憲法理念の実現をめざす第53回大会(富山大会) 基調(案)

 

1.はじめに

戦後71年間、私たちは、平和憲法のもとで戦争を放棄し、また武器輸出や軍事研究など戦争に加担しない国づくりを目指してきました。

しかし、2012年4月27日に自民党の憲法改正草案が示されて以来、同年12月の特定秘密保護法制定や2014年7月の「集団的自衛権」行使容認の閣議決定が行われ、2015年9月19日には強行採決により集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法(戦争法)が成立しました。

この安全保障関連法(戦争法)の柱である集団的自衛権行使には、歴代の自民党政権や、衆議院憲法審査会に参考人出席した3人の憲法学者を含め、大多数の憲法学者が憲法違反の見解を示していました。さらに、世論の6割の反対と8割を超える「今決めるべきではない」と世論もその成立に反対していたにもかかわらず、こうした圧倒的な反対意見を踏みにじり、安倍政権は国会内の圧倒的数の力を背景になりふり構わず成立させたものです。

これまで日本がめざしてきた戦争しない国づくりから、いよいよ戦争ができる国づくりへと大きく舵が切られようとしています。

さらに、先の7月10日投開票で行われた第24回参議院議員選挙は、自公政権を中心とした改憲勢力が非改選議席と合わせ3分の2を占める結果となり、9月26日に開会した臨時国会の中で、安倍首相は改憲について「わが党の党是だ。当然今国会で努力する」「静かな場所で真剣に議論を」と発言し、憲法審査会で具体的な議論を始めることに強い意欲を示しています。

この間、私たちは平和憲法を守り広げることを運動の中心に据えながら、「戦争をさせない1000人委員会」や「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」のなかで大きな役割を果たすとともに、「市民連合」や「安保法制違憲訴訟の会」、さらには、超党派の議員連盟である「立憲フォーラム」や地方議員による「立憲ネット」など様々な団体との連携を広げ取り組みを展開してきましたが、いよいよ憲法「改正」をめぐり、巨大な安倍政権との正念場の闘いを迎えることになりました。

私たちは、これまで培ってきた団体との連携の強化、取り組みの強化をはかりながら、国民運動の先頭に立って、憲法「改正」を許さない闘いを進めていかなければなりません。

 

2.日米ガイドラインの改定に沿って安全保障関連法(戦争法)を成立させる

①18年ぶりのガイドラインの改定で日米の安保協力を拡大、

自衛隊による米軍支援をさらに広げる

2015年4月27日、日米両政府は防衛協力のための指針(ガイドライン)を改訂しました。

このガイドライン改訂は、2014年7月の「集団的自衛権」行使容認の閣議決定を受けて行われたもので、その内容は、「日米がアジア・太平洋を超えた地域で連携し、平時から有事まで切れ目なく対処する」こととなっています。そして、この改訂より、日本周辺以外での他国軍への給油などの後方支援を可能にするとともに、日本の防衛に重点を置いた日米協定から、地理的な制限を設けず国際貢献を可能とする協力体制が築かれるものとなっています。

そして、これを裏付けるため、その翌月の5月15日には集団的自衛権行使を認めた戦争法を国会に上程し、戦後の安保政策の転換を一段と進めることになりました。

まさに、戦争法の強行成立は、日米ガイドラインに沿って国内法を整備したものといえます。

②「日米共同統合演習」も戦争法の成立により変化

毎年秋以降行われる「日米共同統合演習」は実働演習を実施する予定であることから、「集団的自衛権」行使を想定した「米艦防護」や「米軍機への給油」などの訓練が新たに行われる可能性があり、まさに、米国の戦争に日本が追従し、「戦争ができる国」へと変質していくことを許すわけにはいきません。

③南スーダンへの次期PKO部隊の派遣から新任務が加わる

戦争法の成立により、PKO部隊の派遣も大きく変わろうとしています。

これまでの派遣は、PKO参加5原則に基づいて、人道的な国際救援活動や国際選挙監視活動でしたが、これまでなかった「宿営地の共同防衛」や「駆けつけ警護」が加わる他、武器使用基準においても、その目的が「生命及び身体の防衛」から「業務を妨害する行為を排除」に変更され、さらに「小型武器の使用」から「合理的に必要と判断される武器」となり武器使用基準が大きく変質することになりました。

現在、唯一PKO部隊が派遣されているのは南スーダンで、11月には交代時期を迎え、次期派遣部隊には陸上自衛隊第9師団第5普通科連隊が予定されています。

そして稲田朋美防衛大臣は、11月の派遣から戦争法に沿って新任を付与することを前提に訓練を行うことを表明しています。

既に防衛省では「今後武器使用の教育を最重視する」としており、「殺し殺される」状況に自衛隊を派遣させてはならないことはもちろんのこと、その状況を想定した訓練も行うべきではありません。

新任務を帯びた南スーダンでの自衛隊の派遣はもとより、憲法を逸脱した活動にも反対していかなければなりません。

 

3.安倍政権は、育鵬社の教科書採択や憲法改正の意見書採択運動をすすめる

「日本会議」の強い影響を受けた政権

①安倍内閣は「日本会議内閣」

一連の安倍政権の「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」とした姿勢に少なからず日本会議が影響を与えていることを見逃すわけにはいきません。

参議院選挙後8月3日に発足した内閣は、安倍首相を含む閣僚20人のうち、公明党の石井啓一国交相を除き全員が、「日本会議国会議員懇談会」「新道政治連盟国会議員懇談会」「みんなで靖国に参拝する国会議員の会」いずれかの議員連盟に所属しています。

この「日本会議」は、元号法制化運動・建国記念日制定運動を担った右派組織が前身となり1997年に発足しました。

この団体は、国旗国歌法制定、夫婦別姓反対、外国人参政権反対、教育基法改悪、愛国的教科書の採択、憲法改正のための国民投票法制定等の運動を展開していますが、現在は、重点課題に憲法改正を据えて国民運動として取り組んでいる極右団体です。

この「日本会議」による改憲運動は、憲法改正早期実現を求める地方議会での意見書採択(2015年1月現在25府県議会、36市区町村議会で採択)として進められてきましたが、注目すべきは、第2次安倍内閣成立後の2014年から一気に意見書採択の動きが加速し広まってきているのが特徴です。

また、日本会議が中心となり「美しい日本の憲法を作る国民の会」(主催した「1万人集会」には安倍首相から「憲法改正に向けて共に着実に歩みをすすめてまいりましょう」とのメッセージが贈られる)により、公然と憲法改正に向けた賛同署名活動が来るべき国民投票を視野に入れた取り組みとして進められており、意見書採択の動向と合わせて警戒していかなければなりません。

②国家主義的な育鵬社教科書の採択を進める日本会議

また、この日本会議の活動の特徴として育鵬社の教科書採択の運動もあります。

安倍首相は、育鵬社版歴史・公民教科書が「改正教育基本法の趣旨に最もかなっているのが育鵬社の教科書」と述べていますが、その内容は、歴史学の研究成果より偏狭な思想に基づく主張が優先され、日本国家や日本人の「優位性」をことさら強調したうえで、日本の植民地支配や侵略戦争を美化するものとなっています。

この間、「日本会議地方議員連盟」を中心にその採択に向けて各教育委員会に対して圧力が強められており、国家主義的な育鵬社教科書の採択率の増加に警戒を強めなければなりません。

 

4.戦後レジームからの脱却を訴え日本の近代史の再解釈を狙う歴史修正主義

安倍首相と言えば「美しい国」が有名ですが、さらに「戦後レジームからの脱却」という言葉をたびたび耳にします。

2015年結党60年をむかえた自民党は安倍首相の下で「戦争及び歴史認識検証委員会」を立ち上げ、東京裁判はもちろん、太平洋戦争、従軍慰安婦、南京大虐殺、GHQの占領政策、平和憲法成立過程などを検証しようとしています。そして、「戦争及び歴史認識検証委員会」の中で軍国主義的な侵略と戦争でつづられた日本の近代史を自分たちの見方で再解釈しようとしており、歴史修正主義そのものです。

この動きは植民地支配と侵略戦争の被害者である韓国や中国をはじめとしたアジアの国々はもちろん戦後体制の樹立を指導したアメリカも容認できないことであり、ニューヨーク・タイムズは「安倍氏の危険な歴史修正主義」と題する社説を掲載し、英フィナンシャル・タイムスも「歴史修正主義者」と批判するなど海外メディアは連日安倍首相に対する批判を繰り返しています。

敗戦国である日本は東京裁判の結果を受け入れる条件で国際社会に復帰することになりました。この歴史を改めて見直し再解釈する行為は、日本の戦争責任を認めたサンフランシスコ条約に基づいて成立した戦後体制と世界秩序を真っ向から否定するものに他なりません。

日本が世界に対して行うべきは歴史の修正ではなく、史実に基づいた歴史認識の表明と、侵略戦争や植民地支配に対する加害者としての責任の賠償であり、その中で各国との信頼関係を作り上げていくことです。

 

5.沖縄に自由、平等、人権、民主主義を取り戻そう

①一刻も早い普天間基地の返還と日米地位協定の抜本的見直しを

現在、74%の米軍基地が日本の0.6%の面積の沖縄に集中しています。そして、沖縄県民は、基地あるがゆえの事件・事故が多発するなど、過重な負担を負わされ続けています。

1995年の少女の暴行事件を契機に発足した日米特別行動委員会(SACO)で米軍普天間基地を5年ないし7年以内で日本に返還することが、1996年に合意されました。しかし、20年たった今も普天間基地は返還されず、今年の5月には、またしても元海兵隊員による女性暴行殺害事件が起きるなど、米軍関係者による凶悪犯罪も後を絶っていません。

また、普天間基地の返還とあわせ日本の主権が制限されている日米地位協定の抜本的見直しも強く求められてきましたが、協定そのものの見直しは行われず、運用の見直しにとどまっています。

昨年9月、翁長雄志沖縄県知事は、国連人権理事会で沖縄の自由、平等、人権、民主主義を求めて「沖縄の人びとの自己決定権がないがしろにされている」と世界に訴えています。戦後から続く沖縄への過重な基地負担と抜本的な地位協定の見直しにより、沖縄こそ戦後体制(レジーム)から一刻もはたく脱却させなければなりません。

②9月16日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)、翁長知事への不当判決。

沖縄への配慮は全くなく国の主張を全面的に追認する内容

辺野古新基地建設をめぐっては、15年10月13日、翁長雄志知事による仲井眞前知事の「辺野古埋立承認」の取り消し以降、国が翁長知事を訴えた代執行裁判で「和解」が成立し(2016年3月4日)、新基地建設は一時中断しました。

この和解は、福岡高裁那覇支部の和解勧告を国と県が受け入れ成立しましたが、和解勧告は、「本来あるべき姿は、沖縄を含めてオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。これにより米国が大幅な改革を含めて積極的に協力しようという契機となる。」という内容でした。

しかし、「最善の解決策」に向けた協議はなく、国はその3日後には、翁長知事に対して地方自治法に基づく「是正指示」を出し、これを不服として県は、国地方係争処理委員会に審査の申し出を行ないました。

6月17日、同委員会は、「是正指示」の適否は判断せず、国と県双方に、和解勧告同様の「普天間飛行場の返還という共通の目標に向け真摯に協議」を求め、県もこの判断に応じて「是正指示」の取り消しを求める訴訟は行わず、国との真摯な協議を求めていくこととしました。

しかし国は、国地方係争処理委員会の判断にも従わず実質的な協議を行なわず、7月22日に県が「是正指示」に従わないのは「県の不作為」だとして、「不作為の違法確認訴訟」を福岡高裁那覇支部に提訴し、辺野古新基地建設問題を巡る国と県の争いは、再び裁判での闘いとなりました。

9月16日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は、翁長知事が埋立て承認の取り消し撤回に応じないのは「違法」であるとして国側全面勝訴の不当な判決を言い渡しました。

そもそもこの訴訟は、仲井眞弘多前知事の「埋め立て承認」を県自らが否定し、取り消すことが認められるかどうかの法的手続きが争点でした。

しかし、判決は、新基地建設の妥当性にまで踏み込み、埋立承認を取り消したことには「日米間の信頼関係を破壊するもの」とまで言い切りました。また、先の参議院選挙で現職の沖縄担当大臣を破るなど、あらゆる選挙で示された辺野古新基地建設反対の民意についても、「反対する民意に沿わないとしても、基地負担軽減を求める民意に反するとは言えない」「普天間飛行場の被害を除去するには新施設を建設する以外にない」と述べ、県側の主張についてはすべて否定し、「辺野古が唯一」とする国の代弁者かと見紛うばかりに、国の主張を全面的に追認する不当な内容となっています。非政治的であるべき司法権の独立とは何なのか強い疑問を持たざるを得ません。

また、戦後70年以上たった今も、74%の米軍基地が沖縄に集中し過重な基地負担を負わされ、基地あるが故の事故や事件が後を絶たない沖縄に対する配慮があまりにもかけた判断であるとも指摘しなければなりません。

そして、裁判を担当する多見谷寿郎裁判長は、かつて国と県の和解勧告を提示した裁判官です。当時の勧告では、国と県との協議を求めるとともに1999年の地方治法の改正を引用し、国と県との関係に対等・協力の関係を求めており、自らの判決で自らの勧告を否定したもとなっています。

翁長知事は、この判決に激しい憤りを表すとともに、「長い長い闘いになろうかと思う。新基地は絶対に作らせないという信念を持ってこれからも頑張っていきたい」と表明しています。

最高裁に向けて、全国で闘いを強化していかなければなりません。

③7月11日、国はヘリパッド建設を強行着工。

辺野古と同じく東村・高江でも繰り返される機動隊による住民への暴力行為

7月11日、突然国は、米軍北部訓練場のヘリパッド建設に強制着工しました。この工事は、1996年のSACO合意で北部訓練場の一部返還の代替として、新たにヘリパッドを6か所作ることが日米間で合意されていたものですが、新しいヘリパッドでオスプレイが利用することについてはひた隠しにされていました。

既に完成しているN4地区(2ヵ所)のヘリパッドは米軍に先行提供され、オスプレイの離発着訓練等が繰り広げられており、日米合意違反の夜間10時以降の飛行訓練も行われ騒音問題となっています。N1地区(2ヵ所)の強制着工にあたっては、警視庁をはじめとする全国から500人規模の機動隊を動員し抗議する市民に暴力を加え排除するとともに、県道を長時間にわたって封鎖し、工事資材等を運搬する大型ダンプを先導しています。

一方、世界は今、「自然と共生する社会」の実現に向け進み始め、日本も生物多様性条約を締結し2008年に「生物多様性基本法」、2012年には「生物多様性国家戦略」を制定し、それに沿って、沖縄でも2013年に「生物多様性おきなわ戦略」がつくられました。

この計画は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する計画で沖縄の未来を創る素晴らしい計画です。

しかし、ヘリパッド建設の名のもとに、生物多様性に富み、希少種が多く、現在世界遺産への登録も目指している「やんばるの森」は、オスプレイが飛び交い、伐採手続きを経ずに木々を切り倒す違法行為すらまかり通っています。まさに、「生物多様性おきなわ戦略」を否定するもの以外の何物でもありません。

また、この東村・高江で繰り返される国の横暴は、辺野古新基地建設で示された国の姿勢と全く同じものです。

辺野古でも、機動隊を導入した市民への激しい暴力行為が連日行われました。さらに、個人を名乗った沖縄防衛局の行政不服審査請求や、1999年の地方自治法改正以来、国と地方自治体の関係が垂直的な関係から水平的な関係に大転換されたことに無理解な国の代執行訴訟に対し、多くの行政法学者が政府の手法を適法でないと指摘するとともに、翁長知事は「訴権の濫用」と厳しく批判しています。

このように、戦争法成立と同様に、辺野古新基地建設においても、沖縄の民意も顧みず、法を乱用し基地建設に向けた手続きや工事をやみくもに進める。まさに法治国家、民主主義国家の破壊そのものであります。

そして、この沖縄の姿は日本の映し鏡であり、辺野古問題を私たち自身が自らの課題として取り組むことが今後強く求められてきていると思います。

 

6.2017年度概算要求で膨らむ防衛省予算。

「安全保障技術研究推進制度」など軍事研究への助成額は3年で30倍以上に

①2017年度概算要求で過去最大を記録した防衛費

防衛省は2017年度予算の概算要求で、過去最大となった今年度の防衛予算を1100億円以上上回る5兆1685億円を計上することとしていますが、歯止めない防衛費の増大は、市民の暮らしに直結する社会保障関連予算の削減につながりかねず、国会における予算審議に注視していく必要があります。

この防衛費の増大要因は、戦争法の新しい任務に対応できる新型兵器の取得を盛り込んだことや、新今年に入って北朝鮮による相次ぐミサイルの発射実験および、中国の海洋進出に対抗するためのものとの説明ですが、新型潜水艦(760億円)、F35戦闘機(6機946億円)、オスプレイ(4機393億円)、空中給油機(318億円)、無人偵察機グローバルホーク(173億円)などとであり、奄美大島や宮古島への南西警備部隊配置費用(746億円)も盛り込まれています。

②「安全保障技術研究推進制度」予算が異常に拡大。進む軍学共同体制

また、「安全保障技術研究推進制度」予算が比率としては著しく拡大しています。

この制度は軍事に応用可能な大学や独立行政法人の基礎研究に助成する防衛省の制度で、2015年度に3億円の助成総額で新設され、2016年度は6億円に拡大してきたものです。

今回の2017年度予算に向けては自民党国防部会で100億円に引き上げることを防衛大臣に要請することとなり、その結果、31日に発表された概算要求では110億円に拡大されています。

こうした軍事研究を後押しする制度に対し、学術会議は、「科学者が戦争に協力した反省から、戦後2度にわたって「戦争目的の軍事研究はしない」とする声明を決議してきました。

確かに、学術会議のなかでも、「基礎的な研究開発は許容されるべき」「平和を守るため抑止力を強化する」との考えも一部にはありますが、一方では、軍学共同に異を唱える大学も多くあり、「軍事への関与を目的とする研究は行わない」(新潟大学)、「軍事研究の資金は受け付けない」(京都大学)という申し合わせが行われています。

防衛省資金に対する学術研究への助成に強い警戒感を持つとともに、軍事と学術研究の一体化に警鐘を鳴らし始めなければなりません。

③宇宙関連経費として1289億円が計上

さらに、概算要求では、宇宙の軍事開発にも重点が置かれ、宇宙関連経費として、2020年までに軍事衛星3基の打ち上げ計画など1289億円が計上されています。

この増額の背景には、「宇宙の平和利用について」大きな転換があり、1968年の「宇宙開発は平和利用に限定される」とした国会決議や、2002年施行の「独立行政法人宇宙航空研究開発機構」(JAXA)法も「平和目的に限定」と定めていたものが、2012年にこの一文が削除され軍事利用に道が開かれることとなりました。

第二次安倍政権以降防衛費は増加傾向に転じており「青天井」ともいわれる防衛費の拡大に歯止めをかけなければなりません。

 

7.憲法の平和主義に逆行、軍需産業の育成に乗り出す安倍政権

①武器輸出三原則を撤廃し防衛装備移転三原則を決定。

武器ではなく、武器輸出三原則こそ世界に輸出すべき

ここ数年、軍需産業を育成して経済危機を乗り切ろうとする動きが活発化してきています。

2009年の経団連の「わが国の防衛産業政策の確立に向けた提言」では、国内経済が行き詰まる中で、軍需産業を1つの産業部門として成り立つようにし国際競争力を持った産業への育成が求められています。

とりわけ政府に対しては、予算の確保と投資を求める一方、「武器輸出三原則の見直しによる国際共同研究開発」の実行が求められ、これを受け2013年の参議院選挙が終わるや否や安倍首相は「武器輸出三原則の抜本的な見直しの議論を始める」とし、2014年4月には武器輸出三原則を撤廃、新たに「防衛装備移転三原則」を決定し、武器輸出や他国との共同研究が自由化されることになりました。

そもそも、武器輸出三原則は、これまで他国が武力を保持することに日本が加担しないことを決めた原則で、日本経済が生産と武器の輸出に依存しないように歯止めをかけ、武器に対する日本経済の常習性(依存度)を低くとどめる効果をもった原則でした。

この武器輸出三原則については、1967年の佐藤首相の答弁により最初に定義づけられ1976年三木武夫政権で補強されるなど国会での議論を経て、1981年日本国憲法を根拠に三原則の国会決議も行われました。

また、この国会決議は、「我が国は、日本国憲法の理念である平和国家としての立場を踏まえ、武器輸出三原則並びに昭和51年政府統一方針に基づいて武器輸出について慎重に対処してきた」として、憲法の平和主義に基づき、衆参両院で国会の総意として可決されたものです。国民的議論や国会審議がほとんどなく、一内閣の閣議決定で変更できるものではありません。

その後14年6月には、防衛省は武器輸出を前提に、「防衛生産・技術基盤戦略」を策定し、大学や民間機関の防衛技術への取り込みを進め、2015年10月には武器輸出や武器の開発・生産、調達などを担う防衛装備庁が新設されましたが、この防衛装備庁により日本の産軍複合体が強められていくことを警戒しなければなりません。

戦後、日本は、憲法9条のもと、平和主義を掲げ戦争に加担しない国づくりをめざしてきました。しかし、武器輸出の国策化はこの流れに明らかに逆行するものです。

武器禁輸政策は、世界に例のない貴重で先進的な原則でした。本来なら、武器の代わりに武器輸出三原則こそ世界に輸出し広めるべきではないでしょうか。

②防衛省や「国際協力銀行」による武器輸出の支援。

日本製の武器で人が殺されるという現実が目の前に

一方、2015年7月には防衛省の後押しで、横浜で国内初の大規模な兵器展示会が開催され、日本かから海上自衛隊と共に20社が参加しました。さらに、2017年5月には幕張メッセで2回目の展示会が予定されています。このように近隣諸国の紛争を日本のビジネスチャンスにするなど許すわけにはいきません。

しかし、現時点では、武器輸出といっても日本の場合、欧米の軍需産業に比べ対等に競争できる水準ではありません。そのため、日本経団連などは政府系金融機関の「国際協力銀行」の支援など優遇処置を講じるよう政府に求めています。

具体的には、武器を輸入する側への低利融資と海外で武器を作る合弁会社や現地法人への出資が検討されており、実現すれば武器輸出の後押しとなることは明らかです。

戦後、日本は、憲法の平和主義に基づいて戦争に加わることはありませんでした。そして、武器を輸出しない、「死の商人」にはならないとする日本のモラルはその象徴でもありました。

また、日本製の武器によって人が殺されるということが現実となればその被害をこうむった国や人たちは当然日本を敵国とみなすことにもなりかねません。

安倍政権は、武器輸出を「防衛装備移転」という言葉でごまかそうとしていますが、ほんの少し想像力を働かせてみればその先に人が殺される光景を思い浮かべることは容易なはずです。

 

8.原発再稼働を許さず、今こそ脱原発社会に向けた政策転換を

①アメリカの核先制不使用宣言に日本が抵抗

9月5日、ニューヨーク・タイムズ紙は、同盟国の懸念のため「オバマ、核兵器の先制使用の宣言はしない」と報じました。

この内容は、日本の報道には触れられていませんが、記事は、ケリー国務長官が「米国の傘の核のいかなる縮小も日本を不安にさせ、独自核武装に向かわせるかもしれないと主張した」と述べ、このことが、核先制不使用宣言を断念する一因となっているとしています。

このように、日本の核先制不使用に反対する姿勢が「核のない世界」に向けた一歩を拒み、核軍縮に抵抗しているといえます。

また、8月19日、国連核軍縮作業部会は、核兵器禁止条約の交渉を2017年から始めるよう勧告する報告書を賛成68、反対22、棄権13で採択しましたが、この採択に日本は棄権し大きな話題となりました。

そもそも、日本は核の先制不使用反対の立場であり、日本が核兵器禁止条約制定に向けて積極的役割を果たそうとするわけがないことは自明です。

原水禁は、政府にあてた公開書簡で、米国が核の先制不使用を採択しても日本は決して核武装しないと宣言し、さらに先生核不使用政策を支持するよう要請しています。引き続き、オバマ大統領の残りの任期にも働きかけを継続していかなければなりません。

②本格的な原発推進路線に立ち返ろうとする安倍政権

福島原発事故から5年半が経過しましたが、いまだに9万人近い被災者が避難生活を余儀なくされ、子供たちの甲状腺問題、原発労働者の被曝、中間貯蔵施設や帰還と保障の打ち切りなど課題は山積しています。

一方、多くの国民は脱原発社会を求め、再生可能エネルギーへの転換を求めています。しかし、政府はこうした声を無視して2015年8月11日には川内原発を再稼働させました。

また、これに続き、福井県・高浜原発では、林経済産業大臣と西川福井県知事が会談し、事故対策や廃炉などの課題について、「国が責任を持って取り組む」と説明、2016年1月29日には福井県・高浜原発が再稼働し、さらに、愛媛県・伊方原発においても、安倍首相が原子力防災会議の席上で「伊方原発で重大事故が起きた際には責任をもって政府が対処する」と発言し、この発言を背景に、70%の県民の反対を押し切り10月27日、中村知事が再稼働に同意し、8月12日、3号機が再稼働しました。

さらに、現在、再稼働に向けて、原子力規制委員会で新規制基準に基づいて21発電所28基の審査が行われていますが、この中で、老朽原発を活用しようとする流れが定着しようとしています。

かつて、福島第一原発事故後、原発の老朽化によるリスクを低減させるため、原発の運転期間を原則40年とする原子炉等規制法が改正されましたが、40年という原則が形骸化され、60年間の運転継続がされようとしています。高浜原発1,2号機は今年6月に認可を得ましたが、これに続き美浜原発3号機も10月5日の原子力規制委員会で適合する見通しです。

このように、安倍政権は、2030年度の電力供給における原発比率を20~22%にする計画を掲げるなど、いよいよ本格的に原発推進路線へ立ち返ろうとしており、脱原発社会を求める多くの国民の声とは真逆の方向へ進もうとしています。

③進む原子力技術の輸出。原発輸出を成長戦略と位置付け推進する政府。

未来の成長産業は再生可能エネルギー

日本では、福島の事故処理も進まず、また、国内での原発建設は福島第1原発事故以降困難となる中、安倍首相自らが原発を成長戦略と位置付け国外へのセールスに力を注いできました。しかし、原子力規制委員会が相手国の制度をチェックするような仕組みはなく、重大事故の賠償責任や使用済み核燃料の処分先など国内で解決されていない課題を相手国に押しつけることにもなりかねません。

一方、政府は、日印協定の締結により核保有国インドに原発を輸出しようとしています。

インドは核拡散防止条約の枠組みにはいらず核兵器を開発・保有しているため、日本はこれまでのインドとの交渉でCTBT(包括的核実験禁止条約)の早期締結やプルトニウムの軍事転用を行わないことを求めてきました。

しかし、この交渉ではCTBTの締結や核兵器への転換をしないことについて不確実なままであり、さらに、長い争いが続いてきたパキスタンとの緊張がさらに高まることにも警戒しなければなりません。

また、世界銀行は、原発はリスクが未知数なため投資の対象にはしないと決定する一方、火力発電のCO2排出量を制限するとともに、再生可能エネルギーへの転換を推奨しています。このことからも、日本の本来の使命は、原発輸出に奔走するのではなく、福島の原発事故の反省や被爆国としての経験をもとに、再生可能エネルギーへの転換や世界の反核運動を推し進めることにあるはずです。

④核燃料サイクルの中心施設である「もんじゅ」廃炉の方向か。

脱原発社会に向けて原発政策の抜本的な見直しを

一方、3月9日の大津地裁の稼働中の高浜原発の運転差し止めの仮処分決定や、三反園鹿児島県知事の川内原発の停止要請など、司法や行政による原子力発電への警鐘もならされ始めています。

さらに、10月16日投開票で行われた新潟県知事選挙は、原発再稼働反対の民意を背景に、再稼働に慎重な米山隆一氏が与党の原発推進候補を約6万票の大差で破る結果となりました。

そして、9月21日、政府は関係閣僚会議を開催し「もんじゅ」について「廃炉を含め抜本的な見直しを行う」としました。

しかし、一方で、核燃サイクルは維持し、新設の「高速炉開発会議」で年末までに今後の方針を出すとしています。

この「もんじゅ」はかつて「夢の原子炉」といわれ、日本の核燃料サイクル計画の中核的な存在でしたが、1995年暮れに事故を起こして以来今日までほとんど発電ができず、これまでその維持に1兆円以上出資されてきた「悪夢の原子炉」であり、廃炉の判断そのものが遅すぎたと言わざるを得ません。

政府は、今後はフランスとの共同研究や高速炉「アストリッド」を軸に今後の高速炉計画をつくるとしていますが、机上の計画でまだ基本設計段階であり、運転開始目標も2030年代と先になっているなど実現性に大きな疑問を持たざるを得ないものです。

また、「もんじゅ」の廃炉はこれまで進めてきた核燃料サイクルの破綻以外の何物でもなく、廃炉を契機に、脱原発社会の実現に向けて原発政策の抜本的な見直しこそいま求められています。

 

9.民主教育をすすめるとりくみ

2016年度以降の小・中学校用教科書採択において、市内全域を一採択地区とした大阪市は、育鵬社版歴史・公民教科書を採択し、生徒数の多い横浜市も含めて、育鵬社版歴史・公民教科書の採択率は、中学校用公民では前回の約1.4倍の5.7%、中学校用歴史で約1.6倍6.3%となり、大きく伸びることとなりました。

しかし、大阪市の育鵬社版の採択に大きな影響を与えたとする市民アンケートは、その実施において、岸和田市に本拠を置く「フジ住宅」による不正が行われていたことが育鵬社版の採択確定後に発覚しました。

その後、「フジ住宅」の社員の1人が大阪地裁に訴えた公判で、育鵬社及び日本教育再生機構が、フジ住宅今井会長と綿密な連絡を取り合いながら、不正な採択運動に手を貸していたことが明らかになっています。

また、育鵬社版採択で中心的役割を担った高尾元久教育委員は、育鵬社版教科書の印刷を引き受ける印刷会社役員を務めるなどきわめて育鵬社に近い人物であり、採択に関係することは、文科省による「教科書の採択に関する宣伝行為等について(文科省通知)」の指導に抵触するものと考えられます。

3月8日、馳浩文科大臣(当時)は「育鵬社には猛省を促したい。市教委から協力の申し出があれば、事実関係の確認など必要な対応を取る」と述べるとともに、教科書無償化措置法の施行規則(省令)を改正し「不公正な行為が反映した場合、教科書の選定をやり直すことができる」とすることを提起していますが、今回の大阪市の不正には適用されません。

今後、大阪市の第三者委員会による真相調査を注視していくとともに、政権の意図に偏った恣意的な教科書検定の実態を明確にし、バランスのとれた教科書の記述内容を求めて取り組みを進めていかなければなりません。

また、2018年度から教科化される道徳について、昨年7月に示された「小・中学校学習指導要領解説」では、愛国心のみならず、家族主義や公共心や奉仕・勤労の強調、長幼の序の強制など、近代社会の基本である「個人主義」を基本にした人権尊重のあり方において問題となる内容が多く、自民党の憲法改正草案に記載される「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」との規定に合わせたものとなっています。

「修身」などの復活、復興的家族主義、国家主義的教育を許さない取り組みを展開するとともに、自民党改憲草案の意図を基本にした教育改革を阻まなくてはなりません。

 

10.東アジアとの連帯と日朝関係の改善

東アジアの情勢はますます混迷と軍事的緊張を強めています。

9月9日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、「北朝鮮」)は、9月5日の弾道ミサイルの発射に続き、5回目の核実験を行い、これに対し、国連安保理事会は10日に核実験が安保理決議の明白な違反だと非難する声明を発表しました。

しかし、北朝鮮の軍事的挑発の背景に、日米韓3国による合同軍事演習と軍事同盟の強化があることを見逃してはなりません。

また、北朝鮮の弾道ミサイルに対し、米韓両国は、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を韓国国内へ配備しましたが、このことが中国との関係に摩擦を生み、さらに事態を混とんとさせています。

東アジアにおける軍事的緊張を緩和するためには、北朝鮮の核実験を直ちに中止することはもちろんですが、米国が朝鮮戦争の休戦協定から平和協定を締結し戦争状態を解消するとともに、北朝鮮に対する制裁・軍事的挑発を直ちに中断し、対話による解決に乗り出すことが第一です。そして、中断された六か国協議や米朝協議を再開させること、さらに、私たちには、韓国をはじめとする様ざまな平和団体との連携強化が東アジアの平和と安定のために求められています。

一方、日本国内では、朝鮮学校に対する差別が深刻化しています。

3月29日、文科省は「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」通知し、そのため、2016年度予算に補助金を計上していた自治体の多くがその支出に躊躇する結果となっています。

現在全国5つの朝鮮高校が「高校授業料無償化」制度から朝鮮学校が除外されていることは違法であるとして国を提訴し裁判闘争を行っています。また大阪では朝鮮学校に対する補助金を不支給とした行政処分の取り消しと交付の義務付けを求める裁判も進行中です(2017年1月26日に判決予定)。

今後も国内外における運動の連携・交流をさらに拡大させながら、裁判闘争への支援と合わせ「無償化」の適用や補助金支給を求めて取り組みをすすめなければなりません。

 

11.TPP交渉など貿易自由化に対するとりくみ

環太平洋経済連携協定(TPP)について、安倍内閣は、先の通常国会での協定の批准と関連法案(11法案一括)の承認・成立を断念し、今臨時国会に先送りしました。

先の通常国会では、政府は交渉内容については「守秘義務契約」を盾に、情報公開を拒み続け、日本がこれまで結んだ自由貿易協定(FTA)や世界貿易機関(WTO)の交渉でも、これほど内容が明らかにされないことはなく、TPPの異常さが際立ちました。

一方、日本以外のTPP交渉参加国でも、TPP協定の発効に必要な国内手続きは遅れ、アメリカやカナダ、チリ、メキシコ、ペルーなどの多くの国では、まだ国会審議の見通しさえ立っていません。特にアメリカは、11月に大統領選挙を控えており、それまでの承認の可能性はなくなっています。

アメリカでは政府機関がTPP協定の経済分析を行い、国内総生産(GDP)は、15年かけてわずか0.15%しか増加しないと予想されています。一方、米マサチューセッツ州タフツ大学の世界開発環境研究所が行った分析では、発効後10年間で、アメリカの国内総生産は0.54%のマイナスで雇用は44.8万人の減少、日本も同様にGDPは0.12%落ち込み、7万4千人の雇用が喪失するとしています。雇用はTPPに参加する12ヵ国すべてで減少し、労働分配率が低下して格差がさらに拡大すると指摘しています。日本政府は、TPPによってGDPが2.6%(13.6兆円)増加し、80万人の雇用が生まれるとしていますが、根拠も期間も明確でなく、その欺瞞性が指摘されています。

また、国会決議との整合性、農産物自由化や食の安全、金融、サ-ビス貿易、投資、医療・医薬品、政府調達、国有企業、地域経済・中小企業への影響など、TPP協定の内容についても多くの問題点が指摘されています。臨時国会において、情報隠しをする政府の姿勢を追及するとともに、協定内容の問題性を訴え、批准の阻止に向けた運動が一段と重要になっています。

さらに、TPPの「合意」において食の安全性についても問題点が指摘されています。

食の安全に関わる「衛生植物・検疫措置の適用に関する協定」(SPS協定)や、「貿易の技術的障害に関する協定」(TBT協定)が、貿易優先の協定であることの問題点が指摘されています。これらの協定では、日本の食品などに対する規制基準や表示ルールが、緩い国際基準や輸出国の基準にとって代わられることが危惧されています。

すでに、日米協議によって、添加物の指定や残留農薬基準などが変えられてきているものも多く、TPPはさらなる規制緩和につながる危険性があり、関係消費者団体などとともに問題点を追及していかなければなりません。

 

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