2014年10月14日
特定秘密保護法の運用基準の閣議決定に関する見解
フォーラム平和・人権・環境
事務局長 藤本泰成
安倍内閣は10月14日、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(以下「運用基準」)およびその施工日を12月10日とする政令を閣議決定した。
昨年12月に強行された特定秘密保護法の成立以降、知る権利や取材活動の制限に危惧を抱く多くの市民、報道機関、労働組合等は、この「運用基準」について大きな関心をはらってきた。本年7月に示された「運用基準」の素案に対するパブリックコメントに、2万3820件近くよせられたことがそのことを示している。しかしながら、閣議決定された「運用基準」は、5年後の見直しなどにとどまるのみで、私たちの懸念を考慮したものとはなっていない。
秘密とするべき対象について、防衛、外交、特定有害活動、テロリズムの防止の4分野について、55の細目を列挙した。政府は特定秘密の範囲をより明確にしたと胸を張るが、自衛隊の情報収集・警戒監視活動、国際社会の平和と安全の確保、テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止などの曖昧な文言が並んでいる。結局、何を指定するかは政府の判断であり、市民社会は何が秘密に指定されているか知らされない。
私たちは、情報は市民の財産であると主張してきた、しかし、市民に知らされず半永久的に秘密にされる、または市民に知らされることなく廃棄される可能性も否定できない。市民社会への説明責任は「指定の情報の範囲が明確になるように努める」との努力義務規定になっているにすぎない。政府の恣意的運用の歯止めにはならない。
政府は、「情報保全諮問会議」への運用報告、「保全監視委員会」での運用改善の補佐、運用チェックにあたる第3者機関としての「独立公文書管理監」「情報保全管理室」を設置し「チェック体制は重層的」であるとしている。しかし、情報保全諮問会議の清水勉弁護士が「チェック体制は完璧ではない」と言うように、部外者を置かないチェック機関で何ができるのか疑問だ。市民の懸念に真摯に対応するなら秘密を指定する行政機関から完全に独立した公正な第3者機関が必要ではないか。
市民社会の知る権利についても、「運用基準」で十分配慮されたとは言えない。国際基準のツワネ原則はジャーナリストや市民を刑事罰の対象にしてはならないとしている。これは市民の知る権利や報道の自由を保障することで、国家権力を監視し、その暴走に歯止めをかけていくという立憲主義に連なる根本思想があるからだ。
運用基準では公益通報制度にあたる取扱者の通報制度が設けられてはいるが、特定秘密の内容の漏洩を防ぐものとして要約による通報が義務とされ、また行政内での通報を優先する規定となっている。これでは実効性があるとはとても言えない。漏洩に対する刑事罰は懲役10年以下とされ、要約を誤ると刑事罰の可能性すらある。取扱者は秘密の指定に疑問を感じても委縮してしまい、通報しようとすることは難しい。特定秘密指定が市民の権利や利益を侵害している場合であっても、白日の下にさらされる可能性は極めて低い。
また、民間業者や公務員が指定される情報取扱者の適正評価事項に対しても、人権侵害であるとのパブコメが寄せられているが今回の運用基準では無視されている。情報取扱者と指定された者は、長期にわたって情報保全の義務を負う。個人への重圧は高く極めて問題のあるものと言わざるを得ない。
特定秘密保護法は、多大な問題点と欠陥を残したまま、運用面で歯止めがかけられることもなく施行となる。時同じくして、10月8日に公表された日米ガイドラインの中間報告のなかで、「情報共有の強化」が打ち出されている。日本が、米軍と一体化して世界展開していく状況のなかで、この特定秘密保護法の施行は、日米軍事同盟の深化と戦争ができる国家体制づくりにとって不可欠のものだ。私たちは大きな危機感を抱く。
平和フォーラムは、特定秘密保護法の廃案をめざし、「戦争する国づくり」に反対し全力で闘う。