高市政権発足から1か月、この間の政策を問う平和フォーラム声明
2025年10月21日、自民党の高市早苗総裁が第104代首相に就任した。発足して1か月、各種世論調査によると高い支持率が示されているものの、高市首相がこれまで訴えてきた政策は保守強硬派とも言われる内容であり、その具現化がどれだけ進むのか、多くの市民から不安の声が聞かれていることも事実である。
高市首相は国会論戦の中で、「台湾に対し武力攻撃が発生する。海上封鎖を解くために米軍が来援し、それを防ぐために武力行使が行われる」という想定を述べたうえで、「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」と述べた。2015年安保関連法の成立によって集団的自衛権行使が容認されるとした安倍政権以降、歴代政権では具体的な「存立危機事態」に言及することはなかっただけに、高市首相の発言は具体的で大きく踏み込んだことになる。日本政府は1972年の日中共同声明において、「1つの中国政策を十分理解し尊重する」という姿勢を示し、紛争は平和的手段で解決することを確認してきた。高市首相の発言がこの姿勢を踏まえたものとは言い難い。この発言以降、外務省金井アジア太平洋局長が中国・北京を訪問し、中国外務省の劉勁松アジア局長と協議したが、事態の収束は困難な状態が続いている。中国との経済的関係の悪化も報道されるなど、政治による日中関係の悪化が今後どこまで影響するかについて、予断を許さない。日本政府には、憲法理念に基づく平和外交への努力を求めながら、日中関係は日中共同声明と日中平和友好条約に立ち返り、正常化することが望まれる。
11月14日には、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向け、「非核三原則」の見直しを与党内で開始させる検討に入ったことが明らかになった。80年前の広島・長崎の被爆の実相を原点に、これまで核兵器廃絶と世界平和の実現を願い、国内はもとより、世界各国で凄惨な被爆の実相を語り、「核の非人道性」を国際的に確立させてきた被爆者からは、即座に抗議の声があがった。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)からも「非核三原則」の堅持、法制化を強く求める声明が発表された。国際的にもICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が、「広島と長崎の被爆者の声を聞くべきだ」としたうえで、「非核三原則」の見直しを非難する声明を発表している。被爆80年を迎えた今年、核兵器廃絶に向けた日本社会の機運をより一層高め、2026年に開催予定の核不拡散条約(NPT)と核兵器禁止条約(TPNW)両再検討会議につなげる形で、国際社会全体の核兵器廃絶への歩みを一層強固にすることにこそ、日本政府は注力すべきではないか。戦争による被爆を経験し、国連総会本会議に核兵器廃絶決議案を出しながら、一方では「非核三原則」を見直し、「核抑止」を前提とした安全保障に頼る日本政府の方針に、国際社会から信頼と納得が得られるとは到底考えられない。
他にも、「防衛費のさらなる引き上げ」、「スパイ防止法」、「武器輸出5類型」の撤廃や「選択的夫婦別姓制度」の否定など、懸念される方針は枚挙にいとまがない。グローバル化が進む今日、多文化共生社会を後退させる政策や方針に強い懸念も抱かざるを得ない。今、迅速にとりくむべき政策課題は、賃上げが追いつかず物価高に苦しむ市民の生活改善に向けた内容であり、個々人の人権を尊重した政策の実現であるはずだ。
私たちはこれまで訴えてきた、武力ではなく対話による平和外交をおし進め、生活改善と人権尊重につながる政策実現を求めるとともに、核兵器廃絶の実現に向けた歩みをより強固にするようとりくんでいく。戦後80年・被爆80年、これまで紡いできた平和を希求する市民の声を、一層高めていくことを決意し、高市政権発足1か月にあたっての平和フォーラム声明とする。
2025年11月20日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 染 裕之
丹野 久
アメリカ・トランプ大統領の核実験再開指示に抗議し、
核兵器のない社会の実現をめざす原水禁声明
10月30日、アメリカのトランプ大統領が、中国の習近平国家主席との会談直前に、SNSで核実験再開を国防総省に指示した。翌日には、いくつかの実験を行うつもりであること、また地下核実験の実施も否定せず、ロシアや中国を念頭に対抗する姿勢を示した。一方、アメリカ国内の核戦力を担当するコレル海軍中将は、10月30日の上院公聴会において、「大統領の発言が核実験を意味すると決めつけるつもりはない。中国もロシアも爆発を伴う核実験を行っていない」と述べた。11月2日、アメリカ・エネルギー省のライト長官は、「核爆発を伴うものではなく臨界前核実験であり、システムテストだ」と述べた。議会調査局によれば、アメリカでは大統領の決定から36か月以内に地下核実験を実施する能力を維持することが義務づけられている。
アメリカでは1992年を最後に、爆発を伴う核実験を停止し、その後は臨界前核実験を行ってきた。もちろん、臨界前核実験の実施であれば許されるということでは決してないし、臨界前核実験についても原水禁はこれまで抗議声明を発出するなど、あらゆるかたちの核実験に反対してきた。その上で今回、私たちが決して看過できないのは、核実験実施を外交の交渉カード、いわゆる「ディール」の材料として用いようとするトランプ大統領の姿勢である。被爆から80年を迎えてもなお、原爆の被害に苦しむ多くの被爆者がいるという現実を直視することを強く求める。
アメリカをはじめロシア、中国も批准している核不拡散条約(NPT)では、第6条において締約国に、誠実に核軍縮に核軍縮交渉を行う義務を規定している。また、2021年に発効した核兵器禁止条約(TPNW)は核兵器に関するあらゆる活動を禁止している。国連への加盟資格のある197か国のうち過半数の99か国がこのTPNWに参加しており、核兵器廃絶に向けた歩みを進めることこそが、国際社会全体から求められていると言える。
今回のトランプ大統領の発言はこうした国際社会からの要請に背を向けたものと言わざるを得ず、私たちは決して許すことができない。2026年4月にはNPT再検討会議がアメリカ・ニューヨークで開催される予定だ。アメリカを含めた核保有国には、「誠実な核軍縮」に向け具体的な進展をはかることを、私たちは強く求めたい。そして2026年11月に開催予定のTPNW再検討会議に向けて、国際社会全体で核兵器廃絶の道筋を確立させていく必要があることを私たちは確認する。
高市首相が10月28日に行われた日米首脳会談の際、トランプ大統領を「ノーベル平和賞に推薦する」意向を示したとされるが、言語道断である。戦争被爆国の政府として、トランプ大統領の姿勢を厳しく批判し、改めるように求めるべきだ。また、会談のなかでさらなる「軍事費拡大」をはかることを約束したり、米軍横須賀基地の原子力空母の上で高市首相がスピーチするなどして、日米の軍事一体化をいっそうおし進めようとする日本政府の姿勢は、決して私たちの安全な暮らしにはつながらず、むしろアジアにおける軍事的緊張を高めることになる。「核抑止」論をのりこえた平和の構築こそが望まれている。
原水禁は、今回のトランプ大統領の核実験再開指示に抗議するとともに、これまで進めてきた核廃絶を求めてきた原水禁運動を、今後も着実に進めることを改めて決意する。「核と人類は共存できない」という揺るがない理念のもと、市民の力の結集によって、国際社会全体を動かしていくことをめざし、日々の原水禁運動にまい進していくことを確認する。
2025年11月4日
原水爆禁止日本国民会議
共同議長 川野浩一
金子哲夫
染 裕之
総会アピール(案)
ロシアのプーチン政権はウクライナで、イスラエルのネタニヤフ政権はパレスチナのガザ地区で、国際社会からの反対や国連の非難にもかかわらず、軍事行動を続けています。これらの紛争は、無差別な大量殺戮や飢餓といった深刻な人道危機を引き起こしています。国連がこれらの行為を「ジェノサイド」(集団殺害)と認定・告発したにもかかわらず、その残虐行為は止まっていません。さらに、アメリカのトランプ政権は、イラン国内の3カ所の核施設を空爆し、国際的な緊張を高めています。自国の核兵器保有は認めつつ他国の核保有を拒否する姿勢を見せています。
世界的な覇権をめぐるアメリカと中国の対立が深まる中、東アジアの緊張が高まっています。日本の自公政権は、「台湾有事」を背景にした緊張を煽り、中国を想定した戦争準備を加速させています。
防衛費は、2023年度から2027年度までの5年間で総額43兆円増大させる計画です。しかし、実際には「後年度負担」という分割払い分を合わせると、この5年間で総額70兆円を超え、全体で110兆円以上にもなる巨額の軍事費となる見込みです。
日本の防衛力強化は、具体的な基地配備計画として進められています。小松基地には2030年度までにF35Aステルス戦闘機40機が配備される計画で、これは日本海側で最大の先制攻撃拠点へと基地を変貌させる動きです。長射程ミサイルの全国配備と合わせ、これは「台湾有事」の際、自衛隊が最前線に立ち、日本全土が戦場になる懸念があります。アメリカ軍は自衛隊を後方から支援する戦略であるため、金沢港や七尾港も、有事の際には「軍港」として利用できる体制づくりが進められています。
軍備増強と並行して、若年層への働きかけも強まっています。小学生向けの「防衛白書」(2025年は2,400校に配布)の発行や、県内の中学校での自衛隊の「出前授業」における装甲車の展示など、幼い頃から自衛隊の活動に慣れさせ、未来の「兵士」を育成する狙いがあると言えます。
また、7月には、3団体(県平和センター・石川県憲法を守る会・社民党)の「反対」申し入れにもかかわらず、海上自衛隊の護衛艦「みくま」「さわぎり」が金沢港と七尾港に入港し、中学生から32歳までの若者を対象としたリクルート活動も強行されました。
先の参院選で自民党は国民の信頼を失い、少数与党に転落しました。しかし、自公政権は、他の野党を取り込んで「大政翼賛」のような危険な政権づくりに進もうとしています。
戦後80年のいま、私たちは、戦争の危機が迫りくるなか、世界を戦場にしないためにがんばらなければなりません。そして、子どもたちを放射能禍にあわせないため、能登半島地震で危機一髪だった志賀原発を再稼働させてはなりません。
以上を訴えて総会アピールとします。
2025年9月25日 総会参加者一同
被爆80年を迎えるにあたって
ヒロシマ・ナガサキを受け継ぎ、広げる国民的なとりくみをよびかけます
1945年8月6日広島・8月9日長崎。アメリカが人類史上初めて投下した原子爆弾は、一瞬にして多くの尊い命を奪い、生活、文化、環境を含めたすべてを破壊しつくしました。そして、今日まで様々な被害に苦しむ被爆者を生み出しました。このような惨劇を世界のいかなる地にもくりかえさせないために、そして、核兵器廃絶を実現するために、私たちは被爆80年にあたって、ヒロシマ・ナガサ キの実相を受け継ぎ、広げる国民的なとりくみを訴えます。
2024年、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞しました。凄惨な被爆の実相を、世界各地で訴え続け、戦争での核兵器使用を阻む最も大きな力となってきたことが 評価されたものです。一方今日、核兵器使用の危険と「核抑止」への依存が強まるなど、「瀬戸際」とも言われる危機的な状況にあります。
ウクライナ侵攻に際してロシアの核兵器使用の威嚇、パレスチナ・ガザ地区へのイスラエルのジェノサイド、さらに、イスラエルとアメリカによるイランの核関連施設(ウラン濃縮工場)への先制攻撃など、核保有国による国連憲章を踏みにじる、許しがたい蛮行が行われています。核兵器不拡散条約(NPT)体制による核軍縮は遅々として進まず、核兵器5大国の責任はいよいよ重大です。
原水爆禁止を求める被爆者を先頭とする市民運動と国際社会の大きなうねりは、核兵器 禁止条約(TPNW)を生み出しました。これは、核兵器の非人道性を訴えてきた被爆者や核実験被 害者をはじめ世界の人びとが地道に積み重ねてきた成果です。同時にそれは今日、激動の時代の「希望の光」となっています。この条約を力に、危機を打開し、「核兵器のない世界」へと前進しなければなりません。アメリカやロシアをはじめ核兵器を持つ9カ国は、TPNWの発効に力を尽くしたすべての市民と国々の声に真摯に向き合い、核兵器廃絶を決断すべきです。唯一の戦争被爆国である日本政府はいまだTPNWに署名・批准しようとはしません。核保有国と非核保有国の「橋渡し」を担うとしていますが、TPNWに参加しない日本への国際社会の信頼は低く、実効性のある責任を果たすこととは程遠い状況にあります。アメリカの「核の傘」から脱却し、日本はすみやかに核兵器禁止条約に署名・批准すべきです。
原爆被害は戦争をひきおこした日本政府が償わなければなりません。しかし、政府は放射線被害 に限定した対策だけに終始し、何十万人という死者への補償を拒んできました。被爆者が国の償いを求めるのは、戦争と核兵器使用の過ちを繰り返さないという決意に立ったものです。国家補償の実現は、被爆者のみならず、すべての戦争被害者、そして日本国民の課題でもあります。ビキニ水爆被災を契機に原水爆禁止運動が広がってから71年。来年は日本被団協結成70周年です。被爆者が世界の注目をあつめる一方、核使用の危機が高まる今日、日本の運動の役割はますます大きくなっています。その責任をはたすためにも、思想、信条、あらゆる立場の違いをこえて、被爆の実相を受け継ぎ、核兵器の非人道性を、日本と世界で訴えていくことが、なによりも重要となっています。それは被爆者のみならず、今と未来に生きる者の責務です。地域、学園、職場で、様々な市民の運動、分野や階層で、被爆の実相を広げる行動を全国でくりひろげることをよびかけます。世界の「ヒバクシャ」とも連帯して、私たちはその先頭に立ちます。
2025年7月23日
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)
原水爆禁止日本協議会(日本原水協)
原水爆禁止日本国民会議(原水禁)


