投稿者: ourplanet 投稿日時: 火, 05/19/2015 – 02:56
福島第一原子力発電所事故に伴う健康問題に対応するために、福島県の放射線リスクアドバイザーに就任していた長崎大学の山下俊一教授が事故直後の5月、「福島県は世界最大の実験場」などと発言していたことが分かった。また、この会議の中で、山下氏は1ミリシーベルト以上の被ばくした人への生活補償や医療補償について言及していた。OurPlanetTVが議事録を入手した。
「福島県は世界最大の実験場」
発言があったのは、2011年5月1日に、福島県立医大が開催した「健康管理調査スキームについての打ち合わせ」。福島県と福島県立医大の関係者14人が出席した。県立医大の竹之内副理事長はまず冒頭で「早く枠組みを作りたい」と発言。県の阿久津部長は「県民の不安を取り除きたい。県が主体で調査をやらないと不信感を取り除けない」と続けた。
これに対し、山下教授は「国際的には最大の実験場という見方がある」と発言。広島や長崎よりも被ばく者数の多い福島事故のデータが、国際機関などの研究者から熱い注目を集めている事実を強調した上で、「福島県が主体的に調査を行い、プレッシャーをはねのけるべき」だと、大規模な予算を組むよう働きかけていた。
年間1ミリシーベルトでの生活補償・医療費に言及〜年1500億円
同会合にいて山下氏は常に主導的な立場をとり、関係者に様々なアドバイスや提案を投げかけている。山下氏は、比較的線量の高い飯館村や川俣町山木屋地区などをモデル地区に指定し、同地区での試行が急務であると指摘。また会津を対照地域(コントロール群)とすることを提案した。
さらに予算にも言及。「データの保管・管理には膨大な予算がかかることも留意すべき」として、予算の要求時期についても質問。「JCOと事故と同じ考え方であれば1ミリシーベルトで補償の問題もでてくる」「JCO事故での補償・医療費を含めた総額は100〜200億円。財務省に対して要求するならば生活補償、医療費まで含めると毎年1500億円か。かなり大規模になる」と発言していた。
馬場氏が6月にまとめた内部メモによると、福島県が「福島県民健康管理調査」の検討に入ったのは4月中旬。内堀副知事(当時)から保健福祉部長に対して、放射線の影響に関して、県民の健康への影響を考慮した調査を検討するよう指示。その後、阿久津保健福祉部長が健康衛生総合室次長や課長らを招集して、全体スキームづくりを指示し、4月下旬にはスキーム案を作成。5月3日に内堀知事らの了承を得た。
上記5月1日の会議録は、このスキーム作りに伴う文書を情報公開するなかで、唯一入手できたもの。5月13日の第1回福島県民健康調査準備会(通称:秘密会)の議事録以前の議事資料は、県庁には一切残っていないとして、今なお公開されていない。
山下俊一氏は、原発事故後、福島県に放射線リスクアドバイザーとして、放射線影響について数々の講演を実施。「100ミリシーベルト以下は大丈夫」「ニコニコしていれば放射線は来ない」といったフレーズで、全国的に名前が知られるようになった。
その山下氏が、同時期の会議の中では1ミリシーベルトでの生活補償・医療補償について言及していたことは、重大な意味を持つ。山下氏は、この時期、 長崎大学とウクライナ放射線医学研究センターが学術協力のもと刊行された「HEALTH EFFECTS OF THE CHORNOBYL ACCIDENT」の序文を執筆している。
山下氏は序文の中で、ウクライナの研究者は懸命の努力の結果、事故後の急性障害だけでなく、晩発性の放射線障害や慢性疾患などについても、放射性影響に関する一定の合意を得た記載。序文執筆中に、福島原発事故が起きたとした上で、この報告書が日本にも役に立つだろうと述べている。そして、甲状腺がんのみならず様々疾病、低線量被ばくについても、今後さらに、国際的な協力のもと解明していくべきだと結んでいる。
2011年8月29日に刊行された同報告書は、文部科学省のCOEプログラムの予算によって出版されたもの。編者はウクライナ医学アカデミー会長のアンドレイ・セルジューク氏、ウクライナ医学アカデミー準会員のウラジミール・ベベシュコ氏、ウクライナ放射線医学研究センター所長のドミトリー・バズーカ氏、長崎大学副学長の山下俊一氏。事務局責任者は、ウクライナ放射線医学研究センター副所長のアナトリー・チュマク氏が務めている。
目次は以下のとおり
第1章:被曝線量
第2章:チェルノブイリ事故処理の九世紀における被害者の医療確保
第3章:被災者の登録、第4章:急性放射線症候群
第5章:白血病
第6章:固形がん、
第7章:細胞遺伝学的影響
第8章:免疫的影響
第9章:持続性ウィルス感染の意味
第10章:チェルノブイリ大惨事後の医学・人口動態的構造の変化
第11章:晩発的な非腫瘍性疾患の疫学、
第12章:チェルノブイリ事故処理作業員の25年後におかる心血管疾患、
第13章:甲状腺と代謝
第14章:抗酸化システム、タンパク質および資質の酸化修飾
第15章:気管支肺疾患
第16章:男性の生殖系の健康、
第17章:神経系および社会心理的側面
第18章:感覚器官
第19章:チェルノブイリ大惨事後の晩発的な放射線汚染地域住民の社会心理的状況
第20章:認知機能への放射線のリスク、
第21章:チェルノブイリ事故により小児期に被ばくした人の医学的影響
第22章:チェルノブイリ事故後、電離放射線に被ばくした子ども及び被ばくした人の子どもにおける甲状腺および生殖器系
第23章:先天性異常の遺伝モニタリングおよび継承された疾患
第24章:歯の硬組織に対する高線量および低線量の電離放射線の影響の特殊性
http://www-sdc.med.nagasaki-u.ac.jp/gcoe