- 2016年9月13日(日刊ゲンダイより)
北の核実験を受け「もっと抑止力強化を」という議論が出ているが、ちょっと待って欲しい。米国に押し付けられ導入した現状のミサイル防衛システム(PAC-3ほか)は、迎撃どころか想定通りの警報も出せず、役立たずを露呈。1兆円超が壮大な“無駄遣い”になっていたことがハッキリしたのだ。
ミサイル防衛システムの限界を指摘するのは、軍事評論家の田岡俊次氏だ。
「8月3日に北朝鮮は弾道ミサイル2発を秋田沖に発射しましたが、日本政府が第1報を発表したのは発射から1時間15分後でした。イージス艦などへ破壊措置命令は出されず、自治体などへの警報『Jアラート』も機能しないノーマーク状態でした。その後、常時『破壊措置命令』を出したままにして政府は警戒を続けていましたが、9月5日に弾道ミサイル3発が北海道沖に発射された際も第1報は1時間32分後。最も早かった警報は海上保安庁から船舶への『航行警報』で、それでも発射から19分後でした。これはミサイル落下の10分後で、警報の意味がなかった。ミサイル発射が探知されれば、その警報を船に伝えるのを意図的に遅らせるはずはない。つまり、日本のミサイル防衛能力の限界を露呈したものと考えざるをえません」
発射が防衛省の「中央指揮所」や官邸の「危機管理センター」に伝わり、「Jアラート」で住民に屋内避難を呼びかけるまで、本来、「1分間」という瞬時に行われるはずだった。計画は机上の空論だったのである。
ちなみに、去年12月と今年2月に北朝鮮がテポドン2で小型人工衛星を打ち上げた際は、事前通告もあり対応準備ができたため、政府は発射2分後から逐一、飛行状況を発表していた。ところが、移動式の発射機から発射された8月と9月のミサイルにはお手上げ。防衛省は「事前通告がなかった」「移動式の発射機だった」ので分からなかったと変な言い訳をした。
「実戦では相手はミサイル発射を予告してはくれませんし、自走発射機に載せて発射位置をしばしば変えるのが一般的です。防衛省の釈明は、本物の弾道ミサイルには対応できないことを自ら明らかにしたようなものです」(田岡俊次氏)
ミサイル防衛には今年度予算までに1兆5787億円が投じられている。ドブに捨てたようなものだが、官邸や防衛省は、さらなる増強に躍起。価格2倍のミサイル購入やイージス艦を増やしたり、ミサイル発射探知用に独自の静止衛星打ち上げの話まで出ている。
「国家財政に響くような大プロジェクトになりかねません。ミサイル防衛の効果や限界を国民に説明せずに巨額の予算をつぎ込むのでしょうか」(田岡俊次氏)
「特定秘密」を盾に“不都合な事実”を隠蔽してこれ以上、防衛費を膨らませるのは許されない。