9月15日、原子力規制委員会は、新規制基準を満たすとして、中国電力島根原発2号機の安全審査合格を正式に決めた。しかし、私たちは、島根原発がさまざまな問題点を抱えていると考え、このまま再稼働を許すことはできない。
島根原発は、全国にある原発の中で、唯一県庁所在地にあり、避難計画策定が必要となる30km圏内には、全原発の中で3番目に多い約46万人が住んでいる。このことは、かねてから住民を安全に計画通りに避難させることができるのかが問題視されてきた。また、敷地の南側約2kmの所に東西に走る宍道断層があり、危険性が指摘されてきた。基準地震動が当初の600ガルから820ガルに引き上げられたが、果たしてそれで済むとは思えない。過去には、他の原発ではあるが、基準地震動をはるかに上回る地震動を受けた原発がいくつもあった。津波対策についても高さ15mの防波壁を約1.5kmに渡り建設したが、果たして十分と言えるのだろうか。今回の安全審査合格は、このような不安を払拭できたとは言えない。審査を合格したからと言って、安全・安心が担保されたわけではないことは言うまでもない。
島根原発2号機は、東京電力福島第1原発と同じ「沸騰水型」で、これまでに合格した同型の4基は、地元同意が得られていないなどの理由で、未だ再稼働には至っていない。島根県と松江市をはじめとする周辺自治体の同意や動向が今後の焦点となる。自治体は、住民の安全・安心を最優先すべきであり、再稼働ありきの判断は許されない。中国電力が地元と結んでいる安全協定により、再稼働には立地自治体である島根県と松江市の事前了解が条件となっているが、さらに住民避難計画の策定が必要な原発から30km圏内にある周辺自治体との対応も焦点になっている。現に、島根県の出雲・雲南・安来の各市と、鳥取県、同県米子・境港の両市には、事前了解権(同意権)が与えられておらず、立地自治体並みの「事前了解権」のある安全協定の締結を中国電力に求めている。住民の生命と財産を守るのは自治体の責務であり、当然のことだ。中国電力は、自治体や住民の声を真摯に受け止めるべきである。
国は、福島原発事故後、原発から30km圏内にある自治体に避難計画の策定を義務付けている。一度事故が起きれば、深刻な影響を被る恐れがあり、実際、福島原発事故では、30km以上離れた飯舘村にも放射性物質が飛散し、全村が避難区域になったことを忘れてはならない。事故の教訓を踏まえ、中国電力は事前了解権を拡大するべきである。
大規模な事故を想定して策定する広域避難計画にも懸念は残る。島根原発は、30km圏内に約46万人が生活している。自力避難が困難な高齢者や障がい者など「避難行動要支援者」が5万人超で、サポートにあたる人員を確保できるかも課題だ。当然、避難のための交通手段・避難場所の確保、また今は、新型コロナウイルス対策も必要となる。当該自治体の判断と指示に従って住民は避難することになるが、実際に事故が起きた時に、計画通り対応できるかどうか、その実効性に大きな疑問が残る。これらを放置したままの再稼働は絶対にあり得ない。
島根原発をめぐっては、低レベル放射性廃棄物処理の虚偽記録問題や、廃棄物保管などに使う建物の法定に関する虚偽報告など、不祥事が相次いでいる。テロ対策施設に関する機密文書の廃棄も明らかになった。組織と安全意識の劣化というべき状況が起きていて、地域と住民の信頼は取り戻せないと考える。それ以前に、原発を運転する資格そのものが問われている。
2021年9月17日
原水爆禁止日本国民会議
共同議長 川野 浩一
金子 哲夫
藤本 康成