3.11メルトダウンの教訓を無にする岸田内閣の「原発最大限利用」に抗議する!
2011年3月11日、東北地方太平洋岸を襲った東日本大震災は、未曾有の被害をもたらした。福島第一原発は設計値をこえる地震動と津波によって、全電源喪失の事態となり翌12日には第一号機が水素爆発を起こした。その後も、1・2・3号機が炉心溶融、2・4号機においても水素爆発が起こった。現在もなお事故原発は収束に至らず、その目途も立っていない。これは、1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故以来、最も深刻な原発事故であり、国際原子力委員会は、国際原子力事象評価尺度(INES)において、最高レベルの7(深刻な事故)に指定している。原発事故は起きないとの安全神話が神話に過ぎないことを実証した現実を、私たちは決して忘れてはなるまい。2011年から2012年にかけて「さようなら原発市民の会」の署名は瞬く間に800万筆をこえた。日本の市民社会が「脱原発」を希求したことは明らかだ。
岸田文雄首相は、グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議を組織し、脱炭素社会に向けての新たなエネルギー議論を提唱した。会議のメンバーは原発推進の産業界や電力会社幹部が加わり、13人中8人が原発推進に言及している。4回までの会議録に原発を否定する意見はない。原発の新増設やリプレース、次世代炉の開発、60年超の原発運転、再稼働の加速など、これまで抑制されてきた原発政策推進の議論が、全て出されている。しかし、次世代炉は研究の段階にあって具体的ではない。可能性の高い革新軽水路でさえ建設に手を挙げるものはない。新増設には住民の了解が必要だが現在の世論動向では困難だ。リプレースには廃炉作業の終了が前提だが、これも今後相当の時間が必要だ。GX会議の議論で具体性がある政策は、60年を超える原発運転の延長と既存原発の再稼働しか残らない。そのことがGX会議の真の目的に違いない。
2011年の福島第一原発の事故以降、原子炉等規制法を改正し、政府は原則40年、最長60年まで延長して原発の運転を認めると定めた。原水禁は、40年を超える運転期間延長を認めることには、①原子炉の脆弱性やその他設備の老朽化、地震等の新しい知見への対応や部品交換などが困難であるなど、安全性の面から反対してきた。既存原発では経年劣化によるトラブルが絶えない。今回の運転制限撤廃の方針は、経営的判断を最優先し安全性をないがしろにするもので到底認められない。原子力規制委員会の山中伸介委員長は、「運転延長は政策判断で、関与する立場にない」と発言しているが、規制委員会の責任放棄としか言えない。40年超の運転には様々な安全性に関する規制が存在するが、原子炉等規制法が撤廃されれば安全審査そのものがどう変わるのか、先は見えていない。規制委員会は規制の後退を許すことに手を貸してはならない。
既存原発の再稼働促進もGX会議の重要な課題となっている。規制委員会の審査の長期化が再稼働を困難にする原因だとしているが、規制委員会が府省の大臣などからの指揮や監督を受けずに独立して権限を行使することができる3条委員会とされたのは、福島第一原発事故の教訓からである。再稼働が進まないのは、新規制基準による審査の厳格化でより安全への配慮を優先させてきたからに違いない。安全を犠牲にして経営を優先する姿勢が、福島第一原発事故の誘因になっている。そのことを忘れ再稼働を優先することは決して許されない。
GX会議資料では、根拠をあげることなく電力需給が逼迫しているとして、その背景を再エネ拡大によって稼働率の低下した火力の休廃止と原発再稼動の遅れとしている。火力の休廃止は脱炭素社会をめざすには当然であり、再稼働の遅れも安全優先の規制からは当然である。さらに再エネ大量導入のための系統整備の遅れをあげているが、その原因は、福島第一原発事故後に必要であった脱原発社会への移行を、原発温存のエネルギー政策を掲げる政府・与党が妨げ、再エネの促進が進展しなかったことにある。原水禁は「脱原発」が社会を変えると主張してきた。吃緊の課題である気候危機と脱炭素化の社会構築に向けても、基本政策を「脱原発」に求めることこそが必要だ。そのことなくして再生可能な将来をつくることは出来ない。
原水禁は、今後も「脱原発」社会を求め、「さような原発1000万人アクション」に結集し全国連帯の下、とりくみをすすめていく。
2022年12月16日
原水爆禁止日本国民会議
共同代表 川野 浩一
金子 哲夫
藤本 泰成