平和軍縮時評2017年3月号
核兵器禁止条約交渉・第1会期を終わる
「禁止先行型」条約の全体像が見えてきた
日本は交渉から逃亡し―歴史と被曝者を裏切る 田巻一彦
2017年3月30日
3月27日から31日にかけて、ニューヨークの国連本部では「核兵器禁止条約」交渉会議の第1会期が開かれた。会議開催に至る経過については、本時評の16年11月号(http://www.peace-forum.com/p-da/161130.html)を参照してほしい。有志国と市民社会が勝ちとった歴史的会議である。
会議は終始熱気に包まれ、比較的簡潔な「禁止先行型条約」の締結を想定して,原則と目標、前文の要素、中核的禁止事項、法的条項・規範、制度的取り決めといった広範な議論が進められた。その結果、条約の全体像が浮かび上がった。議論の様子については、「核兵器廃絶日本NGO連絡会のブログ(https://nuclearabolitionjpn.wordpress.com/)に現地報告が掲載されている。是非参照してほしい。2人の被爆者による感動的な意見表明も行われた。
会議最終日、議長のエレイン・ホワイト大使(コスタリカ)はすぐに草案起草にとりかかり、6月15日から7月7日の第2会期中に条約成案を採択するという方針を示した。8月のヒロシマ、ナガサキの被爆の日には、条約の最終案ができている可能性大、という興奮するべき状況が予想される。
問題は日本の態度である。昨年の国連総会で会議開催に反対するという許しがたい行動に出た日本政府は、結局交渉会議には参加しなかったが、一日目の3月27日には「なぜ交渉に参加しなのか」を滔滔と述べた。今号では、日本の言い分を批判したい。
高見澤国連大使の演説
核兵器禁止交渉会議第1日(27日)の「ハイレベル・セグメント」で高見澤将林・国連軍縮大使は日本の基本的スタンスについて次のように述べた。
「広島と長崎における核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国として、日本には、原爆投下の実相とその人道上の結末に対する明確な認識について、国境と世代を超えて注意を喚起する使命がある。この努力を通じて、日本は核軍縮の前進のための国際社会の団結を促し、核兵器のない世界を実現するという共通の目標に向かって、他の国々と協働してきた。」
「(略)日本は核兵器国と非核兵器国の協力を基礎に、核兵器使用の人道上の側面への認識と国際安全保障の厳しい現実への客観的認識の両方を視野に納めながら、実際的かつ具体的措置を積み上げることが重要であるということを一貫して訴えてきた。このアプローチこそが、核兵器のない世界に到達するためのもっとも効果的な道筋であると信じる。この立場に揺るぎはない。」
これは、繰り返し表明されてきた日本政府の基本方針である。キーワードは「安全保障の現実」と「実際的かつ具体的措置」、である。
さらに大使は続けた。
「核軍縮は国家安全保障と密接に連関する。すなわち、現存する(安全)保障上の懸念を考慮しないで軍縮を実現することはできない。我々は、ますます悪化しつつある国際社会の現在の安全保障状況から目をそらしてはならない。北朝鮮は、国連安保理の関連決議に違反して。昨年来2回の核実験と20回の弾道ミサイル発射を行った。これは、北東アジア地域と国際社会全体にとっての現実的で差し迫った安全保障問題である。(略)したがって、核軍縮措置が各国、各地域の現実の安全保障上の懸念への対処にいかに貢献しうるかの現実的展望を考えることは決定的に重要である。」
核兵器禁止条約を議論するために集まった各国代表、国連幹部に向かって日本政府がいったことはこれに尽きる。この演説冒頭で大使は会議への参加・不参加を明らかにしなかったが、言いたいことはあきらかだ。
出席するが交渉には参加しない(岸田外相)
高見澤大使は多くの言葉を費やしたあと、演説の終わり近くで、「会議には参加しない」とようやく明らかにした。
「核兵器禁止条約は、核兵器を一発も現実に削減できないならば、ほとんど意味がない」、「実際、核兵器国の参加なしにこのような条約を作っても、核兵器国と非核兵器国の間のみならず非核兵器国内の分裂と分断を深め、引いては国際社会を分裂させるだろう。(略)たとえこのような条約が合意されても、北朝鮮の脅威のような安全保障問題が解決に導かれるとは思わない。これが、日本が昨年の国連総会決議71/258に反対した理由だ。」
さらに、大使はつづける。
「これまでの議論と検討から、禁止条約というコンセプトでは核兵器国の理解も参加も得られないことが明らかになった」、「残念ながら現在の状況では日本がこの会議に、建設的かつ誠意をもって参加することは難しいといわねばならない。」
昨年の総会決議採択このかた、岸田外相は会議参加への可能性をほのめかしつつ、政府全体としてマターであるとして会議への参加・不参加については「検討中」としてきた。そして会議の当日になって高見澤演説を残して日本代表団は会議場をたちさった。3月28日の記者会見で、外相はこれを「会議には参加したが、交渉には参加しなかった」と表現した。「会議参加」の体面だけは繕ったということか。唯一被爆国としては「不参加」では余りに体裁が悪いと思ったのか。
ただ大使の口ぶりを見ると日本政府は会議の準備過程初期に若干は加わった可能性はある、というのが筆者の観測だ。しかし会議を「禁止先行型条約」を軸に進めるという、主導国(オーストリア、メキシコ、アイルランド等)の方針が揺るがないことを知って不参加を決めたのではないかと思われる。日本が一時「禁止条項」のない条約案を提案したとの情報も耳にした。どんな条約案を持ちまわったのか。
「実際的・具体的措置」とは?
日本が核軍縮交渉で繰り返して述べてきたのは、核軍縮は「実際的・具体的措置」の積み重ねによってしか実現できないという確信である。その中身として高見澤演説が挙げるのは次のような措置である。これらは「禁止条約」を退けるに値する「具体的措置」と呼べるのか? 「具体的」という以上、予見しうる時間軸で実現可能でなければならないが、果たしてその要件は満たしているのか。
1)包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効
同条約は1996年に採択されて以来、20年以上発効していない。その理由は発効に批准が必須とされる44の「発効要件国」のうち、インド、パキスタン、北朝鮮は未だ署名すらしておらず、米国、中国、イラン、イスラエル、エジプトは、署名はしているがまだ批准していないからだ。これらの国々(エジプトをのぞけば核保有国)を批准させるのには並大抵の説得では不可能である。とりわけ最大の核兵器国である米国が批准しないことには、状況は動かないだろう。たんなる「呼びかけ」を越えた米国への働きかけを、私たちは日本政府から聞いたことはない。もう一つの問題はインドである。昨年11月に「日印核(原子力)協力協定」が締結された。政府は「もしインドが核実験を行ったら、物資の提供を含む協力は中止する」と繰り返す。しかし、関連する合意文書を見ても「協力中止」の文言はない。CTBTを骨抜きにするこのような協定を結んでおきながら、インドに署名、批准を働きかけることなどできるのだろうか。
2)兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の早期開始
FMCTは日本が特に力を入れている課題である。この条約は90年代に提唱されて以来、ジュネーブ軍縮会議(CD)を交渉の場とされ、国連総会でも何度も交渉開始を求める決議が挙げられているが、交渉は始まらない。昨年の国連総会では「ハイレベル専門家準備グループ(GGE)が設置され、そこで条約の実質的な要素についての勧告を検討、作成することになった。日本もGGEの一員となっているが、具体的議論はこれからであり、将来を予見することは難しい。その前に「全会一致原則」のために20年以上何も決めることができないCDの現実を打開しなければならない。
3) 最小化地点(minimisation point)
最近日本政府が好んで使う言葉である。16年にジュネーブで開かれ、「禁止条約交渉」の道を開いた国連「公開作業部会」に日本が提出した「核兵器のない世界に向かう漸進的アプローチ」と題された作業文書に始めて登場した。高見澤演説ではつぎのように言及された:
「核兵器国、非核兵器国を含むすべての国の行動をとおしてこのような努力(筆者注:信頼醸成などによる核軍縮環境の整備)の結果として我々は『漸進的アプローチ』のいう、核兵器の数が極めて少ない『最小化地点』に到達することが期待される。この地点が手に届くようになって初めてわれわれは、核兵器のない世界に向かう最後のビルディング・ブロックとして、効果的で意味ある法的文書を作成することができるようになるだろう。この段階で、われわれは、差別的でなく国際的に検証可能な多国間核兵器禁止条約を含む核軍縮のための適切な枠組みに考えを進めることが可能となろう。」
核兵器が何発になれば「極めて少ない」といえるのか? 「最小化地点」は何時、誰によって、どのようなプロセスで達成されるのか? 具体的な規準、定義は一切明らかにされていない。ただ、日本も最後の最後には「核兵器禁止条約」を考えることができるということだけは注目してよいが。しかしこれは日本の主張の文脈全体からいえば、「禁止条約」も無限遠の場所に突き放す詭弁といってよいだろう。もし、それを否定するならば日本政府は、今からでも遅くないから「禁止条約交渉」に参加するべきである、「定義された『最小化地点』まで待つ」という条件付きの「禁止条約案」を持って。
そもそも、さきに述べたようにCTBTやFMCTが「核軍縮のための実際的・具体的措置」と呼べるのかどうかは疑問である。日本政府もこれらの条約の目的を次のようにいっている。(核軍縮という共通の目的を前進させるために)「CTBTによる核兵器開発の『質的キャップ(上限設定)』が、核物質の生産禁止(FMCT)による『量的キャップ』によって補完されねばならない」(17年3月2日、「FMCTに関する公開協議」における別所浩郎国連大使の発言)。率直な発言である。CTBTやFMCTはそれ自体が「軍縮措置」であるというよりはむしろ、その前提となる「凍結措置」であることを政府自身が認めている。「最小化地点」は少なくともこれらの条約では実現できない。
新たな分裂を生んだ日本の行動
日本は「禁止条約に反対である」ことを言うためにこれだけの言葉を費やした。それが「核兵器国と非核兵器国の分断」だけでなく、「非核兵器国の中の分断(高見澤演説)に
密接に関連することを忘れてはならないだろう。16年国連総会に日本が提案した「核軍縮決議」に賛成したのは167か国。非核兵器国のほとんどが支持した。一方、「禁止交渉会議」を決めた決議71/258の賛成は、113か国であった。日本決議の賛成国との差は約50強。ヘイリー米国連大使が3月27日に国連でやった「禁止条約反対声明」には、40か国が名を連ねたと大使は言った。日本の行動は、非核兵器国間に生まれた「新たな分断」を象徴するものだった。
そして日本が選んだ道が、ほかでもない被爆者との「分裂」であったことを忘れてはならない。岸田外相は、交渉会議での被爆者の発言を「貴重で重たい」(記者会見)といったが、交渉からの「逃亡」は被爆者の思いを裏切るものだった。被曝者を突き放した日本は、もう「核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国」(高見澤大使)などと「自称」するのは止めるべきではないのか。(田巻一彦)
[付記]
ピースデポは、日本や核の傘依存国も参加できるような「核軍縮枠組み条約案」を作り、それを英文の正式な「作業文書」として提出した上で会議にのぞんだ。「禁止先行条約」が軸となった会議では議題としては取り上げられなかったが、今後の様々な課題を考えるための手がかりが豊富に含まれていると思う。是非ご一読を。ご希望の方は office@peacedepot.orgまで。
平和軍縮時評2017年5月号 核兵器禁止条約成立へ―この歴史的転換を北東アジア非核兵器地帯」設立の好機としよう!
2017年5月30日
3月27日の「核兵器禁止条約交渉」会議の第1日、日本代表は「禁止条約交渉に参加しない」理由を次のように(「時評」17年3月号)述べた。
―核兵器廃絶のためには、人道と安全保障の両方の認識が必要だ。「禁止条約」アプローチには北朝鮮の核の脅威に代表される安全保障課題への深刻な認識が欠落している。
同会議が開催された17年3月、昨年1年間で2回の核実験(通算6回)、10回の弾道ミサイル発射と1回の人工衛星打ち上げを行った北朝鮮は、ミサイルによる挑発を繰り返していた。3月6日に発射された4基の弾道ミサイルのうち3基は1,000キロメートルを飛び、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。北朝鮮はこれを「在日米軍基地への攻撃訓練」と呼んだ。日本の支配者たちはひたすら「恐怖」を煽った。
日本政府の論理は「このような脅威に対処するには米国による核の傘(拡大抑止)が不可欠。その脅威が解消されない限り日米同盟は核能力を手放すわけにはゆかない。したがって核兵器禁止条約は日本の安全保障にとって有害だ、というものだ。
ミサイル発射と米韓合同演習
―「挑発」と「圧力」の無限スパイラル
日本政府に言われるまでもなく、朝鮮半島を巡る軍事緊張はかつてないほど高まっている。
17年1月から5月に至る朝鮮半島の動きを日誌にまとめた(「朝鮮半島日誌」)。度重なる国連安保理の禁止・制裁決議や声明にも拘わらず、昨年1年間で2度の核実験、20回以上の弾道ミサイル発射と1回の人工衛星打ち上げを行った北朝鮮は、トランプ政権発足から間もない2月12日、今年最初の弾道ミサイルを発射した。これに対するトランプ政権の無定見な対応も緊張を高めた。
3月1日に始まった最大規模の米韓合同演習は4月30日までつづいた。四軍実動演習「フォールイーグル」(3月1日~4月30日)と指揮所演習「キーリゾルブ」(3月13~24日)が複合・連動する演習である。昨年は「斬首作戦」と呼ばれる政権打倒シナリオを含むことが注目されたが、これとともに今年の演習には15年11月に韓米間で合意された「4D抑止戦略」―北朝鮮の核・ミサイル施設から防衛(defend)し、それらを探知(detect)、妨害(disrupt)、破壊(destroy)するシナリオを含むと韓国当局は話している。危機が差し迫っているときには、先制攻撃を行うことも想定されている。
演習には戦略爆撃機、空母打撃団を含むあらゆる戦略的資産が投入されているほか、かつてアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを殺害した米特殊部隊が1,000人規模で参加と言われている。総戦力は30万人を超えるとされているが具体数は公表されていない。
当然のことながら、北朝鮮政府と軍はこれらの演習が体制打倒をも狙うものとして極度の警戒心を抱いた。その警戒心は今も解かれず朝鮮人民軍には戦時に匹敵する態勢が下命されているだろう。演習開始後に弾道ミサイル発射実験ペースが上げられたことは警戒心の表れである。3月6日に4基の弾道ミサイルを発射(うち3基は日本の排他的経済水域:EEZ内に落下)したときには、北朝鮮から「在日米軍基地への攻撃訓練」であったとのコメントも発せられた。
膨らむ疑心暗鬼、偶発的衝突の可能性
一方、ミサイル発射には「あらゆる選択肢」で対応するとしているトランプ大統領がいう「きわめて恐ろしい結末」(3月7日)が何を意味し、究極的な行動に踏み切ることを判断する「レッドライン」がどこに引かれているのかは曖昧にされたままだ。このことが北朝鮮の不安と疑心を増大させる。彼我の間の通常戦力の圧倒的な差を思えば当然である。米国が中国に対して制裁強化を迫り、中国も一部それに応じていることも北朝鮮の不安と疑心をいっそう高めている。
米朝間に公式の外交ルートが存在しない中で、このような敵対関係が継続すれば、偶発的な軍事衝突がいつ起こってもおかしくない。朝鮮半島はまさに一触即発の状況におかれている。
危険な「心理ゲーム」を早く終わらせねばならない。ボールを握っているのは明らかに圧倒的強者である米国だ。中国が提案した「合同演習とミサイル発射の相互中止」(3月7日)はその意味できわめて理にかなった提案だと思われる。この提案は米国から即刻拒絶されたが。
語られない「ミサイルの二重基準」
北朝鮮の1は国連安保理決議への違反であり、米、日、韓はこの国際法違反を止めさせるためには、経済制裁だけでなく軍事的圧力が不可欠であると主張する。しかし、その米国が07年以来の10年間で41回の弾道ミサイル発射実験を行っている事実はほとんど報道されていない。
世界には弾道ミサイル発射を包括的に禁止するルールは存在しない。国連安保理決議は北朝鮮に「弾道ミサイル技術を用いたいかなる発射」をも禁止しているが、それは同国の弾道ミサイルが核兵器開発と分かちがたく結びついているとの理由からだ。一方、米国が繰り返しているのは、まごうことなく核兵器を搭載するための「大陸弾道弾(ICBM)」の発射である。米国にゆるされるミサイル発射が北朝鮮にはゆるされない。この二重基準は、北朝鮮に、自らのミサイル発射を正当化する根拠を与えている。
この状況を打破するためには包括的で差別のない「弾道ミサイル」規制ルールが必要だが、「弾道ミサイル」と「衛星打ち上げ」をどう区別すするのかということも含めて問題が多く交渉は始まる気配はない。(「時評」2012年5月30日号)
「核兵器禁止条約」は、「核兵器は誰がもっても、どこに有ってもならない」
という基準を確立する
朝鮮半島でこのような状況が続くなか、ニューヨークでの「核兵器禁止条約」交渉は順調に進み、5月22日は「議長草案」が公表された。(暫定的和訳はこちら。https://nuclearabolitionjpn.wordpress.com/2017/05/24/draftconvention/
6月15日に始まる会期でいよいよ「核兵器禁止条約」のテキストが合意されようとしている。
皮肉なことに、北朝鮮と米国が現在、「よく似た基準」を共有している問題がある。それは「核抑止力」に関する原則だ。両国の「基準」は敵国の核を否定し、自らの核を正当化という意味で同質である。
まず、米国の基準:
―合衆国は、合衆国、同盟国並びにパートナーを攻撃することの代償として受ける結果が、攻撃することによって得られる利益を著しく上回るであろうことを潜在的敵国に確信させうる、信頼性ある核抑止力を維持するであろう。(13年6月9日・合衆国の核使用戦略に関する報告)
―日米同盟は日本の安全を確保する完全な能力を有している。米国は,あらゆる種類の米国の軍事力による自国の領土,軍及び同盟国の防衛に完全にコミットしている。(17年2月10日・日米首脳会談「共同声明」)
つづいて北朝鮮の基準(核兵器国地位確立法。13年4月1日):
―核兵器は、増大し続ける米国の敵視政策と核脅威に対処してやむを得ず保有することになった正当な防衛手段である。
―核兵器は、世界が非核化されるまでの間、DPRKに対する侵略と攻撃を抑止、撃退し、侵略の本拠地に対するせん滅的な報復打撃を加えることを任務とする。
重要なことは「核兵器禁止条約」が示そうとしているのが、このどちらとも異なる原理だということだ。それは「核兵器は誰の手にあっても、どこにあっても違法である」という「ひとつの基準」だ。禁止条約」の合意は、この基準を「拘束力ある法規範」として確立する歴史的な一歩だ。
当面は核保有国も日本や韓国、NATO諸国のような「核の傘依存国」は、条約に加入しないだろう。条約である以上、非締約国を直接縛ることはできない。しかし、国連加盟国の多数がこの条約を支持しているという事実から逃れられる国はない。米国であれ、日本であれ、北朝鮮であれ。
「核兵器禁止条約」の成立によって、世界の「光景」はまったく違うものになる。その新しい光景の中で、私たちには「安全保障」に対する考え方を根本的に見直すことが求められてゆくだろう。
世界的禁止と地域的禁止が共鳴する場―「北東アジア非核兵器地帯」に進もう
日本の政府与党とメディア(特にテレビ)は、北朝鮮のミサイルにひたすら危機感を煽っている。タカ派政治家たちは、この機に乗じて軍拡を求める(https://www.jimin.jp/news/policy/134586.html)。いわく「ミサイル防衛を強化せよ」、「日本も敵地(北朝鮮)反撃力を持て」・・・。内閣府の「国民保護ポータル・サイト」(http://www.kokuminhogo.go.jp/shiryou/hogo_manual.html)へのアクセス数が3月は45万件、4月は22日現在250万件を超えたという。同サイトは「ミサイルから身を守る」方法を解説する。「攻撃当初は屋内へ避難し、その後、状況に応じ行政機関からの指示に従い適切に避難しましょう。屋内への避難にあたっては、近隣の堅牢な建物や地下街などに避難しましょう。」、その前には「着弾地の予想は困難なので、発射されたらサイレンをならす」などといっている。実際にはミサイルが飛んできたら身を守るすべなどないに等しいのに、これでは先の戦時中の「隣組」の回覧板と変わらない。
政府は、核兵器禁止条約を「安全保障課題への深刻な認識が欠落している」といって拒否したが、この程度のことしか考えられない政府の「認識」は甘すぎないか。発射されれば日本に10分で到達するミサイルを、北朝鮮はすでに百発単位で配備していると思われるのに。政府がやるべきことは、ミサイルが撃たれるような事態を回避するための外交交渉以外にない。
この国を、平和憲法を持つ唯一の戦争被爆国としてのあるべき姿に立ち返らせることはできないのだろうか。その手がかりは日本が16年の国連総会に提案し採択された「核軍縮決議」の1節にある。「関係する加盟国が、核兵器の役割や重要性の一層の低減のために、軍事・安全保障上の概念、ドクトリン、政策を継続的に見直しいくことを求める」。この一節が説得力をもつためには、日本自らが「政策を継続的に見直して」ゆかねばならないが、その様子はみられない。
日本、北朝鮮、韓国が非核兵器地帯を形成し、米国、中国、ロシアが3か国に「消極的安全保証」を提供する「北東アジア非核兵器地帯」(「非核兵器地帯の概念」)は、核兵器の役割や重要性を一層低減させる」ための現実的構想だ。それは核兵器の「地域的禁止」と核兵器禁止条約のいう「核兵器は誰がもっても、どこに有ってもならない」という原理を共鳴・共存させる仕組みだ。
「北東アジア非核兵器地帯」の形成プロセスは、「北朝鮮の核プログラムの放棄」を最初に求めるのではなく、北朝鮮の現状から出発する。そして、例えば「核・ミサイルプログラム」と「米韓合同軍事演習」を同時に凍結することから、「朝鮮戦争休戦協定を平和協定に変える」ことを含む朝鮮半島の平和のための懸案事項を段階的に解決してゆく、相互的で包括的なプロセスでもある。
社会のあらゆる場所、階層から「非核兵器地帯」設立の声を高めてゆこう。
これこそが「安全保障課題への深刻な認識」に基づき日本がとるべき行動ではないだろうか。