、県、志賀町の対応の不信感からスタートした署名運動ですが、その後の中越沖地震は電力会社や行政に対する不信感を「原発は危険だ」という確信に転換させました。北陸電力の活断層隠しは「隠さない企業風土づくり」をうたいながら、何ら「隠す体質」が変わっていないことを白日の下にさらしました。これらが署名運動の大きな推進力になったことはいうまでもありません。
北陸電力が志賀原発の運転再開へ取り組みを進める中、石川県の対応を県内外の多くの人たちが注目しています。以下の申し入れに対し誠意ある対応を求めます。
記
1.北陸電力から志賀原発の再稼働の申し入れがあっても同意しないこと。
2.県の責任において、臨界事故隠しの再発防止策や耐震安全性についての県民シンポジウム(仮称)を開催し、広く県民に対して説明責任を果たすこと。
3.安全協定の改訂、安管協の抜本改革、原子力安全対策室の体質改善を図り、志賀原発の危険から県民を守れる行政を確立すること。(別紙「石川県における原子力規制行政の改革について」参照)
石川県における原子力規制行政の改革について
■「志賀原子力発電所周辺の安全確保及び環境保全に関する協定書(安全協定)」の改定
■「石川県原子力環境安全管理協議会(安管協)」の抜本改革
■ 原子力安全対策室の体質改善
1.原子力規制行政の改革にあたって
(1) 「原発は危険」が大前提
11人の死傷者を出した美浜原発3号機配管破断事故や浜岡5号、志賀2号の営業運転開始直後のタービントラブル発覚など、全国の原発で続発する様々な事故・トラブルは、原子力発電が未完成、未熟な技術であることを証明している。国も2006年に策定した新耐震設計指針で想定を超える地震により放射能災害が起こる可能性を「残余のリスク」として認めており、中越沖地震の直撃を受けた柏崎刈羽原発の惨状からも原発震災が現実に起こると考えるべきである。
原子力に携わる全ての関係者は、このような未完成、未熟な技術のもとで膨大な量の放射性物質を扱う原発の潜在的な危険の大きさを認識し、安全対策にあたらなければならない。
(2) 国の規制行政には欠陥あり
原子力発電所では、事故・トラブルだけではなくデータの改ざんや情報の隠ぺいなど、意図的な不正も後を絶たない。原子力行政は、法的には立地の選定から設計・建設、運転、さらには廃炉に至るまで、国の一元的な規制の下にありながら、技術面での安全確保はできず、不正の未然防止もできない欠陥体制である。
さらに原子力安全委員会の安全審査も、その信頼性は大きく揺らいでいる。臨界事故では想定外の制御棒の複数本脱落が起こり、能登半島地震や中越沖地震では電力会社の活断層過小評価の追認が明らかになっている。
(3) 欠陥だらけの志賀原発
志賀原発は1988年12月の建設着工以降、毎年のように事故・トラブル、情報隠し、情報の改ざんなどが発覚したにもかかわらず、北陸電力の品質管理体制に有効な改善は図られず、ついには臨界事故隠し問題にまで至った。企業体質も含め、原子力を扱う企業としての適格性が問われている。金沢地裁は2006年3月、耐震安全性の不備を指摘し、運転停止を命じる判決を出している。
(4) 期待される自治体独自の安全規制
上記から、国や電力会社に任せておいては原発から住民の安全を守れないことは明らかである。福井、新潟、福島など原発立地先進県では、安全協定を担保として電力会社に対して厳しくチェックをおこない、国との関係においても、原子力規制行政全体の中での地方自治体の役割や位置づけを自覚的に追求する姿が見られる。原子力行政全般に対しても、規制機関の独立など、地方の視点から積極的に提言をおこなっている。
(5) 国や電力会社に追随するだけの石川県
全国各地の自治体の取り組みは、まさに原発の安全神話と国の無謬性を否定する中から生まれている。ところが、石川県の原子力規制行政は、国や電力会社の見解や方針に追随するだけであり、県民のいのちと暮らしを守る地方行政としての役割を放棄していると言わざるを得ない。特に近年、この傾向は顕著である。
2.県行政の具体的な問題点
(1) 安全協定が形骸化し、北陸電力とは緊張感のない馴れ合いの関係となっている。
(2) 安管協の役割や権限が不明確で、県行政の責任逃れのための隠れ蓑となっている。
(3) 県、安管協ともに情報公開、情報提供が極めて不十分で、県民に対する説明責任は果たされず、第三者(外部の専門家)による検証もおこなえない。
(4) 県、安管協ともに、県民の疑問や不安に応える仕組みや、原子力に批判的な意見を踏まえてコンセンサスを得る仕組みが皆無である。
(5) 安管協の会議は多くの場合、北陸電力や原子力安全・保安院の説明を聞くだけに終始し、実質的な議論の場として機能していない。
3.改革の方向性
(1) 県は、原子力発電所の危険から県民の安全を守る責務があることを明確にする。
(2) 自治体の原子力規制行政を担保するのは事業者との安全協定である。上記課題の解決に向け、北陸電力に改訂を求める。
(3) 事実上、県の原子力規制行政の決定権を持ってきたのが安管協である。実質的、専門的な議論ができる組織としての改革が求められる。
(4) 原子力規制行政を担う危機管理監室とその中心となる原子力安全対策室が県民の目線で北陸電力や国と向き合う組織への転換が求められる。
4.安全協定の改訂について
(1) 前文
対象とする住民は「原子力発電所周辺における地域住民」ではなく「県民」とする。
理由 志賀原発の危険が及ぶ範囲は、金沢地裁判決で示されたように数百キロの範囲に及ぶものであり、あいまいな周辺住民という表現ではなく県民と明記すべきである。
(2) 第1条(安全性の確保)
保安規定遵守も明示する。
理由 第1条は北陸電力が遵守すべき最も重要かつ基本的な事項であり、この規定に違背するときには第20条により「違背時の措置」の対象となる。保安規定の遵守は原子炉等規制法に定められた当然の義務であるが、「臨界事故隠し」において国は保安規定違反があったにもかかわらず処分をおこなわなかった。自治体として北陸電力の保安規定遵守義務を明記し、規定の各項目の遵守を独自にチェックする姿勢を明確にすべきである。
(3) 第4条(原子力環境安全管理協議会)
周辺環境放射線監視及び温排水影響調査について協議する安管協と、発電所の運転・保守・管理等安全確保に関して県が技術的・専門的指導を得るための技術専門委員会(仮称)を分離し、別途規定する。加えて両組織の県民への説明責任を明記する。
理由 いずれも県民の安全確保を目的とするが、その役割や権限は異なる。安管協で協議・了承すべき事項は安管協の取り扱い事項とし、県の責任で判断すべき事項は、県(知事あるいは危機管理監)の求めに応じて技術専門委員会(仮称)が評価・検討・助言するものとする。従来は県として責任をもって判断すべき重要事項を、安管協で協議したことを理由として責任逃れをおこなってきた。責任の所在を明確にすることが組織分離の理由である。
(4)技術専門委員会(仮称)の設置(新規)
新たに、技術専門委員会(仮称)の設置を規定し、北陸電力の協力義務を明示する。技術専門委員会(仮称)の組織および運営に関し必要な事項は別途定める。
理由 「石川県原子力環境安全管理協議会規定」に規定されている「専門委員会」は、位置づけや役割があいまいな安管協の中に置かれている限り、県行政の責任逃れの隠れ蓑であることに変わりはない。県との関係で、位置づけや役割、権限を明確にし、専門的・技術的検討の場を確保すべきである。これによって県民の前に論点を明確にし、委員間の議論の深め、一定の方向性を示していくプロセスを保証する。結果的に原子力規制行政の信頼回復につながるものである。
(5) 第12条(適切な措置の要求等)2項
施設の使用開始計画については、原因の究明、再発防止策の終了後に協議するものとする。その際、県は県民に対し、シンポジウムや公聴会などを開催し、県民の合意形成をはかる責務があることを明記する。
理由 はじめに「運転再開ありき」の規定が北陸電力との緊張関係をなくす原因の一つとなっている。原因の徹底究明、再発防止策の策定と実施という手順を踏むべきである。さらに県民への説明責任を果たし、合意形成が出来ない限り施設の再稼動を認めるべきではない。
(6)第20条(違背時の措置)
①第12条に定められた「適切な措置の要求」とは別個のものであることを明記する。
理由 臨界事故隠しが発覚した時点での県から北陸電力への運転停止要求が、後日、第12条に基づく「適切な措置の要求」であり、かつ第20条に基づく違背時の措置でもあるとの見解が議会で示された。しかし、両規定はそれぞれ目的を異にしたものであり、県当局自らの安全協定を踏みにじった事例であり、二度とそのような運用の濫用が起きないよう規定する。
②協定に違背した場合は常にその内容を公表するものとする。
理由 北陸電力との緊張関係を保つと同時に、行政の透明性を確保することにより県のうやむやな対応を防止することにもなる。
(7)発電所トラブル等内部情報の受付窓口の設置について(新規)
理由 いわゆる「内部告発」情報を、告発者の不利益に繋がらない形で受け付け、適切に扱うことは、臨界事故の組織的隠ぺいの教訓に照らしても、不正の防止、ひいては事故・トラブルの防止に繋がるものであり、制度化すべきである。
5.安管協改革について
(1) 周辺環境放射線監視及び温排水影響調査を扱う委員会と事故・トラブルを扱う技術専門委員会(仮称)を分離
理由 4-(3)参照
(2) 技術専門委員会(仮称)の設置
県が志賀原発に関する技術的専門的助言・指導を得るための諮問組織とし、安管協とは別個で、かつ国や電力会社から独立的、専門的対場を確保する。一つの議題について専門家を2人以上は確保し、委員の間での多面的な議論を保証する。知事あるいは危機管理監を通じて、国や電力会社等に対し必要な情報を請求し、あるいは必要な参考人からの意見を聴けることとし、求められた事項について評価・検討する権限を保証する。
理由 4-(4)参照
(3) 情報公開・情報提供の徹底
安管協および技術専門委員会(仮称)の会議における議題や資料は、会議終了後速やかにホームページ上に公開するものとする。議事録も作成後、公開するものとする。
理由 安管協および技術専門委員会(仮称)は専門的見地、あるいは各種団体、地元自治体の立場を代表して与えられた議題に対して議論を深めることは当然であるが、さらに県民への説明責任も負っている。第三者による検証も可能にしなければならない。
6.原子力安全対策室について
(1) 文書主義の徹底と情報提供の拡充
理由 北陸電力に対する指導が口頭のみで行われるケースが多々見られ、情報公開によっても事実確認が困難となっている。北陸電力との馴れ合い関係を生む原因ともなっている。文書主義を徹底し、県民に対する情報提供を拡充し、あるいは情報公開に対応できるよう努めるべきである。
(2)県民への説明責任を果たす
理由 原子力の問題は一般の県民にわからない、知る必要もないという姿勢は、北陸電力だけでなく県行政の中にも浸透している。安管協や専門技術委員会(仮称)だけでなく、そもそも県自らに県民に対する説明責任があることを確認し、その誠実な実施に努めることが、県民への信頼を回復する道である。
(3)他道県の原子力安全対策室との交流の拡大
理由 国の原子力規制行政が十分にその役割を果たせていない中、自治体が原子力規制行政について積極的に発言し、新たな役割を模索する動きが続いている。他道県との交流を深め、そのノウハウを積極的に吸収すべきである。
(4) 原子力安全・保安院からの出向人事の見直し
理由 従来、原子力安全対策室長は、かつては科学技術庁、現在は原子力安全・保安院からの出向者を受け入れている。これが国の見解・方針への追随体質を生み、県民から遊離した原子力規制行政を招いている。県職員からの登用を検討すべきである。